第七話 魔王さまと街へ
魔王城を出て既に二日目の夕方。
「平和ですわねー、もう少し何かイベントがあると思いましたのに」
「平和が一番ですよ」
平和が一番って魔王のセリフなんですの? 一般的な魔王のイメージならまず出てこないセリフですわよねー。
「はっはっは、マナカ様、マウナ様のおっしゃる通りですぞ」
「まあ、そうなんですけどねー」
旅は思った以上に平和に事が進んでおり初日は平和に何事も無く過ぎていきましたわ。二日目の朝に一回だけ四人組の盗賊が襲ってきましたが猟犬バウスが秒殺してしまい、あっけなく盗賊は退場していきましたわ。
「しかし先ほどの盗賊退治お見事でした、まだまだ現役じゃないですか」
「いやいや、マウナ様やはり現役からは程遠いですな」
「それで程遠いって現役時代はどれだけ強かったんですの?」
「あの程度の盗賊なら一人でもアジトごと壊滅できますな」
「はー、見てみたい気もしますわねぇ」
さてなんだかんだで国境は超えたようですわね、このまま行けば明日の夕方には目的地に着くようですわ。ですが今日はここまでのようですわね、そろそろ夜になりますわ。
「では、マウナ様にマナカ様ここらで火を起こして明日に備えましょう」
そう言ってバウスさんは馬車を停めキャンプの準備を始めましたわ、バウスさんの準備はとても手際がよろしいんですの。
この二日間でファーレ魔王領を移動がてら見てきたのですが、人口が減ってるというだけあって少し寂しい村が数点存在してるだけでしたわね、町と呼べる規模のものはありませんでしたわ、閉鎖的なだけあって道もあまりなく交易に向いてるとは言えませんわね。
「やはり他国と交易をしようと考えるなら道の整備が必要ですわね。村ばかりで町もありませんし」
「この国自体が昔から人口はあまり多くは無く町と呼べる集落自体が少ないのです」
「そうですな、この国での大きな町は五年前のあの戦いで占領されてしまいましたからな」
「戦争ですか?」
「ええ、隣国のチヨルカンという国が『勇者』を引き連れて戦争を仕掛けてきたのです、私の父親が亡くなってからすぐの侵攻でした」
混乱に乗じての侵攻作戦という事ですわね、勇者を旗に魔王領侵攻作戦、魔王領の解放という名目でしょうか?
「チヨルカンは小国ですが勇者が所属しているせいか他の国もうかつに手が出せんのです」
勇者、ファンタジーには欠かせない存在の一つですわね。
「勇者ですか、勇者とはなんですの?」
「勇者とはですな、身体のどこかに『ブレイブスター』と呼ばれる星型の痣を持ち強大な力や祝福を与えられた者でしてな、単騎で一軍に匹敵すると言われております、転移者等に稀に存在しますな」
「なんですのそれ? 星5のさらに上があるんですの?」
「星5の中でも特別な転移者ですな」
「勇者……ねぇ。何時か相手する時が来るのでしょうね、嫌ですわぁ」
ワタクシの質問にバウスさんが答えてくれましたわ、しかしちょっと暗い話題になってしまって空気が重いですわね……空気を読んでかバウスさんが。
「さあ御二方、火の準備も終わりましたので簡単ですが食事にしましょう」
「わかりましたわ」
「はい」
こうして二日目も過ぎていきましたわ。
そして三日目の昼過ぎ、相変わらず何事もなく道がショボイせいかガタガタ揺られながら進んでいきます。ゲームや漫画なら大抵は襲われてる人に遭遇するとかモンスターの群れが襲い掛かってくる的なお約束イベントがあるはずなんですが……これと言って何もありませんわね、そう思っていますと。
「お、街が見えてきましたぞ」
バウスさんが指をさしながら街が見えることを伝えてきましたわ、ワタクシ達も馬車から顔を出して街を見ますわ。
