第十二話 仲間が増えました……わー……

 

 さてさて、女騎士か女戦士っぽい方は見当たりませんが? 女武闘家でしょうか? とにかくブレンダさんに言われた席に向かいますわ……あれ? 見当たりませんわね前衛っぽい女性は?

 

「マウナさん、前衛職っぽい女性見当たりませんわよね?」

「そうですね、指定された席ってあそこですよね?」

 

 ワタクシはマウナさんが指さした席を見ますわ……見間違いでしょうか? そこに座っているのは美少女でも美女でもなくソフトモヒカンの大柄なオッサンでしたわ……筋肉モリモリのマッシブオヤジですわ女ですらありませんのよ。

 

 マウナさんも首をかしげてますわね、あの条件で何故オッサンが来るのか謎で仕方ありませんものね。そう思っているとオッサンはワタクシ達を見つけて手を振っていますわ。


 いや、実はワタクシの後ろにオッサンの知り合いがいるにきまってますわ。

 ワタクシは希望を胸に後ろを確認しますが……誰もいませんわね、どうやら完全にあの席で間違いないようですわね。

 

「あそこの席で合ってるみたいですよ」

「みたいですわね」

 

 無視すると何かされそうで怖いのでオッサンの所に向かうといたします、オッサンの近くまで行くとオッサンは席を立ち体をくねらせながら。

 

「貴女がマナカちゃんね、いやーんお人形さんみたいに可愛いわー」

 

 まさか、まさかとは思いますが。オネェ口調という事はそっちの人ですわね!

 

「くあー! そっち系の人でしたのねぇ!!」

「す、凄い人来ましたね」

 

 ワタクシつい叫んでしまいました、周りの方の視線が今回は痛いですわ。

 ただワタクシの方を見ていた周りの方がオネェオヤジを見て噂していますわ「まさか、ベノワが復帰するのか?」「あのお嬢ちゃんと組むつもりか?」「ベノワ復活かよ何かが起こるな」と言った声が聞こえてきますわね、オッサン有名ですわね。

 はぁ、仕方ありませんのでオッサンの話を聞くとしましょう。

 

「えっと、マナカさんの事は知ってるようですが。私の事は?」

 

 マウナさんが普通に話しかけてますわ、人見知りするマウナさんから行きましたわイロモノには強いのかしら?

 

「マナカちゃんと一緒にいる子ね、ゴメンなさいねー名前までは分からないのよん」

「あ、いえ、はい。大丈夫です、私はマウナと言います」

「マウナちゃんねぇ、貴女も可愛いわねぇ、嫉妬しちゃうわ」

 

 綺麗どころのオネェ系男子ならまだしも野太いオッサン声のオネェはきついですわね。

 

「失礼ですがお名前を伺ってもよろしくて?」

「いやん、そうだったわね。私の名前は『ベネティクト・ベノワ』って言うのよ気軽にベティって呼んでね」

「ベノワさんですわね」

 

 ベノワさんは唇に右手の人差し指をつけてからワタクシの方に手を向け人刺し指を立てて左右に振りながら

 

「ノンノン、ベノワじゃなくて。ベ・テ・ィよん、ベティって呼んで」

 

 くあー! な、なんですのコイツは流石のワタクシもちょっと恐いですわよ。

 

「わ、わかりましたわ。ベティさんですわね……」

「そうよ、ヨロシクね」

「ベティさんは何故ワタクシの顔と名前を知っていたのかしら?」

 

 ベティさんは井戸端会議してるおばちゃんの「あら、奥さん」的なノリで手を顔の横で手招きのように一回振ると。

 

「そんなの決まってるじゃないの、昨日の大立ち回り私も見てたのよ、可愛らしい子が結構エグイ戦い方してるんですもの」

「かなり大勢の人が見てましたからね、マナカさん自分から名乗って仲裁しに行くんですもん、マナカさん今じゃちょっとした有名人ですよね」

「そうなのよん、灰色の虎って実力あるけど横暴であまり好かれてないのよね、それをたった一人の少女が四人纏めてボッコボコですもの、みんな胸がスカっとしたはずよん」

 

 相当嫌われてるようですわねザルバ達、それも仕方ありませんわねあのような事を街の往来でやるのですからね。

 

「それで、募集の紙を見たらマナカちゃんの名前じゃない、これは運命よねビビっと来たものね」

 

 名乗ったのは失敗でしたわね。

 

「ベティさんはあの募集用紙を見て来てくださったようですがあの紙の条件でよく来ようと思いましたね」

「そ、そうですわよ、貴方そもそも男の方ですわよね」

 

 ベティさんは何言ってるのよって顔していますわね、厳ついオネェオヤジですのよ美女要素なんてどこにもありませんわよ、それが何故不思議そうな顔してらっしゃるのか理解できません。

 

「何言ってるのよマウナちゃんにマナカちゃん、私の心は常に美少女よん」

「わけわかんねーですわ」

「そ、そうでしたか。だったら仕方ありませんね」

 

