第十三話 ワタクシまだ駆け出しですのよ?

 

 ベティさんと組むようになって一週間ほど経ちましたわ。

 

 今ではなかなか連携も取れているのではないでしょうか? 基本的にはベティさんが前に出て敵を足止めしワタクシとマウナさんが敵を倒すというスタンダードながら効率的な戦い方が出来ておりますわ。

 

 ベティさん実は盾役なんですけど、攻撃も割と得意で獲物はメイスかフレイルを使い分けておりますわ、盾はバックラーという丸みを帯びた小型の盾、敵の攻撃をその丸い部分でそらすのがとてもお上手なんですのよ。

 疑問はベティさん盾役なのに鎧が軽装ですのよ、胸当てと腰鎧にバックラーだけなんですのよコロッセオのグラディエーターみたいな感じですわね。

 

 

 

 さあ、今日も元気よく依頼をこなしますわよ! まずはブレンダさんの所にいきますわよ。

 ブレンダさんは今日も美人ですわね。

 

「ごきげんようブレンダさん」

「おはようございます」

「おはよーん」

 

 次々にワタクシ達は挨拶をしますわブレンダさんもワタクシ達に挨拶を返します。

 掲示板で適当な依頼を探してブレンダさんの所にもっていくと、ブレンダさんがワタクシの顔をマジマジと見た後ベティさんとマウナさんも見ます、その後少し考えると。

 

「マナカさん達少しそこで待っててください」

 

 そう言ってブレンダさんは奥に引っ込んでしまいましたわ、お花でも摘みにいったのでしょうか?

 

「ブレンダちゃんどうかしたのかしら? 私たち見て慌てて奥に向かって言ったけど」

「慌ててましたね」

「お花摘みじゃないんですの?」

 

 とりあえずブレンダさんが来るのを待ちますわ。

 そしてブレンダさんを待ってると後ろから声をかけられましたわ、この声は?

 

「マナカさんマウナさん、お、おはようございます。お仕事でも探しに来たんですか?」

「アルティアさん、おはようございます」

「あら? ごきげんようアルティアさん」

 

 ワタクシ達とあいさつした後、アルティアさんはベティさんを見てお辞儀をしましたわ。

 

「う、噂は本当だったんですね、薔薇の園のベノワさんがマナカさん達と組んだというのは」

「ええ、組むことになったんですの」

 

 ベティさんがアルティアさんを見て、手をポンと叩きましたわ、ベティさんもアルティアさんを知ってるようですわね。

 

「あら? 貴女は『赤髪の癒し手』のアルティアちゃんね、ランクの割には高度な治癒術を使う冒険者って有名よね」

「はは、いまだに七等級ですからね」

「良い人とパーティーが組めればアルティアちゃんならすぐに上に行けるのにねぇ」

 

 アルティアさんとベティさんが話しているとブレンダさんが戻ってきましたわ、一緒にガリアスさんもやってきます。

 

「お? ベノワ本当に復帰したんだな」

「そうよん、もう三年も腐ってたんだものそろそろ復帰しないと他のメンバーに呆れられちゃうものね」

「そうだな、確かにあいつらの事も考えればもう復帰しても良いころだな、だがまさかお前が嬢ちゃん達と組むなんてな」

「ふふ、マナカちゃんにビビっと来たから頼みこんじゃったのよ」

「とりあえず復帰おめでとうと言っておくよ」

「ええ、ありがと」

 

 ガリアスさんもベティさんの事を心配していらしたのね、ところでブレンダさんとガリアスさんは何かワタクシ達に用事でもあるのでしょうか?

 マウナさんも何か用事なのかとガリアスさん達の方を見てますわね。そしてガリアスさんはアルティアさんも見ると。

 

「嬢ちゃん達にベノワとアルティアもいるのか丁度いい、お前たちなら適任だな」

「アルティアさんもいたのは嬉しい誤算ですね」

 

 話が見えませんわね、一体何の話でしょう? 勝手に納得されてますし。

 

「すいません、ガリアスさん何か用事でもあるのですか?」

「ああ、すまないなマウナ嬢ちゃん。ちょっと特殊な依頼を今受けててな、ランクの低い冒険者を探してるそうなんだ」

「ガリアスさん、本人と話した方が早くありませんか?」

 

 ガリアスさんは少し考えてから、ワタクシ達の方を改めて見てから。

 

「そうだな、お前たち話だけでも聞いてみないか? 報酬は悪くない話だ受ける受けないは話を聞いてから決めてくれればいい」

 

 報酬の良い低ランク所望の依頼、胡散臭い話ですわねきっと、面白そうな臭いがプンプンしますわね。そう考えていると何故か皆さんがワタクシを見ていますわ。

 

「なんですの? ワタクシが決めてよろしいのかしら?」

 

 マウナさんもベティさんも頷いていますわ、アルティアさんまで頷いてますわね。

 

「ワタクシ的には話くらいは聞いてもいいと思っておりますわ」

「ガリアスさんブレンダさんそういう事なのでお話を聞かせてください」

「わかった助かるよ、こっちに来てくれ。ブレンダ人数分のお茶を用意してもらってくれ」

「わかりました」

 