「割と立派な街のようですわね」
「そうですね、うちの城下町より数倍立派ですね」
「……そうですわね」
魔王領のは城下町というより城下村ですものね……
目の前の街は立派な壁に囲まれた街ですわ、このような立派な壁で街を守ってるのはやはり魔王領が近いせいですわね……多分。
そんなこんなで変なトラブルもなく予定より少し早くコルリスの街の門に到着しましたわ、ここでバウスさんともお別れですわ。
「バウス、ここまでありがとうございます」
「バウスさんお世話になりましたわ」
「いえいえ、これぐらいお安い御用ですぞ」
ワタクシ達はバウスさんにお礼を言って馬車から降ります。
「ワシも昔は色々な場所を冒険しましたからな、マウナ様も世間を勉強するには冒険者という選択は良いかもしれませんな」
「ええ、色々と見聞を広げたいと思います」
「ただ、くれぐれも無茶だけはしないでくだされ」
「はい、承知していますよ」
バウスさんはワタクシの方に顔を向けると。
「では、マナカ様もお気を付けくだされ」
「ええ、わかりましたわ」
「それではワシは行きますぞ」
そう言ってバウスさんは馬車に乗って魔王領の方に向かっていきましたわ。
……
…………
さて街の入り口を見ると門が二つ、片方は結構な行列でもう片方は空いてますわね。
どうやら行列の方は入国審査でもしてるようですわね、そしてもう片方は通行証持ち用の入り口のようですわね、商人っぽい人や冒険者風の人々が通っていきますわね。
「どうやら入国審査があるようですわね、並ぶの面倒くさいですわね」
「仕方ありませんよ大人しく並びましょう」
「ですわね」
ワタクシ達は門付近にいる衛兵に入国審査用の門はここでいいのか確認し列に並びましたわ。周りを見渡すと並んでる人はやはり人間が多く亜人獣人は少なめですわね。
準備期間中に多少調べておいた知識ですが、この世界は人間至上主義的な部分多く残ってるそうですわね、昔よりは随分マシになったようですが未だに色濃く残ってる場所も多々あるようですわ。
なにせ奴隷制度も残ってるそうですわ、ワタクシのいた日本では考えられませんわね……あ、社畜と呼ばれる奴隷制度がありましたわね、生きるために働くから働くために生きるという形になってしまった悲しき現実が……ワタクシが再建する国はこんな悲しき現実の無い国にしたいですわね。
「ワタクシ、社畜のない国にしたいですわ」
「え? 社畜ってなんですか?」
「あ、いや。独り言ですわ」
「そうですか」
口に出していましたわね反省ですわね、列がなかなか進まないのがいけないのですわ。
「マナカさん街に入ってからはどうします?」
マウナさんが現実的な事を聞いてきますのでワタクシの考えを話します。
「そうですわね、まず街の事が分からないので最初はやはり冒険者ギルドに行きましょう。おそらくですが冒険者ギルドに登録さえすれば通行証も発行していただけると思いますし、宿を探すにもギルドのオススメ宿があるやもしれませんので其処を聞くのも良いと思いますわ」
「そうですね、宿もなるべく安い場所を探したいですね。路銀はそこまで持ってきてませんから」
「今日はおそらく入国審査と宿探しで終わってしまいそうですものね」
と、話してるうちにワタクシ達の番になりましたわ、一時間半くらい待った気がしますわ。審査官らしい髭面のオッサンと窓際族の万年くたびれ課長っぽいオッサンの二人が質問をしてくるのでそれに応えればいいようですわね。
髭面が前に出てきましたわね髭面がメインで審査するようですわね、万年課長は紙とペンそして水晶を準備していますわね、あの水晶は何でしょう?
