第七十七話 イマナラトクテンイパイヨー

 

「まず、魔王領と同盟を結んでいただけるなら。マウナさんがおっしゃったとおり復興支援はさせていただきます。同盟国となれば商人達の行き来もし易くなると思います、そしてそのための道は魔王領で受け持ちますわ」

「確かに、両国が潤うのは好ましいな」

「ええ、我が国の名産の醤油や味噌は絶品ですわよ。そして今は石鹸の開発にも着手しておりますわ」


 石鹸はぶっちゃけ構想だけなんですけどね……


「しかし、それだけでは同盟を結ぶにはちと弱いと思うのだが」


 ですよねー。


「では、これはどうでしょう? ガリアスさんがさきほど申した通り、センネルの後ろにいるのはおそらくチヨルカンですわ、小国ですが勇者を擁する危険な国家ですわね」

「確かに奴等が全力で攻め込んできたなら我が国も無事では済むまい」

「ええ、幸いチヨルカンは我が魔王領を問題視しておりません。我が魔王領を簡単に制圧できる、もしくは素通りできると考えておりますわね」


 周囲の者が数名息をのみますわね。勇者はそれほどまでに強力な存在のようですわね。


「そこで我が国と同盟を組んでいただけるなら。我が魔王領はチヨルカン侵攻の際に防波堤となりましょう」

「確かに魔王領との同盟にデメリットは無いな」

「ええ、特典いっぱいですわよ」


 王様は腕組みをして考えますわね。

 まずは、前向きに検討させる所まで持っていければ良いでしょう。


「よし、では同盟を結ぶとしようではないか」

「ええ、よく考えてくださっても……はい?」


 今、何とおっしゃいました?


「ははは、すまぬな。お主たちが街を命がけで救ってくれたのだ。その者たちが治める国ならば何も問題は無かろう」


 なんかあっさり同盟成立ですわね……色々説得材料考えておりましたので拍子抜けですわね。


「やりましたね! マナカさん!」


 マウナさんがワタクシに抱きついてきます、マウナさんの汗の匂いがしましたわ、んーフローラル!


「詳しい事はまた後日にでも決めるとしよう。今日はこの後、宴を用意しているので皆で参加して行ってくれ」

「はい、エルハリス王を感謝します!」


 この後も王様と話をして、一度解散となりました。

 同盟あっさり組めちゃったのは大きな進歩ですわー。


 ――

 ――――


 ひょろっとした初老の男が唸っていた。

 ここはセンネル低の一室。私兵の報告を受けたゲオルグ・センネルは忌々しそうな表情で頭を抱えていた。


「あのバカ共め! 行動を起こすのが早すぎる。これでは計画が台無しではないか……しかも私の事をばらしたという話ではないか……」


 そうぼやくとワインの入ったグラスを手に取りぐいっとあおった。


(さて、どうにかせねばならんぞ。このままでは奴等に殺されるか王国兵に捕まってしまう、何か考えねば……)


 落ち着かない様子のゲオルグ、部屋をグルグルと周りはじめた。


(いっそ先手を打ち冒険者と我が私兵のみで王都を強襲し攻め落とすか? それしか助かる道はないかもしれんな)


 頷き覚悟を決めた顔になるゲオルグであった。


「誰か! 誰かおらぬか!」


 ゲオルグが呼ぼうが誰も来る気配は無かった、いつもなら近くに見張りの兵がいるはずなのにと不振に思っていたところ、ドアが開く音がした。


「なんだ、誰かいるではないか」


 ゲオルグはそう言うと入って来た者を見る。


「な、お前たちは……」


 普段いる兵士ではなく黒装束の男が三人立っていた


「全く、余計な仕事を増やしてくれる」


 真ん中にいる男が口を開いた。

 三人の男がゲオルグを見据えている、その雰囲気はあくまで冷たいものであった。


「ま、まて。アレは私が指示したわけではないんだ!」


 ゲオルグが後ずさる、しかし後ずさった分だけ男たちが距離を詰める。


「そんな事はどっちでもいいんだ。お前がちゃんと管理していれば問題は無かったんだからな」


 真ん中の男と左右の男が懐から短剣を取り出した。

 徐々ににじりよる男達、彼らをどうにかせねばと考えを巡らせているがゲオルグにはなすすべがなかった。


「くそ! ここまで来て……ここまで来て。息子の死すら利用したのに」

「それはこちらも同じだ、ここまで手を貸してやったのにな」

「お前たち小国が私の助力失くしてこの国に勝てるとでも思っているのか?」


 ゲオルグの訴えを意に介した様子の無い三名にゲオルグは焦っていた。


「勇者の存在を甘く見ない方がいい、そしてあの術はほぼ完成しているんでな」

「くそー!」


 男たちの言葉を聞いたゲオルグは無謀にも拳を握り男達に殴りかかっていった。


「愚かな奴だ」


 左右にいた男二名が離れる。真ん中の男はゲオルグの拳を避け足を引っかけると、ゲオルグの延髄部分に短剣を突き立てた。


「ぐが!」


 ゲオルグが呻くとそのまま倒れこんだ。


「愚かな男だ」


 男たちは素早くゲオルグの死を確認する、すると三名は頷き合い闇の中へと消えていった。

 そして、しばらくして王国の兵士がゲオルグ逮捕のためにゲオルグ邸を尋ねたときに死体が発見されることとなった。


 ゲオルグ・センネルの暗殺は瞬く間に王国中に知れ渡る事となった。

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