第五話 備えあれば憂いなしですわー

 

 

 良い方向に話が進んでますが、ワタクシ自身が少し待ったをかけます。

 

 何せ異世界ですのよ? 勝手が違いますので流石に行き成り、明日から行きますわよーとはいかないのですのよね、ワタクシ自分の能力とか自分で理解してないですし、マウナさんも明日からいきなり国を空けるわけにもいきませんしね、そこでまたまた提案ですわ。

 

「自分でこの計画を提案しておいてなんですが、準備する猶予を一ヶ月ほどいただけないでしょうか?」

「一ヶ月ですか?」

「ええ、明日からいきなりとかではなく、じっくりと準備をしたのですわ。マウナさんも国を離れるのですから色々準備があると思いますの」

 

 マウナさんも確かにという顔をしていますわね。

 

「そうですね、確かに準備は必要ですね」

「それでは今日から準備ということでよろしいです?」

「はい、それでいいです」

 

 さて、ワタクシも色々と準備が必要ですわね、前にも言いましたがワタクシ文武両道が信条でして格闘技は割と経験豊富ですのよ、何故かプロレスの技を練習してた時期があったのは今思うと謎でしたわね……今思えば剣道とかも習っておくべきでしたわね。

 

 後はこの世界の文字も確認しないといけませんわね、会話は本の魔法のおかげで問題ありませんが文字は読めるか分かりません。読めなければ覚えねばなりませんものね、ワタクシなら一ヶ月もあれば簡単な読み書き位できるようになりますわよ……きっと、多分、おそらく。

 

「そうですわ、この世界の文字を見せていただけます? 読めるか見てみたいのですわ、本による会話の魔法が文字にも適用されてるのか知りたいんですの」

「召喚の書の言語魔法では残念ですが文字は読めないはずですよ」

「なんと、それは残念ですわね、文字は覚えるとしましょう」

 

 そこまで便利ではなかったようですわね、残念ですわ。

 

「あと、ワタクシがこの世界で何ができるか、どんな魔法が使えるのか、どこまで戦えるのか知りたいので手伝いをお願いしてもよいですか? 何も知らずに行動するのは危険ですものね。あと文字を教えていただけると助かりますわ」

「わかりました、では色々と手配します。サティ、マナカさんの手伝いを頼めますか?」

「了解です、マウナ様。では、まず魔力検知用紙の準備をいたしましょう」

 

 昨日の肌の青白いメイドさんが頷き答えました、サティさんというお名前なのですね、サティさんが準備のために部屋を出ていきましたわ、魔力検知用紙って何ですの? 名前からして魔法適正を調べる紙っぽいですわね。

 

「マナカさんの能力を調べるのは私も興味がありますね、私も一緒に見ていても良いですか?」

「ならば私もご一緒してもよろしいですかな?」

「ええ、よろしくってよ! ワタクシを召還したことを後悔はさせませんわよ」

 

 うふふ、マウナさんもモルテさんも私の能力に興味があるようですわね。

 まあ、それも当然ですわね。アーティファクトを使ってまで召喚して、国の再建を手伝って欲しいと頼んだ相手がクソ雑魚だったら泣くに泣けませんものね。

 

 

 少ししたらサティさんが戻って来ましたわ、準備が終ったようですわね。

 

「魔力検知用紙の準備が整いました」

 

 そう言ってサティさんがお辞儀をしました。

 ふふ、ワタクシが華麗に全属性の魔法を高水準で使いこなしてみせますわ。

 

 

 サティさんに案内されて研究室のような部屋にやってきました。

 

「さて、どうすればよいのかしら?」

 

 ワタクシがたずねるとモルテさんが答えてくれましたわ。

 

「難しくはありませんぞ、この紙に魔力を流し込むだけですぞ」

「魔力を流し込むですか? イメージできませんわね」

 

 流石のワタクシも魔力なんていままで使った事ありませんわ、いきなり出来る人っているのかしら?

 モルテさんはどう説明すべきか悩んでおりますわね。

 

「そうですなぁ、魔力を水としてイメージしてくだされ。水が高い場所から低い場所に流れていく様をイメージし紙に魔力を流し込むのです」

 

 ふむ、分かるような分からないような……カップ焼きそばのお湯を洗面台に流すようなイメージでもいけるかしら? モノは試しにやってみましょう。

 

「流れ落ちる麺のカケラとお湯……ですわね」

「麺とお湯?」

 

 おっと、声に出てしまいましたわね、ですが紙が光を出しはじめましたわよ。

 あんなイメージでもいけるものですわね。紙に触れてる手が温かくなってますわね、魔力が流れてくるのを感じますわ。流石ワタクシ、カップ焼きそば湯切り選手権日本大会三位の実力は伊達ではありませんわね。

 モルテさんもマウナさんも紙を凝視していますわ、サティさんだけは目をつぶってたたずんでますわね。

 

「おお、クナギ様その調子ですぞ」

 

 光が落ち着いてきましたわ。

 

「紙の色が変われば適性があるという事です、色の種類と色の濃さで適正の属性と適性レベルが分かるのです」

「赤なら火、青なら水、茶色なら地、緑なら風、黄色なら光、黒なら闇、オレンジなら支援魔法ですな無色なら属性適正はないですぞ」

 

 ワタクシの事ですからきっと虹色ですわね、おっと光が消えましたわよ。ワタクシは光の消えた紙を見ますわ。

 光や闇属性もカッコイイですわね厨二心が疼きますわね。さあ、何色ですの?