「お嬢さん方、入国審査だが緊張しないでくれ簡単な質問を何個かするからそれに正直に答えてくれればいい、嘘が無いようなら問題なく通れるさ」
質問を始めようと審査官の二人ははワタクシの方を見ると、訝しげな目でワタクシを見ますわ。すると髭面がワタクシに話しかけます。
「アンタのその服装はこの辺りじゃ見ない服装だな」
ワタクシの服装と言えば元の世界で着てた濃紺のブレザーですわねブレザーに赤いマフラーですわ、日本はあの時冬でしたものね。この世界も今は冬前で割と寒いから丁度良かったですわ。
「この服が珍しいんですの?」
「ああ、見た事の無い服だな。ひょっとして異世界人か?」
「まあ、隠すようなことでもないし前例もあるようですので正直に言いますわね、ワタクシは別の世界から来たんですのよ」
審査官は二人で何やら話しておりましたが今度はマウナさんの方に質問しましたわ。
「そっちの貴女はこの異世界の少女とどういう関係なんだ?」
マウナさんとワタクシの関係! 決まってるじゃないですのワタクシの……
「はい、私の国で召喚した方です、私の協力者で仲間になります」
――ふふ、今はただの仲間ですわね、えぇ。
審査官はメモを取っていますわね、そして質問を続けます。
「協力者ね」
「そうです」
「分かりました、それで貴女の名前は? 後、何処から来たんだい?」
「私はマウナ、南の魔王領から来ました」
マウナさんは名前だけ名乗りましたわね、フルネームで名乗ったら魔王ってバレそうですものね、ただ魔王領から来たとか正々堂々言っていいのかしら?
髭面はマウナさんに名前を聞いた後マウナさんの顔、目の辺りを見ていますわ、オッサン惚れるなよ。
「なるほど、その目は魔族か珍しいな。しかも辺鄙なとこから来たもんだな」
やはりあの猫の目のような目を見たら魔族と分かるのですね、しかし魔王領と聞いてもそれだけですの?
「魔王領から来たというのに警戒はしないのですか?」
ワタクシが髭面に質問すると髭面は。
「ああ、今は別に戦時下でもないし比較的にあの魔王領は安全だからな。あとは魔族でも人間と交流してるヤツは少ないがいるからな、ギャーギャー騒ぐほどじゃないよ」
だ、そうですわ。ファーレ魔王領って舐められてますの? そして今度はワタクシに質問してきましたわ。
「さて、魔族の御付きのお嬢さんの名前とこの街に来た目的は何だい?」
「ワタクシの名前は久那伎真奈香、この国風に言えばマナカ・クナギですわね」
「マナカさんね、それでここには何で来たんだい?」
「当然、冒険者になるためですわ」
ワタクシが答えると万年課長が。
「あんた達、二人でかい?」
「当然ですわ」
「まあ、この付近にゃダンジョンもあるし冒険者用の施設も揃ってるから冒険者になるにゃ丁度いい街だからなあ」
「ええ、そう聞いてここに来たのですわ」
「そうかいそうかい」
ワタクシは自信満々に万年課長に言ってやりましたわ、すると審査官がまた二人で何か話してるようですわ。さっさと許可を出してほしいものですわ、そして髭面がワタクシ達に向かって。
「よし、お嬢さん方通っていいぞ、魔族と異世界人って怪しい組み合わせだが冒険者が目的なら問題無かろう」
「怪しいとは失礼ですわね」
「まあ、これも俺たちの仕事なんだ許してくれ」
「そう言えばあの水晶はなんですの?」
万年課長が水晶を指さすのでワタクシは頷くと。
「コイツは『見抜きの水晶』という嘘を見破るマジックアイテムさ高級品なんだぜ、これで俺たちの質問に嘘をついてた場合は嘘をついてますって相手のやましい心理を見抜いて水晶が光るわけだ。光ったら入場はストップってことになったわけだな」
「便利なアイテムですこと」
「さて、後がつかえてるから行った行った」
確かにあまりここにいても仕方がありませんものね、そうだついでに冒険者になるには何処に行けばいいか聞きましょう。
「あ、そうですわ。冒険者になるためのギルドにはどう行けばよろしいのかご存知です?」
ワタクシが聞くと髭面が答えてくれましたわ。
「冒険者ギルドか? それならこの道をずっとまっすぐ行けば中央広場に出るから、そこで四つに道が分岐してるんで左の道を進めば大きな建物が見えてくる、そこがギルドだ」
「わかりましたわ、ありがとうございます」
「ああ、じゃあ気をつけてな」
ワタクシとマウナさんはオッサン二人に礼を言って言われた道を進み始めましたわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます