第九話 レッツ!わーきん!

 

「ここじゃないですか? 干からびた熊の絵も描いてありますし」

「前衛的な看板ですわね、ちょっとついて行けないセンスですわね」

 

 熊の絵の下には確かに熊の干物亭と書いてありますわね、さっそく入って宿を取りましょう。

 

 

 

 扉を開いて中に入ると、カランカランとベルの音がした後に可愛らしい店員さんが出迎えてくれましたわ。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、くまのひものていへ」

 

 年の頃は六歳から七歳くらいですわね、こんな小さい子がお手伝いしてるというのも異世界らしいですわね、トテトテとワタクシ達の方に歩いてきましたわ、顔も中々可愛らしいですわね一〇年後が楽しみですわ。

 

「おしょくじですか? お泊りですか?」

「お泊りですわよ、部屋は空いてるかしら? あとワタクシのことはお姉さまと呼んでいいわよ」

「マナカさん何言ってるんですか!」

「おきゃくさん面白いね、わたしのお姉ちゃんは奥にいるよ」

 

 む? 軽く流されてしまいましたわ……接客慣れしていますわね。

 この宿は姉妹で経営してるのかしら? 時間が中途半端なためかお客の数はまばらですわね、これが夕食時になったらにぎわうのでしょうね。

 

「おきゃくさん少々おまちください。お姉ちゃーん、お泊りのお客さんがきたよー」

 

 そういって奥に走っていきましたわ、少ししたら奥から二十歳くらいの女性が出てきましたわ、きっとあの可愛らしい店員さんのお姉さんですわね。

 この方も結構美人ですわね、先ほどの子の一〇年後はこの方と同じくらいの器量よしになるのでしょうか?

 

「いらっしゃいませ、お泊りですね? 今空いてる部屋だと一泊お一人様一三〇リシェになります」

「あら? 一三〇って安いですわね」

 

 一三〇って結構安いですわね? 普通に安宿でも一五〇と聞いてますし。

 

「一三〇リシェですか、マナカさんどうします?」

「先に部屋を見させていただきましょう、それから考えましょう」

「そうですね、それから決めましょう」

 

 お姉さん店員に部屋に案内してもらいますわ、二階が宿になってますわね階段を上り奥に行ったところの突き当りの部屋が空いてる部屋のようですわね。

 

「こちらのお部屋になります」

 

 お姉さん店員がドアを開けるとベッドが二つ置いてあり小さなクローゼットとテーブルが置いてあるだけの簡素な部屋でしたわ、ですが掃除が行き届いており清潔な感じがしますわね、ただ少し狭い気もしますわね。

 

「少し狭い気がしますわね」

「はい、この部屋少し狭いので一三〇リシェになっています」

「なるほど」

 

 まあ、この広さでも女性二人なら問題は有りませんわね。そのことをマウナさんに伝え、とりあえず一週間分部屋を借りる事にしましたわ。

 

「ありがとうございます、食事の方は付いていませんので食事は下の酒場の方でお願いします、宿泊のお客様には一割引きで提供させていただきます」

「は、はい、わ、わかりました」

「では、すいませんが下の帳簿にお客様の名前の記入をお願いします」

 

 ガチガチになりながらマウナさんが返事をしてお姉さん店員の後についていきますわ、ワタクシもいきましょうかね。

 そして下の階に戻りますわ。

 

 マウナさんが名前を記入して一週間分の料金を先に支払いますわ、財布という名の袋から大銀貨一枚と銀貨四枚に白銅貨を一枚出して渡していますわ。

 

「マウナ様とマナカ様ですね。はい、確かに一八二〇リシェ頂きました。なにか御用がある時はここにあるベルを鳴らしてください」

 

 しばらくはここを拠点にするつもりなので店員さんのお名前を知っておいた方がいいですわね。

 

「店員さんのお名前をうかがってもよろしいですか?」

「あ、はい。私はシェリーと言います、さっきの小さいのが私の妹でアニタと言います」

「シェリーさんとアニタちゃんね、しばらくお世話になりますわね。ワタクシの事はマナカでよろしいですわ」

「あ、あの、私の事もマウナでいいです」

「マナカさんとマウナさんもこちらこそよろしくお願いします」

 