 マウナさん何故納得してますの? ワタクシの明るいハーレムパーティー計画が……

 

「先ほどから周りが噂してますがベティさんは有名な方なんですか?」

 

 マウナさんの問いに、ベティさんは少し暗い影を落としましたが

 

「そうねぇ……私こう見えて三年前までは冒険者だったのよ、元冒険者ってヤツね。当時は一応、四等級冒険者パーティー『薔薇の園ローズ・ガーデン』という名前のそこそこ有名なパーティーでね盾役をやってたのよ」

 

 こう見えてって貴方、冒険者とか傭兵にしか見えませんわよ! と突っ込みたくなりましたが何かしんみりと語り出したのでひとまず話を聞くとしましょう。

 

「三等級まであと一歩って所まで行ってたのよ」

「何故、冒険者を辞めてしまったのですか?」

 

 何故マウナさん今回はそんなにグイグイ行きますの? まさか厳ついオネェ系オヤジが好みとかですの。

 

「この街の近くにダンジョンがあるのは知ってる? あそこのダンジョンに潜ってるときにね、ある事件に巻き込まれてしまったの、私以外のメンバーは全滅、私も命からがら逃げてきたのよ」

 

 ベティさんは少し悲しそうな顔をしていましたわ当時を思い出してしまったようですわね。

 

「それでしばらくは腐ってたわけね、盾役だけが生き残るとか、あの時こうしてればなんて考えてしまってね、いつの間にか冒険に出なくなってしまったのよね」

「それでワタクシを見たときにビビっと来たというわけですのね」

「三年経ってるけど動きは鈍ってないわよ、冒険者ランクは三年貢献無しだったから、ワンランク下がってるけどまだ五等級冒険者扱いよ」

 

 確かに。パーティーランクはパーティーメンバーの平均で決まるはずですわね、七等級と同じ扱いですわね。ベテランがいるなら一段階上の依頼も受けれるはず。

 オネェオヤジってのを我慢すれば優良物件ではありますわね。

 

「荷物持ちでもいいから、仲間に入れてもらえないかしら?」

「マナカさんどうします」

 

 ぐ……むむむ、そんな目で見ないでくださいまし。

 悩むワタクシを見てベティさんは。

 

「貴女達とならまた楽しく冒険をやって行けると思ったけど、マナカちゃんが本当に嫌ならこれ以上の無理は言えないわね」

 

 ベティさんだけでなく、何故かマウナさんも捨てられた子犬のような目でワタクシを見ますわ、卑怯ですわよその目は。

 

「マナカさん……」

 

 オーケー分かりましたわワタクシが折れますわよ、ワタクシなんだかんだと甘いですわよね。

 

「ふぅ……仕方ありませんわね、ベティさんこれからよろしくお願いしますわね」

「良かったですねベティさんこれからよろしくお願いします!」

 

 マウナさん何故か嬉しそうですわね、ベティさんも何か良い笑顔ですわね。

 

「マナカちゃん、マウナちゃん有難う。これからよろしく頼むわね、お姉さん荷物持ちだろうが頑張っちゃうわよ」

 

 ベティさんとマウナさんがハイタッチしてま……身長差があってハイタッチ出来てないじゃないですの!

 こんな感じでワタクシ達のパーティーに盾役のオネェオヤジことベネティクト・ベノワが仲間に加わりましたわよ。

 

 

 ベティさんが仲間になったのは良いのですが、依頼を受けるのも時間が半端なので今日はもう自由時間にしましたわ。

 ベティさんは冒険者として復活したことを仲間たちに報告するという事で、街の外れにある共同墓地にお墓参りに行くことにしたようです、ワタクシとマウナさんにも来てほしいとベティさんが言うのでワタクシ達もついていきますわ。

 

「私の冒険者復帰を新しい仲間と共に報告をしておきたいのよ」

 

 ベティさんは墓地に向かう途中お花屋さんで、お供えするお花を買っていました、お墓参りには似合わない薔薇の花束ですわ。

 

「薔薇の花束ですのね」

「私の元居たパーティ名にもなってる花だからね」

「確か薔薇の園でしたわね」

 

 ベティさんはそうだと頷きました。お花屋さんにお金を渡してから、またお墓の方に向かって歩き出しました。

 墓地に着くとベティさんは目的のお墓に向かいます、ワタクシ達は後をついていくだけですわ、そしてあるお墓の前に立ちます、お墓には三名の名前が刻まれていましたわ。

 ベティさんはお墓に先ほど買った花束を置いて祈りをささげていますわ、ワタクシとマウナさんも黙祷しました。

 

「ケイト、アンジェラ、サリー。今日はあなた達に報告があるの、私は明日からこの子達とパーティーを組んで冒険者に戻るわ、その事を報告しに来たの、あれから三年ですもの私ももう先に進んでもいいわよね……」

 

 そう言ってベティさんはまた祈りを捧げていましたわ。ケイト、アンジェラ、サリーって全員男ですわよね?

