SS Extra2 ホワイトが
「バレンタインの時はありがとね。これ、みんなで食べて」
ホワイトデー当日、春輝は会社帰りに買ってきた品を伊織たちへと差し出す。
「わっ、ありがとうございます! すみません、お気遣いいただきまして……!」
恐縮した様子の中にも喜色を浮かべた伊織が、三人を代表して箱を受け取った。
「おっ、これアレじゃん? マカロンだよね?」
パッケージだけで中を察したらしく、露華が片眉を上げる。
「駅前のお店の、お高いやつ」
どうやら、白亜も知っていたようだ。
「別に、そんな大したものでもないよ。皆のチョコに比べれば平凡で申し訳ない」
「いえいえそんなっ!」
実際、春輝からすればそこまで高く感じるものでもない。
三人それぞれに別のものを用意することも考えたのだが、差が出るのも良くないと思って三人まとめてのお返しとした形である。
ちなみに、同じものを会社で貫奈にも渡してあった。
「ねーねー春輝クン、マカロンを贈る意味って知ってるぅ?」
と、露華がニンマリと笑いながら尋ねてくる。
「相手を特別な存在に思ってる、だろ?」
「おろ? 知ってたんだ?」
春輝がすぐに答えると、今度は意外そうな表情に。
「ハル兄……それを知ってて贈ってくれた、ってこと?」
次いで、白亜が真っ直ぐ見つめながら首を小さく傾ける。
「もちろん」
今度も、春輝は迷うことなく頷いた。
「俺にとってみんなは特別な……大切な家族、だからね」
流石にこれを口にするのは恥ずかしかったが、そんな気持ちを込めたのは本当だ。
「っ……嬉しいですっ!」
「まー、今回はそれで良しとしときますかっ」
「ハル兄らしくはある」
伊織が素直に喜びを表現し、露華と白亜も満更でもなさそうな表情だった。
「あー……っと。それで、伊織ちゃん」
このちょっと良さげな雰囲気の中でこれを口にするのは、流石に気が引けたけれど。
「一応確認、なんだけど……お返しさ、えっと……下着じゃなくて、良かったんだよね……?」
「当たり前ですよ!?」
念のために尋ねると、伊織は驚いた様子で目を見開いた。
「ほーん? 当たり前、ねぇ?」
「イオ姉はその台詞を言う資格を一月前から失っている」
そんな姉に向けられる妹たちの視線は冷ややかなものである。
「えっ、ていうかていうか春輝クンさ。それ、わざわざ確認するってことはよ?」
そこで、ふと露華が何かに気付いたような表情となる。
「それが良いって言ったら、
「うーん、まぁ……うーん……」
彼女たちの希望は出来るだけ叶えたいと思っているものの、流石に厳しい心持ちもあって春輝の返答は大変曖昧なものとなった。
「そんじゃ」
そんな春輝の耳元に、露華がそっと口を寄せる。
「ウチは、春輝クン好みのエッチぃやつがいいなぁ?」
「いや、ははっ……」
蠱惑的な囁きに、春輝の頬がヒクついた。
「ハル兄、わたしもせくしーなの所望」
「ははっ……」
流石に冗談だとわかってはいるものの、真顔で言われると頬のヒクつきが加速する。
そんな中、伊織は妹たちの顔をなんだかちょっと焦ったような様子で何度か見た後……なぜか、決意を秘めたような表情となった。
「わ、私のサイズだと選択肢が限られると思いますので、適当にお店にあるやつで大丈夫ですっ!」
そして、顔を赤くしながらグルグル目でそんな『リクエスト』を叫ぶ。
『うっわ……』
妹たち、一月ぶりのドン引きの表情であった。
「それ、ガチで頼む時のやつじゃん……」
「完全に、実際に買うことを想定した気遣いの言葉」
妹たちのツッコミに、伊織は一瞬目をパチクリ。
「っ……!」
それから、ようやくやらかしに気付いたらしい。
「な、なーんちゃって! です!」
「だから、なーんちゃってないんだわ」
「なんちゃって、はやらかしを掻き消せる魔法の言葉ではない」
先程以上に真っ赤な顔になっている伊織に注がれる妹たちの視線は、やはり冷ややかなものである。
「そ、それよりほら皆、せっかく買ってきたんだから食べてみてよっ」
元はと言えば自分の発言から始まったことなので、春輝は若干気まずい思いでフォローも兼ねてマカロンの箱を開封する。
「ほんじゃ、いっただっきまーす」
「いただきます」
露華と白亜もそれ以上ツッコミを入れるつもりもないらしく、素直にマカロンを手にとった。
「んっ! うまうま!」
「口の中に溶けていく、濃厚ながらも上品なクリームの甘みが心地よい。さっくりとした外の食感と中の粘り気のある歯触りとの相性も抜群。主張しすぎない程度のフルーツの香りも素晴らしいバランス。文句無しの星五つ」
露華が一言で、白亜が長文で、それぞれ対照的ながらも好感触な感想を述べる。
「あの、私もいただいちゃいますねっ」
「もちろん、どうぞどうぞ」
「マカロンって、色とりどりで迷っちゃいますけどそれも楽しいですよねっ」
未だ少し頬は赤いが、伊織も一応落ち着きを取り戻してきたらしい。
「じゃあ私は、この白のバニラで……うん、とっても美味し、んっ、ケホッケホッ……!」
どうやら喋っている途中で喉に入ってしまったらしく、口元に手を当てて軽く咳き込む。
「大丈夫? ほら、紅茶飲むかい?」
「あっ、いえ、大丈夫です!」
春輝がペットボトルの紅茶を差し出すも、言葉通り伊織はもう問題なさそうで口元から手をどける……と。
「んんっ……!」
「……?」
春輝の行動の意味がわからなかったらしく、伊織は小さく首を捻る。
「お姉、口元口元! 中の
「あっ、ホント……!?」
露華の言葉に、伊織は軽く目を見開いた。
なお、指摘する露華の口元はやや引きつり気味である。
「ホントだ……んっ」
伊織は指で唇を拭い、指に付いたそれを舌を出してペロリ。
「ふふっ、ちょっとお行儀が悪かったですね」
それから、少し恥ずかしそうに笑った。
「……?」
そして、再び首を捻る。
春輝と露華が妙に気まずげな表情となっており、白亜がジト目を向けてきているためであろう。
「今の絵面は完全にモザイクが必要……やっぱりイオ姉は十八禁の化身……むしろ常にモザイクをかけておくべき……アーカーブの映像を編集し直さねば……」
「どういうこと!?」
またもドン引きした様子の白亜だが、やはり伊織は何もわかっていない様子で驚愕の表情を浮かべた。
「ねぇ春輝クンさ……ワンチャン、
「そんなわけないでしょ!?」
ちょっとだけ疑惑の籠もった露華の視線を受け、謎の飛び火に春輝も驚愕の表情と共に否定する。
そんな一幕はあったものの、バレンタインの時に比べれば幾分平和なホワイトデーであった……たぶん。
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またも間に合っていない上に、更新間隔が空いてしまい申し訳ございません……。
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