 ブレンダさんがカウンターの奥に歩いていきますわ、ガリアスさんに案内されて前とは違う部屋、応接室っぽい部屋に案内されましたわ。

 ワタクシ達が部屋に入ると小太りの人の良さそうなおじさんがいましたわ。

 

「ガリアスさんその方たちですか先ほどブレンダさんのおっしゃっていた方たちは?」

「ええ、そうです」

 

 身なりは悪くありませんわね、どこかの貴族か何かですわね、ただそうなると護衛の騎士がいないのはおかしいですわね。

 

「あの身なりからすると貴族でしょうか?」

「おそらくお金持ちであることは確かですわね、ベティさんかアルティアさんはあの方ご存知ですか?」

 

 ベティさんもアルティアさんも首を振っていますわね、どうやら知らないようですわ。

 とりあえずワタクシ達も椅子に座りますわ、少ししたらブレンダさんがワタクシ達の分のお茶を持ってきてくれましたわ。

 

「あー、最初に紹介しておく、この方はプラム商会の会長をされてる『ムーロ・プラム』氏だ」

「お初にお目にかかりますムーロ・プラムと申します」

 

 そう言ってムーロさんはワタクシ達にお辞儀をしました、貴族ではなく商人でしたか。

 ワタクシ達もムーロさんに自己紹介をしましたわ。その後ガリアスさんが改めて依頼の話をします。

 

「さて、依頼の話をするが依頼内容はムーロ氏の護衛だ」

「護衛任務ですって? 私たちでいいのかしらん?」

「特殊な依頼と言うのはそこなんだよ」

 

 低ランクの冒険者を希望しているって部分ですわね。

 

「ガリアスさん、私が直接説明しましょう」

「そうしてもらうと助かります」

 

 ムーロさんが依頼の事を説明してくれるとの事ですのでワタクシ達は大人しく話を聞きますわ。

 

「今回はこの街から北の方にあるペンノと言う町まで私とある荷物を護衛していただくのが仕事の内容です、距離的には馬車ですと約四、五日ほどかかるところにあります」

「ペ、ペンノですか? 王国の真ん中あたりにある交易都市ですよね?」

 

 アルティアさんの言葉にムーロさんが頷いておりますわね、中央付近にあるというから交易が盛んな街ということですわね。

 さて護衛任務という事ですが何故低ランクにこだわるのでしょう?

 

「ムーロさんでしたわね、何故ワタクシ達のような駆け出しをご希望ですの? 大事な品を運ぶなら傭兵やもっとベテランの冒険者を雇う方がいいんじゃないかしら?」

 

 ワタクシがもっともな事を言いますと周りも頷いておりますわね。ガリアスさんが頭を掻きながら困った表情をしていました。

 

「俺たちが困っていたのはそこなんだよ、ムーロ氏の依頼内容より提示してきた条件で困ってたんだ、なるべく低ランクの冒険者でなおかつランク以上に戦える人達という条件なんだ」

「あらーん、それは確かに難しい注文ねぇ」

 

 なるほど、その条件を満たせるパーティーが少なかったからワタクシ達に頼もうという訳ですわね。

 

「ムーロさん、どうしてそういった条件の方を探していたのかお聞きしてもよろしいですか?」

「わかりました、荷物を運ぶさいなるべく目立ちたくないのです、そこで駆け出し冒険者一行に偽装したかったのが理由です」

 

 なるほど商人一行ではなく冒険者一行として移動したいと。でしたらなおの事ベテランの方が良いのはなくって? ワタクシは疑問を口にします。

 

「お待ちになって、偽装ならなおの事ベテランや名うての冒険者パーティーの方が良いのではないかしら? 名うての冒険者一行に襲い掛かるような盗賊はいないのではなくって?」

 

「それがそうでもねぇんだよ、有名どこだと金を持ってそうだとか、アイツラを倒して名を上げるみたいなのも割といるんだよ」

「はい、なので駆け出しや低ランクの方が都合がいいのです」

「そういうものなのです?」

「ああ、そういうもんなんだ」

 

 有名税みたいなものですわね、確かに低ランク冒険者なら大金を持ってそうもありませんし装備もそこまで良い物を揃えてるパーティーは少ないでしょうね。

 

「ええと、それで話を戻しますが、偽装はしても運ぶ荷物が荷物ですので万が一でも奪われる訳にはいかないんです。なので低ランクでも戦える方々という特殊条件を出すことになってしまったのです」

「そうなるとお嬢ちゃん達がうってつけなんだよ、元薔薇の園のベノワにザルバ達を一人で倒したマナカお嬢ちゃん、それに赤髪の癒し手のアルティアに魔族のマウナ嬢ちゃん正直お前たちなら四等級くらいでもおかしくないメンバーだ」

 

 このムーロという商人に恩を売れるのは大きいですわね、魔王領復興の際のコネになってくれそうですわね。ですがあっさり頷いてしまうと安く見られそうですわね、ついでにそこまでして守りたい荷物も気になりますわね。