 そろそろ晩御飯のお時間ですわね、酒場もちらほらお客が増えてきましたわね。

 ワタクシ達はシェリーさんに適当な食事を頼んで近くの空いてる席に座りましたわ。

 

「明日にさっそく仕事をうけます?」

「そうですわね、簡単な仕事を試しに受けてみましょう」

 

 食事を待ちながら明日の事についてマウナさんと話し合いを始めましたわ。

 

「あと、ワタクシ的にはパーティー登録はした方が良いと思いますの、ランクが上がれば名指しの依頼が来るようですからね」

「わかりました、では登録も済ませましょう、そうすると私たち以外にもメンバーを増やした方がいいですかね?」

「そうですわね」

 

 ワタクシが前衛を務めるとして、後衛が攻撃魔法と簡単ですが支援魔法の使えるマウナさん。ですが二人だけだと厳しいことは確かですわね。

 

「メンバーを増やすのは良いのですが、募集はどうやってしますの? 酒場やギルドで声でもかけます?」

「その辺りも明日ギルドで聞いてみましょう、駆け出しの私たちが声を行き成りかけても、仲間になってくれる人は少ないと思いますし」

「そうですわね、明日そのことも確認しましょう」

「では、明日はメンバー募集の事を確認してから簡単な依頼を受けてみるという方針でいいですね?」

「ええ、かまいませんわ」

 

 明日の事を相談していたらシェリーさんが二人分の食事を持ってきましたわ、こうして本日は食事を終えて過ぎていきましたわ。

 

 

 ――

 ――――

 

 

 翌日になりましたわー。

 外にある井戸の水で顔を洗い準備を整えた後、朝食を取るために酒場の方に向かいます。

 

「ごちゅうもんは何ししますかー?」

 

 今日、注文を取りに来たのはアニタちゃんですわ、ワタクシとマウナさんはハムエッグとパンのセットを頼みましたわ。

 そして朝食を済ませるとギルドに向かうことにしましたわ。

 

 

 朝からギルドは仕事を求めた冒険者でいっぱいですわね、今日カウンターにはハニーブロンドの美人職員と冴えないオッサン職員の二人が並んでますわね、当然ワタクシは美人職員の所に並びますわよ。

 

「今日はどのような御要件ですか?」

「ワタクシ、先日冒険者登録したマナカ・クナギと申しますわ、お姉さんのお名前をうかがってもよろしくて?」

「はい、私の名前ですか? ブレンダ・ミュラーと申します、よろしくお願いしますねマナカさん」

「えぇ、えぇ、よろしくってよ」

「マナカさん何をしてるんですか!」

 

 ブレンダさんの名前を聞いていると何故かマウナさんが少し不機嫌に話しかけて来ましたわ。

 マウナさん嫉妬ですの? 可愛らしいですわねぇ。

 

「これからお世話になるんですもの自己紹介は必要だと思いましてね」

「た、確かに」

 

 マウナさんもブレンダさんに自己紹介をしましたわ、では本題に入るとしましょう。

 ブレンダさんにパーティーメンバー募集について聞いてみますわ。

 

「一つ聞きたいのですけど。パーティーメンバーの募集をしたいのですけど何か良い方法はございませんこと?」

「メンバーの募集ですか? 色々方法は有りますね」

「どういった方法があります?」

「お金をかけてもいいのですと、ギルドから斡旋する方法もありますよ」

「ふむ」

「お金をかけないなら募集の紙を仕事募集版ではない方の連絡用の掲示板に貼って募集することも可能です。または酒場やここのカフェで声をかける方法ですね、ただ駆け出し冒険者の仲間になりたい方は少ないですよ」

 

 お金に余裕は有りませんわね、声をかけるにしてもマウナさんやブレンダさんの言う通り駆け出しのワタクシ達が声をかけても断られそうですわね。

 

「マウナさん、無難に募集の紙を貼らせていただきましょう」

「そうですね、それで二、三日ほど様子を見ましょう」

 

