SS83 恋人たちの目撃者
存在しない相手に見せつけるために、露華と春輝が恋人同士という設定で遊園地デートを実施した……その、翌日。
「よっす露華、昨日どうだったんー?」
「進展あった? あった?」
「報告ヨロヨロ」
登校した露華は、興味津々といった友人一同から早速質問攻めに遭っていた。
「んあー、進展ねー……」
視線を少し上向けながら、露華は昨日のことを振り返り。
「まぁ結論から言うと、進展はなかったかな」
『そっかー……』
総括を述べると、一同残念そうに溜め息を吐いた。
「……ふひっ」
ただし、椿本瑠璃その人を除く。
「ふひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひぃっ」
『っ!?』
顔を伏せた彼女から壊れたレコードのように若干不気味な笑い声が漏れ出てきて、一同ちょっとビクッとなった。
「……おっと失礼。わたくし一定以上の尊みを摂取すると気持ち悪い笑いが出力される身体の構造となっておりますため」
顔を上げた瑠璃が、真顔でそう説明する。
「うん、まぁ知ってるけど……」
「毎度心臓に悪ぃんだよねそれ……」
「つーか今回、何トリガーよ……? 何もなくなかった……?」
友人だけあって慣れたものではあるが、苦笑は抑えきれないようだった。
「小桜さん、虚偽の報告はギルティでござるぞぉ?」
一方、今度はニンマリ笑った瑠璃がメガネをクイッと上げる。
「や、別に嘘なんて言ってないけど……」
「異議あり!」
露華としては本心からの言葉だったのだが、確信を持った様子の瑠璃にズビシと指差された。
「開始早々カレの方から、情熱的に手を握ってエスコートしてくれていたではござらんかぁ?」
「うーん……それはまぁそうだし、ウチ的にはトキメキポイントでもあったんだけど、向こうからするとウチと手ぇ繋ぐくらいは今更って感じだと思うんだよねー」
と返してから、露華は「ん?」と首を捻る。
「てか瑠璃りん、なんでそれ知ってんの?」
昨日の出来事は、まだ誰にも語ってはいないというのに。
「ふっ……」
すると、瑠璃はしたり顔でまたメガネをクイッと上げた。
「わたくし、昨日一日お二人の様子を隠れてずっと観察しておりましたがゆえ」
それから、しれっとそんなことを暴露する。
どうやら、見せつける相手は実在していたらしい。
「お、おぅ……瑠璃りん、暇なの……?」
「ふひっ……何をおっしゃる。これほどに楽しくて悪趣味な時間の使い方の機会など滅多にないというのに、逃すわけにはいかんでござろー?」
半笑いを浮かべる露華に対して、瑠璃はそれが当然とばかりに堂々と胸を張っていた。
「一応、悪趣味って認識はあんだよな……」
「認識した上で実行しているから余計に厄介なのでは……?」
「ていうか、事案やん……」
一方の友人ズは、やや引き気味であったが。
「まぁ、別にいいんだけどさ」
『いいんだ……』
露華が軽い調子で頷くと、今度は半笑いに。
「ふひっ、その後も……」
『あっ、ちょっと待った』
その後普通に話を続けようとした瑠璃に、ストップがかかる。
「事案の方に気を取られてスルーしそうになったけどさ……」
「手ぇ繋ぐくらいは、今更って言ったよね……?」
「つまり、普段からよく手を繋いでるってこと……」
「んー? まぁ、ちょいちょい?」
これもまた軽い調子の露華に、一同顔を見合わせて。
『それ……付き合ってるよね?』
「いや、付き合ってないけど?」
露華が普通に答えると、狐に摘まれたような表情となった。
「続きを語っても?」
『あ、はい……』
瑠璃の確認に、まだ不思議そうながら頷く友人ズ。
「その後もメリーゴーラウンドではギュッと力強く後ろから小桜さんを抱きしめ、ジェットコースターでは不安を和らげるために手を握り、コーヒーカップでも結局は悪ノリに付き合い、ウォータースライダー後はシャツが透けてドッキリ!? かと思えば、紳士的に上着をかけて差し上げる、etcetc……これだけの証拠が挙がっているにも拘らず、進展がないとおっしゃいますかっ? 『カレに恋人のフリをしてもらって、私のことを意識させちゃおう作戦』、大成功ではござらんかっ?」
「まー、言うてその辺も初めてってわけでもないしねー。あっ、そういう意味では上着のくだりは進展とは言えるのかも? どっちかっつーと、向こうがオンナノコの扱いをちょっとは覚えてきたって意味だけど」
『待って待って待って!』
相変わらず軽い調子で返す露華に、瑠璃を除く一同が掌を突き出す。