 

「濃い茶色だけですわね……最低でも五色くらいあると思ったのですが」

 

 茶色ですわね、しかもかなり濃いめの、紙を見たモルテさんが何属性かを教えてくれました。

 

「茶色は地属性ですな、一色ですので適正属性は地属性ですな。中には無色で適正無しもありえますからな」

「地属性ですか……うーん、期待してた属性ではないですわねしかも地だけですもの、地って地味なイメージがありますわね。でもまあ適正無しよりはマシですわね」

 

 ちょっと残念ですわ、火属性で『煉獄の魔導士』とか呼ばれてみたかったですわ。

 

「地属性って割と万能な属性なんですよ、しかもこの色の濃さは凄いです。これ適正レベル5ですよ」

「5って高いんですの?」

「ええ、最高レベルです、普通は適正レベル3もあればその属性に関しては高位魔術師クラスですよ。属性適正数は平均で二、三個ですね、適正レベルも例えば適正属性3つの場合、レベル2が二つの3が一つといった感じの人が多いです」

「単色でもレベル5ならばとても良い結果と思いますな」

「ふふ、当然ですわね。何せワタクシですものね!」

 

 マウナさんはどの属性が使えるのでしょう? 魔王ですから最低でも二色以上でしょうね。

 

「マウナさんはどの属性が使えるんですの?」

「私は闇属性が適正レベル5、風属性が適正レベル4、火属性が適正レベル3、支援魔法が適正レベル2ですね」

「なん、だと……」

 

 四属性でしかも風と闇が高いって、流石は魔王ということですわね……魔法に関してはワタクシよりマウナさんのが圧倒的に上でしたわ。

 

「ほっほ、マウナ様は魔法に関しては天才的なセンスをもっていますからな」

 

 モルテさんが孫自慢のように自慢しておりますわ。

 まあ、この魔法に関してもこの一ヶ月以内にある程度覚えないといけないことですわね、色々とこの辺りも聞いておきましょう。

 

「魔法というモノについて詳しく教えていただけないかしら?」

 

 わからないことは聞けばよいのですわ。そういうわけでワタクシは質問します、ワタクシの質問に対して答えてくれたのは意外にもサティさんでしたわ。

 

「では私から説明いたします。基本的にこの世界では魔法は『火、水、風、地、光、闇』の六つの属性を基本とすオリジンマジックと呼ばれるものが主に使われる魔法となっています」

「オリジンマジック、最初の魔法ですか?」

「はい、かつて『最初の七賢人』と呼ばれる魔導士たちが元素を基に一人が一属性ずつ魔法を作り上げ六つの属性を定めた物をオリジンマジックだと聞いております」

 

 あれ、ワタクシの聞き間違いかしら? 七賢人が一人一つずつで六つの属性を定めた? 一つどこにいったんですの?

 

「数があいませんのだけど?」

「はい、最後の一つは補助系の魔法。回復や支援魔法なので属性の中には含まれておりません」

「なるほど、ゲームとかですと回復魔法は神聖魔法に属する場合が多いのですけど、この世界では回復支援魔法は元素を基にしていないけど独立した属性と考えるのですね」

「そうなります」

 

 魔法、奥が深いですわね。元素関係ないとなると支援魔法はどうやって作られたのかしらね?

 

「後にオリジンマジック以外の魔術。『死霊術』、『召喚術』、『精霊魔術』、『神聖魔術』等が魔力、魔法という概念から色々と生まれていったとされています」

「属性適正のない方でも魔法ってつかえますの?」

「オリジンマジックの属性適正が無い方でも死霊術や精霊魔術を使うものはおりますね。後オリジンマジックでも一応は適性が無い属性の魔法を覚えることはできますが、消費される魔力が多くなり威力や効果は半分以下になってしまうので覚える方は少ないですね」

「なるほど奥が深いのですわね」

「はい、私もそう思います」

 

 

 魔法の概念については今のところこんなものでいいですわね、次に行きましょう次に。

 

「次は身体能力を確認させていただけますでしょうか? この世界に来てから不思議と体が軽く感じるのですわ」

 

 サティさんは頷き。

 

「はい、ではこちらについてきてください訓練場にまいります」

 