 ワタクシとマウナさんはブレンダさんに紙を貰って募集内容を書きますわ。

 ふふ、こういう時のために文字を勉強していましたのよ、ワタクシは前衛と支援を一名づつ募集する旨を紙に書きましたわ。

 

『前衛のできる美少女か美女の方一名

 支援がメインの美少女または美女の方一名募集

 駆け出しの冒険者ですが仲間になってくれる方

 募集です。

 こちらは前衛一名、後衛一名のパーティーです。

 給与は歩合制です。

 募集人:マナカ・クナギ』

 

 完璧な募集ですわ、流石はワタクシ。

 さっそくこの募集の紙をブレンダさんに渡して掲示板に貼ってもらいましょう。

 

「マナカさん! なんですかこの募集用紙!」

「ん? どこも問題ありませんわよ、歩合制で良いと思いますし」

 

 マウナさんが何か文句を言ってますがワタクシはかまわず募集の紙をブレンダさんに渡しました。

 

「あ、渡してるし、美少女と美女の項目消しましょうよ」

「もう、遅いですわー」

 

 しばらくマウナさんが何か言ってましたが途中で諦めたようですわね。安心なさいなすぐに誰かきますわよ。

 ブレンダさんも何故か苦笑いをしながら募集用紙を掲示板に貼ってくれましたわ。

 

「あと、すいませんが駆け出し用の依頼でいいのはあります?」

「依頼ですかそうですね」

 

 ブレンダさんはごそごそと書類を見ると依頼用紙を3枚ほど抜き出しましたわ。

 

「八等級だとこの辺りですかね」

「えっと『ソアクーア草の採集』と『下水道のホーンラットの退治』、『迷子のネコ探し』の三つですか」

 

 マウナさんが依頼用紙を交互に見ていますわね。

 

「ネコ探しは論外ですわね、そんなもんは貧乏探偵の仕事ですわ」

「そうなるとソアクーア草かホーンラットですね」

 

 悩んでいるとブレンダさんがアドバイスしてくれますわ。

 

「ホーンラットがその中では一番報酬が高いですね、しかし二人ですとホーンラットは少々危険かもしれません。ただギルドとしてはホーンラットの方が受けて欲しい案件ですね」

「なぜですか?」

「ホーンラット退治って結構微妙なラインの依頼なんですよ、完全な駆け出し冒険者だと集団で襲ってくるホーンラットは荷が重いし、それ以上の冒険者だと報酬が安いんですよ」

 

 半端な依頼と言うことですわね。あと、粗悪ーア草って嫌な名前ですわね。

 

「まだ問題がありまして、下水道の点検時期でして管理業者が点検作業できずに困っているのでなるべく早く解決してほしいと、依頼主の役所がせっついてくるんですよ……」

 

 ふふ、ならば決まりましたわね。

 

「ホーンラット退治お引き受けいたしますわ」

「いいんですか? 駆け出しだとホーンラットの集団は厳しいと思いますけど」

「問題ありませんわ、ワタクシ達結構強いんですのよ。ね、マウナさん」

「確かにホーンラットくらいなら余裕だと思いますよ

 

 そう言って、ワタクシはブレンダさんに微笑みます。あ、ブレンダさん少し頬あからめてますわね。

 

「いいんですか助かります! ただし十分注意してくださいね、あとジャイアントホーンラットを退治していただいた場合は追加報酬もありますので頑張ってください」

 

 ワタクシは依頼証明書をブレンダさんから受け取りましたわ。依頼証明書とはギルドがその冒険者に依頼を斡旋したという証明の紙の事ですわね、受注書みたいなものですわね。

 

「マナカさん本当にホーンラットでいいのですか?」

「良く考えになって町役場という事はこの街の運営に関わってるのですよ? 今後を考えれば多少報酬が割に合わなくとも受けておけば恩が売れるかもしれませんからね」

「な、なるほど確かにそうですね。流石マナカさん報酬よりどこが依頼を出してるかを見るのですね、わかりましたホーンラット退治にしましょう」

 

 こうしてワタクシ達の冒険者としての初めての仕事が始まりました。

 

 

 ところでホーンラットってどんなモンスターなんでしょうか? 名前からして角の生えたネズミですわよね?

 

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