「えっ、バックハグに?」
「透けブラ?」
「オンナノコの扱い……?」
理解不能である、といった顔を突き合わせ。
『それ……付き合ってるよね?』
「いや、付き合ってないけど?」
先と同じ質問に対して、露華の回答も変わらない。
『えぇ……?』
友人たちの反応が、だんだん引き気味な感じとなってきた。
「続きを語っても?」
『あ、はい……』
これも先程のリプレイのようなやり取り。
「何より圧巻だったのは、
『それはもう付き合ってるだろ!』
「瑠璃りん、数えてたんだ……あと、付き合ってないけど?」
微苦笑を浮かべた後、真顔で言い切る露華。
「いや、それで付き合ってないのはどう考えてもおかしいでしょ!」
「ていうか、付き合ってても相手の好きなとこそんなスラスラ言えんわ!」
「ラブじゃん! ラブが溢れかえってるじゃん!」
露華の否定に、次々とツッコミが入る。
「えっ、ちょっと待って? もしかして、私たち何か勘違いしてたかな?」
「そうだね、露華ちゃんが片思いしてる体でずっと語ってきたけどさ」
「これ、熱烈アプローチを受けてる小桜さんが相手を弄んでるってお話じゃないの……?」
「や、ウチの片思いだけど?」
『それはおかしいでしょ!!』
これまでで一番力強いツッコミの声。
「百歩譲って、まだ付き合ってないにしてもよ!」
「これもう、あとは告るだけじゃん!」
「なに!? 向こうがなかなか告ってくれないとかそういう話なの!?」
「告白ねぇ……」
露華は、脳内でその場面をシミュレートしてみる。
「あー……まず、初手で冗談だと思われるわけじゃん?」
「なんでそこ確定してる感じなの……?」
「で、マジだって説明しているうちにグダってくるわけじゃん?」
「そんなに説明を要する想定なの……?」
「その苦労をした上で、ウチの計算では勝率……」
「勝率は……?」
ゴクリと息を呑む一同。
「限りなくゼロに近いかな」
『そんなわけないでしょ!?』
「あるんだなー、これが」
実際、
ほぼ確実にそうなるだろうと、露華は踏んでいた。
現在、春輝が露華に向けている感情は保護者としてのものだから。
(まっ……その前提を、どうやって突き崩していくかってお話なんだけど)
図らずも今回の一件で、思い浮かんだ『手』もないでもなかったが。
「てか、逆によ? それがマジだとするとよ?」
「露華ちゃんのことを弄んでるの、その人の方ってこと……?」
「ヤバい人なんじゃないの……?」
「んー? とっても真摯で誠実な人だよ」
『どんな人物像なの!?』
「まっ……天然のタラシではあるかもだけどね」
露華が、少しイタズラっぽく笑い。
「ふひひひひひひぃっ」
続いて瑠璃がまた発作を起こしたことで、露華以外の面々がちょっとビクッとなった。
「いずれにせよ、確かなことは」
スンッと真顔に戻った瑠璃。
「小桜さんからのラブは溢れている……ということですな?」
それから、露華に向けてニッと笑った。
「んっ……」
露華は、小さく小さく頷いた後。
「そうですぞっ!」
ちょっと茶化しながらも、頬を染めて満面の笑みを浮かべるのだった。
◆ ◆ ◆
一方、その頃。
「へっくし!」
「先輩、風邪ですか?」
始業前に雑談を交わしていた最中、春輝のくしゃみに貫奈が小さく首を捻る。
「あー……どうだろうな、昨日割と派手に濡れた状態でしばらく過ごしてたから……」
「良い歳して、何やってるんですか……」
「ははっ……そうだな……」
全くもってその通りではあるので、春輝としては苦笑するしかなかった。
「……それはそうと桃井、次の日曜って空いてるか?」
それから、本題を切り出す。
「はい、大丈夫ですよ。リリースですか? 朝イチからでいいです?」
「や、休日出勤の相談じゃなくて」
春輝も人のことは言えないが、真っ先に仕事に結びつける貫奈に再び苦笑が漏れた。
「悪い、随分と待たせちまったけどさ」
昨日の露華との『デート』、フリとはいえ『先約』を後回しにしてしまった形であったが。
「適当に? 遊びに行こうぜ」
白亜との『大人のデート』について相談したお礼、貫奈とのデートについて春輝としても決して忘れていたわけではないのであった。
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申し訳ございません、またしばらくの間は隔週更新になるかもです……!
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