 その荷物を理由に少し交渉しましょう。

 

「マナカちゃんこの依頼どうするつもりかしら? お姉さんはマナカちゃんに任せるわよ」

「わ、わたしも、マナカさんとマウナさんにお任せします。と、言いますかいつの間にかわたしも数に入ってますから」

「あ、そうですよねアルティアさんはよく考えたらワタクシたちのパーティーメンバーじゃないですもんね」

「まあまあ、まずは報酬の話を聞いてからでもよろしくて?」

 

 まずはお金の話からですわよ、相手は商人ですものこの辺りをきっちりしておく方が信用できると思いますの。するとワタクシの意図を読んだのかムーロさんから提示してきます。

 

「成功報酬と準備金合わせて十万リシェでどうでしょうか?」

「じゅ、十万? そ、そんな大金を……」

 

 アルティアさん驚きすぎですわよ。

 

「ふむ、どうしましょうかしら? 荷物の内容もお聞かせくださいます?」

「それは秘密という事ではいきませんかね?」

「そうなると他をあたって頂くことになるかもしれませんが」

 

 ワタクシの言葉にベティさんとマウナさんは目を見開く、ガリアスさんとブレンダさんもワタクシを見ましたわ。

 

「っ、十万では足りませんでしたかな?」

 

 ムーロさんも少し慌てています、そうでしょうね条件に合う冒険者がなかなかいませんし、まさか駆け出しが高額報酬の依頼を断ると思っていませんでしょうから。

 

「金額ばかりの問題ではありませんわ」

「マナカさんどういうことですか?」

「もし、荷物がご禁制の品でしたらワタクシ達知らぬ間に犯罪の片棒を担ぐことになるんですのよ、商人は信用が大切ですわよねムーロさん? ワタクシ達冒険者も一緒だと考えておりますわ?」

 

 ムーロさんも困った顔をしておりますわね

 

「困りましたな……マナカさんの言う通りなんですが。珍しい品なのでどこから情報が洩れるか分からないですから極力秘密にしておきたいのですよ、決してご禁制の品ではないことだけは誓わせていただきます、私は商人としてプライドを持って商売させていただいておりますので其処の所嘘はいいません」

 

「具体的にだけでもよろしいのでお教えいただけませんこと?」

 

 はぁ、とため息をついてからムーロさんが。

 

「わかりました、とある方が使っておられた魔法の盾とだけ申しておきます」

 

 ムーロさんがそう言いますとワタクシは考えるそぶりをしてから。

 

「よろしいですわ、詳しいことはこれ以上聞きません。ですが依頼料は十五万リシェ、これで受けますわ」

 

 ワタクシがそう言いますとムーロさんは少し渋い顔をした後、笑いながら言いました

 

「ははは、では準備金と前金で五万リシェ、成功報酬として十万リシェでいかがでしょうか?」

「それでよろしいですわ」

 

 ワタクシが依頼を受けた事でガリアスさんとブレンダさんは胸をなでおろしましたわ。マウナさんとベティさんは報酬が上がったことに喜んでいましたわ、アルティアさんも一緒になって喜んでいます。

 

「まさか、賃上げ交渉をすることになるとは思いませんでしたよ」

「ワタクシはお安くないのですわ、そして先ほども言いましたように知らぬ間に犯罪者は御免ですからね」

「はは、ブレンダさんが言ってた通り面白い人ですな、気に入りました、そして不思議と貴女に任せておけば大丈夫な気がします」

「受けた依頼には全力で当たらせていただきますのでそこはご安心くださいな」

 

 ワタクシはムーロさんと話し終えるとマウナさんを手招きして呼びますそして小声で話しかけます。

 

「マウナさんこれはコネを作るチャンスにも繋がりますわよ」

「商会とのコネですか、大きいですね」

「安く見られないために少し無茶な交渉をしてみましたわ、上手く気に入られたから依頼を成功させれば有利に事がすすむでしょうね」

 

 ワタクシ達が小声で話しているとアルティアさんがやってきました。

 

「あ、あのわたしもこんな凄い仕事に加わってていいのでしょうか?」

「問題ありませんわよ」

「よろしくお願いしますねアルティアさん」

「こちらこそ」

 

 ガリアスさんと話していたムーロさんが席を立ちましたわ。

 

「さて、私はこれから準備の方をします。詳しいことは明日これくらいの時間にこのギルドで話し合うという事でよろしいですか?」

「ええ、構いませんわ。ではワタクシ達も明日のこの時間にまたこちらに顔をだしますわ、皆さまもそれでよろしくて?」

 

 他の皆さんもそれでいいと頷いておりますわね。

 ムーロさんは入り口の方に向かって歩いていきます、そして入り口で一度止まるとワタクシ達の方を向いて。

 

「それでは皆さんまた明日お会いしましょう、私はこれで失礼します」

 

 ムーロさんが帰っていくとワタクシ達もギルドのカフェの方に戻りました、思いがけない仕事を受けたので掲示板に受けようとした依頼書を戻しておきましたわ。

 


 こうしてワタクシ達は商人の依頼を受けたのでした。

 

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