第八十三話 宣戦布告をしよう

 男達は忌々しそうな顔をしながら兵士の報告を聞いていた。

 小太りの男と禿げ上がった男だ、禿上がった男はこの国の大臣で小太りの男が勇者であった。

 そして兵士の報告は男たちの予想にはなく、二人の顔を見ればわかるように計画がうまくいっていないようだった。


「くそ! 計画の前倒しをしていたところ、さらに前倒しにしろというのか?」

「お前は戦争に行かないから、いいだろうが」


 小太りの男が前倒しを嘆いている男に対してそういった。


「まったく、魔王様とやらも面倒なことをしてくれたな」

「この報告を見ると。あの馬鹿の暴走のせいで、同盟が成功したようだな」

「センネルのバカを放置したのは失敗だったな」


 悪態をつきつつも男二人は兵士たちに指示を出していく。


「サルジーンの兵のゾンビ化はどうなってる?」


 小太りの男が兵士に声をかける。


「は! 七割がた終了しております」

「七割か……ま、なんとかなる数字だな」


 小太りの男は何かを考えだした。

 大臣は男の考えがまとまるのを待ってた。そして数分後、考えのまとまった男は大臣に言った。


「戦争だな、急いで準備しろ。来週には仕掛ける」


 男の言葉に大臣は目を見開く。


「なんだと? 予定を一か月半も早めるというのか?」

「仕方ないだろ、センネルのバカがやっちまって魔王と王国が手を組んだんだ。流石に俺が勇者でも王国と魔王領同時に相手はキツイぞ。しかも時間をかければかけるほど連携を取られちまうし、せっかく焼いてくれた街が元に戻っちまう」

「たしかに……な。仕方ないか」


 大臣も納得はできなくとも理解はできてるようであった。


「俺も戦の準備をするかな」

「では、儂も準備を進めるかな」


 小太りの男と大臣が覚悟を決めたところで、小太りの男が大臣に質問をしていた。


「降霊魔法はどうなってる? 流石にアレ以上は無理か?」

「魔王の方は適正率七割で盾の方は六割だな。これ以上になるとさらなる適正持ちを探すか時間をかける必要がある」

「なるほどな。まあ、仕方ないか」

「うむ、無いものねだりばかりしていても仕方あるまい」


 そう言い男たちは準備にとりかかる。


 ――

 ――――


 準備開始から一週間がたった日。


「まあ、時間を考えれば十分な戦力だな」

「かなり急造な部分があるがな」

「国王はどうなさっている?」

「相も変わらず、女遊びだ。今はサルジーンの王妃に夢中だ」

「ハハ、サルジーンの王妃って……確かに美人ではあるがもう良い歳だろ」


 小太りの男は苦笑いを浮かべながら大臣の答えに返した。


「国王もあの歳ですでに人妻の熟女趣味か、この国は安泰だなぁ」

「笑えない冗談だな」


 大臣は呆れた顔でつぶやいた。

 これから戦争を開始しようとする者としては随分と、お茶ら桁雰囲気であった。


 ――

 ――――


 小太りの男は兵士たちの前に出ると、兵士たちを鼓舞しだした。


「これより戦が始まる」


 小太りの男が言葉を発すると場の空気が一気に変わった、そして兵士たちは姿勢を正し男の言葉に耳を傾けている。


「我々は正義の名のもとに、魔王とそれに与する王国を討つ! エルハリス王国を見よ、大国でありながら今まさに魔王の甘言に乗り手を組もうとしている、これは周辺の小国にとっては由々しき問題である。このエルハリスの愚行を誰が止めれるというのか?」


 小太りの男は兵士たちを見回す、そして大げさに両手を広げ言い放つ。


「勇者である私『園田翔ショウ・ソノダ』がいる。その私を擁する正義の執行者たるこの国を置いておるまい? そう思わないか?」

「は! 我らチヨルカンしかおりません!!」


 ショウと名乗った男に尋ねられた兵士が大きな声で答えた。ショウは満足そうな顔で頷いた。


「そう、我々が正義の執行者だ。私だけではない、君たちも選ばれた者たちなのだ! これより相手するは巨大な敵であるが臆するな、お前たちには勇者である私がついている」


 兵士たちに緊張が走った。ショウは続ける。


「しかし! これは戦争だ、多くの者が散っていくであろう。だが安心しろ、これは聖戦だ散った者もきっとヴァルハラへと往くことができるであろう! 兵士諸君我々はこれより正義を執行する! 見せてやれ! 愚かな王国と魔王に我らチヨルカンの正義を!」


 兵士達は一瞬疑問符を浮かべたが一瞬の間を置き歓声を上げる。

 歓声の中ショウの視線は明後日の方向に向き、冷や汗を一筋流していた。


(しまったなぁ、ヴァルハラとかこの世界の住人が知ってるわけねぇじゃん……)


「うまく士気を上げたな。ところでヴァルハラとはどこだ?」

「俺の世界にある神話の戦士の魂が集う場所だよ」


 大臣の疑問に男は少しぶっきらぼうに答えた。

 そして、ショウは兵士たちの少し後ろにいる四人の男の元へと向かった。

 ショウが目の前に来ると四人は姿勢を正した。


「ガクザン、ソンジン、アスト、ルーツ。お前たち四人には期待しているからな」

「は! ご期待に沿えるよう全力を尽くします!」


 四人を代表しガクザンが答えた。


劉岳暫リュウ・ガクザンにイ・ソンジン……こいつら本当に喉に良さそうな名前だな)


 ガクザンたち四人は緊張した様子だが、ショウはそんな彼等の緊張感をよそにどうでもいいことを考えていた。

 ショウは四人と挨拶を交わした後、本格的な宣戦布告をエルハリス王国とテル・ファーレ魔王国に宣言した。


 ショウは大臣の元に向かい言った。


「さあ、我らの野望を開始しよう」


 ショウの言葉に大臣が頷くと、兵士がやってきた。


「ほ、報告します!」

「どうした?」


 兵士にショウガ尋ねると兵士は報告した。


「ソースフェールが暴走しゾンビ兵が逃げ出してしまいました!」

「なんだってー! 急いで捕まえろ! なんでそういうオチを持ってくるかなー!」


 ――

 ――――


 このゾンビ逃亡事件のせいで、宣戦布告から一週間遅れての進軍になるのであった……

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