 

 一分ほど祈りをささげていたベティさんが目を開きワタクシ達の方を向きました。

 

「今日は付き合わせちゃってごめんなさいね」

「かまいません私もベティさんの仲間だった方たちに、挨拶をしておきたいと思ってたところでしたから」

「仲間への報告は大切ですものね」

 

 お墓参りは終わりましたわね、ワタクシは三年前に起こったある事件というのが気になりますが聞いて良いものか悩ましい所です、マウナさんがワタクシの方をチラチラ見ますわね、おそらくマウナさんも三年前の事が気になるようですわね。

 ワタクシは意を決しベティさんに三年前の事を尋ねてみることにしましたわ。

 

「ベティさん、もしよろしければ三年前に起こった事と言うのを聞かせてもらっても良いかしら?」

「それは私も気になります、ですけど辛いようなら無理には聞きません。ね、マナカさん」

「そうですわね無理にとは言いませんわ」

 

 やはりマウナさんも気になっていましたか。ベティさんはと言いますと嫌がるそぶりは見せずに語り出します。

 

「そうね、別に隠すことでもないし。かなり多くの人が知ってる話だからマナカちゃん達になら話しても構わないわよ」

「あ、でしたら場所を変えませんか? 墓地で立ち話もなんですから」

 

 ワタクシ達はマウナさんの提案によってベティさんのお勧めのカフェに向かいましたわ。

 

 

「これはこの街で調べればすぐにわかる事件だから隠す必要も無いわね、『ダンジョン低階層グレーターデーモン事件』と呼ばれてる事件よ」

 

 何かまんまですわね、事件名だけである程度何があったか分かってしまいますわね。そしてお茶が運ばれてきた所でベティさんが続きを話し出しましたわ。

 

「私のパーティーメンバー三名と駆け出し冒険者のパーティー二組を巻き込み合計で十二名が犠牲になった一種のテロ事件ね」

 

 ワタクシの元居た世界でいう所の無差別テロ的なものですかね? 悪魔でテロという所は異世界ですわね。

 

「私たちが先行してダンジョンを降りてた途中でね、三階層の名物モンスターであるメイルリザードってとにかく硬くて丈夫なモンスターと私たちが戦っていたのよね。

 本来は無視しても良かったのだけど、私たちの後ろの方に駆け出しの冒険者パーティーが二組いたから、その子たちの所にメイルリザードが行かないように時間稼ぎをしていたのよ」

 

「メイルリザードがいるんですか? 丈夫な所に目が行きがちですが噛みつきによる攻撃力も脅威なモンスターですね」

「ええ、どう考えても三階層にいるのはおかしいレベルのモンスターですけどね、動きがゆっくりだから逃げやすいのが救いね、ただ素材である皮は高く売れるわ」

 

 初見殺しモンスターというヤツですわね。

 

「まあ、それで私たちはソイツと戦っていたところ、本来はそのダンジョンの低階層にはいないはずのグレーターデーモンが襲撃してきたのよ、まずは駆け出し冒険者一組が一瞬のうちに全滅、メイルリザードとの挟み撃ち状態になってしまったのね」

 

 ダンジョンでの挟み撃ちですのね。

 

「私たちは残りの一組の駆け出しを逃がすための時間を稼ごうとしたのだけど、駆け出しパーティーの一人が狙われてしまってねそれを私のパーティメンバーの回復役であるサリーがかばってやられてしまったのよ。

 そこからはなし崩しに味方がやられてゆき、逃がそうと思った駆け出しも全滅、私一人が残ったのだけど一人でグレーターなんて倒せるわけでもないので必死で逃げ帰ったのよ」

「それは流石に仕方ないのではなくって」

 

 ワタクシがそう言ってもベティさんは首を振りましたわ

 

「そうなんだけどね、でもどうしても色々と考えてしまうのよ。それで私はギルドにこの事を伝えてグレーターデーモン討伐隊が結成されグレーターデーモンが討伐されて事件は解決したという事なのよ」

 

 テロという事はグレーターデーモンは誰かが呼び出したという事になりますわね。

 

「召喚士がグレーターデーモンを呼び出したのでしょうか?」

「いいえまさか、グレーターデーモンを召喚できる術師なんてこの街にはいないわよ。ただ後の調査で分かったことは使用禁止されていたソースフェールというマジックアイテムが使用された痕跡があったのよ」

「ソースフェールって確かモンスターを簡易封印するマジックアイテムですよね、グレーターデーモンを封印してまで行うってリスクが相当高いですね」

 

 そこまでしてテロを行うという事はよほど誰かが邪魔だったって事ですわよね。普通に考えて駆け出し冒険者が狙われる可能性は低いですし、そうなると狙うのは薔薇の園のメンバーの誰かかパーティーそのものですわね。

 

「おそらく事件で使われたソースフェールは裏ルートで販売されてた品の可能性もあるのよ」

 

 ベティさんの言葉にマウナさんも渋い顔をしていましたわね。

 

 

 そしてワタクシもこの時に妙な胸騒ぎを感じましたわ。

 

 

 

 

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