 サティさんの案内にワタクシ達は付いていきますわ。

 軽く感じるのはきっと異世界モノに良くある身体能力向上のためですわね、RPGみたく数値化されてたら確認が楽なのですけどね流石にそんなわけはないようですわね。

 

 歩いてサティさんに付いていくと、城の裏手にある広場に来ましたわ、見た感じからして兵士が訓練してそうな場所ですわ、弓の訓練をする場所もありますわね。

 

 特訓と言えば、とある漫画の影響でボウガンの矢を体に当てて、撃った矢をかわす特訓を意味も無くやったのを思い出しますわ、当然矢じりは外してプロテクターは着けてましたがクソ痛かった覚えがありますわ、良い子は真似したらだめですわよ。

 

 懐かしい思い出に浸っていると、訓練場の奥から大きさ一七〇センチほど木製の人形が二体歩いてきましたわ。

 ウッドゴーレムというやつですわね、どう見てもとある香港映画に出てきた木人にしか見えませんが……

 

「では、クナギ様はこちらに用意したウッドゴーレムを相手にしていただきます」

「よくってよよくってよ、ワタクシのカッコイイとこ見せちゃいますわ」

「まずは武器の相性を調べるのが良いかと思います」

「やはり剣ですわね、まずは剣。聖剣とか魔剣とか憧れますわー」

 

 ワタクシはサティさんに剣の扱い方を簡単にレクチャーしてもらいウッドゴーレムと模擬戦を開始しますわ。

 このウッドゴーレムの強さは初心者冒険者が何とか勝てるレベルだそうですわ、動きはそこまで速くないようですわね、これなら余裕ですわね。

 ウッドゴーレムの大ぶりな右のストレートパンチをワタクシは上半身をひねって避けますわ、その隙を逃がさず剣を両手で持ち、ウッドゴーレムの胴体に目掛けて左から右に薙ぎ払うように斬りつけるのですが、そこでバランスを崩してこけてしまいましたの。

 

「あら? あらら!」

 

 その後、数分剣で戦いましたが結果は……散々でしたわ、まさかワタクシ剣の才能が無いなんて思いもしませんでしたわ。サティさんもマウナさんもアチャーって顔して顔に手を当てて斜め下を向いていましたわ。

 

「マナカさんドンマイ!」

 

 マウナさんのエールが痛いですわ、召喚の書を見ていたモルテさんが。

 

「ふむ、クナギ様は身体的能力の素質は高いのですがなぁ。素質だけなら星5にも匹敵しておるのですが」

 

 モルテさんの持っている召喚の書をマウナさんものぞき込んでますわ。

 

「本当ですね。力:もの凄く高い、速さ:もの凄く高い、耐久:すごく高い、魔力:高い、精神:少し高い。となってますね」

「ほとんどが高い以上とは凄いですな、流石はクナギ様」

 

 素質があってもセンスはないようですわー……しかし、召喚の書ってそんなことも書いてありますの? 最初に教えてほしいものですわね。

 

「素質が高いと言われましても、それ何段階評価なんですの?」

「八段階ですな、基本が『普通』ですなこの世界での一般人の平均くらいの能力ですな、そこを基準に一番上から『もの凄く高い』『凄く高い』『高い』『少し高い』『普通』『少し低い』『低い』『おういえー……』の八段階ですな」

 

 最後の評価なんですの? 気にはなりますが気にしないようにいたしましょう。

 

「しかし、ワタクシ剣のセンスは無いようですわね。自分でも驚きですわ、ワタクシ的にこれは少し情けないです」

「クナギ様、まだ槍も斧もありますから気を落とさないでください」

「そうですわね、ワタクシの華麗なる槍さばきを披露しますわ」

 

 ワタクシは気を取り直して他の武器も試すことにしましたわ。

 

 

 ――

 ――――

 

 

 二時間後、結果は惨憺たるもの……まさかワタクシ、剣どころか槍も斧もフレイルも弓もセンスが無いとは思いませんでしたわ、アレ? ワタクシって実はハズレ星4じゃないんですの? 三人とも目を背けていますわ……こうなったら仕方ありませんわね、武器なんて捨ててかかって来いよ! ですわ!!

 

「マナカさん……」

 

 そんな目で見ないでくださいまし……まだワタクシには武器がりますから

 

「マウナさん、安心してくださいなワタクシにはまだコイツがありますわ!」

 

 人間生まれ持った武器があります、そうそれは拳ですわ。

 ワタクシは少し前かがみになり左足を少し後ろに下げ、拳を握り顔の前に両腕を肘の部分から立て左半身を後ろに下げますわ、右肩でアゴを隠すようにして構えます、拳闘の基本の構えを取りますわ、そしてウッドゴーレムを睨みますの。

 

 空気の変わったワタクシを見て三人はゴクリと喉を鳴らしましたわ、モルテさんはどうやったら鳴るのでしょうか?

 

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