SS76 続・恋バナ

 ──年の差恋愛って、アリですか?


 その露華の問い対して、少し考えた後に春輝が出した答えは。


「YES」


 で、あった。


『っ……!』


 この回答に、伊織と白亜がグッと喜色を噛み殺したような表情となり、露華は小さく口元に笑みを浮かべ、貫奈が少し目を細める。


「そ、それって、どれくらい……いえ、十一歳差はアリですか!?」

「十じゃなくて十一……? まぁ、YES」


 意を決したような伊織の問いに、やや疑問を覚えた様子ながらもく答える春輝。


「んじゃ、十二歳差はアリ?」

「YES」

「十三歳差は?」

「YESだけど、そんな細かく刻んでいく必要ある……?」


 続く露華と白亜の質問を受け、疑問の声を上げた。


「ある。これが重要」

「あ、はい……」


 そして、真顔で断言する白亜を相手にそれ以上何も言えない様子となる。


「オーケーオーケー、皆さん関心おありのようなのでここはちょっと掘り下げてみましょうか! ここからはまた、YES/NO以外の質問も受け付けましょう!」


 と、司会の役割を果たしている美星がそう仕切った。


(すまねぇ桃ちゃん、桃ちゃんだけを応援したいのは山々だけど……)


 同時に、貫奈にだけ見える角度で小さく両手を合わせて見せる。


(こんな面白……もとい、恋する純情乙女たちを見捨てることは私にはできねぇんだ!)


 そんな思惑までが伝わっているのかは不明だが、貫奈は微苦笑を浮かべるのみだった。


「ちな、春輝クン的に今の一連の流れはどういう意図でのYESだったわけ?」

「何歳差で付き合おうが本人たちの自由だし、実際それくらいのカップルだってそこまで珍しくもないだろ?」

「……ハル兄、例えば?」

「二十六歳と三十九とか?」

「で、ではっ……!」


 続く伊織は、少し躊躇するように一瞬間を空ける。


「十代と二十代の交際は、どう思われますかっ……!?」

「……別にそれも、本人たちの自由じゃない?」

「春輝先輩、一瞬言葉に詰まったのは何か心にやましいところがあるからですか?」

「そういうわけじゃないけど、ていうかなんか尋問みたいになってきてない!?」

「あっ、時に人見先輩」


 そこでふと、スンッと真顔になった美星が手を挙げた。


「事後報告となってしまい恐縮ですが、先程からこの問答は全て録音しておりますのでご承知おきください」

「別にいいけど、何のために……?」

「証拠能力はやはり必要かな、と」

「何のために!? やっぱこれ尋問なんじゃないの!?」


 事務的に告げる美星に対して、春輝の疑惑はますます深まった模様である。


「まーまー人見先輩、恋バナと尋問って紙一重なとこがあるじゃないですか?」

「初耳だけど!? 恋バナって、そんな物騒なもんじゃなくない!?」


 美星のフォロー(?)にも、もちろん疑惑が氷解した様子はない。


「えー? 人見先輩ってー、恋バナとは何ぞやというのを語れるくらい恋バナ経験豊富なんですかー?」

「や、そんなことはないというか、ほとんどないけどさ……」

「じゃあ、どんな恋バナがスタンダードかわからないじゃないですかっ!」

「だとしても、何かしらの詭弁の気配は感じるんだが……!?」

「オーケーオーケー」


 どうどう、と春輝を落ち着けるように美星は軽く両手を広げる。


「それじゃあ人見先輩に合わせて、もうちょいシンプルな恋バナといきましょうか」


 次いで、軽い調子で手を叩く。


「ぶっちゃけ人見先輩って今、好きな子いるんすかー?」

『っ!?』


 いきなりぶっ込んだ美星に、他の女性陣が「こいつやりやがった……!?」といった表情に。


「いるよ」

『っ!?』


 次いで、軽く答えた春輝に息を呑む。


「い、一体どなたなんです……!?」

「それは……」


 美星も緊張の面持ちとなる中、春輝が口を開き……。


「キスマホのキスミーホワイト」

「ズコーッ!」


 美星が派手にずっこけるリアクションをする中、他の女性陣は『あ、はい……』と半笑いで受け止めている。

 どうやら、このオチは予想済みだったらしい。


「最近ようやく三期まで通しで見たんだけど、やっぱ真っ直ぐな主人公って良いよな。各期のライバルとの関係も絶妙で、特に二期の……」

「……や、そういうのはいいんで」


 立ち上がった美星が、春輝の語りを遮る。


「すみません、二次元は対象外でお願いします!」

「じゃあ、葛巻小枝ちゃん」

「誰だよ!? ここに来てまさかの第三者!?」


 二度目の春輝の回答に、美星は助けを求めるように貫奈の方を見た。


「先輩の好きな声優さん」

「あ、はい……」


 そして簡素な解説に、納得の表情となる。


「声優さん的なのもナシで! 身近な三次の方でヨロです!」

「えぇ……? だったら別に……」


 そう、言いながらも。

 一瞬だけ……けれど、春輝が確かに貫奈の方に視線を向けたのを美星は見逃さなかった。


(うぉぉぉぉぉぉぉぉ! キテルやないかい! 無意識に桃ちゃんを意識しとるでぇ!)


 興奮のあまり、内心で関西弁になる美星。

 なお、生まれも育ちも関東である。


(そうでしょうとも人見先輩! 高校の時から貴方が桃ちゃんに向けてた感情は、きっと……!)


 と、美星が密かに鼻息を荒くする中……窓の外が、ピカッと明るく光って。


 ──ゴロゴロゴロゴロゴロォォォォォォォォォォォォ!!


 一瞬の後、激しい雷鳴が鳴り響いてガラスを揺らす。


 更に、それとほぼ同時に室内が暗闇に包まれた。


「ぎゃっ!?」」

「きゃぁっ!?」

「わっ、もしかして停電?」

「真っ暗……」


 各々の悲鳴や、困惑の声。


「あー……これ、付近一帯ダメっぽいわね」


 窓の外に見える街の景色も暗く、冷静な口調の貫奈が小さく溜息を吐く。


「懐中電灯、あったかな……? とりあえず、スマホで灯りを確保しましょうか」


『はーい』


 貫奈の提案に、露華と白亜の応答の声が応じて。


『………………は?』


 スマホのやや頼りない光に照らし出された光景に、スマホの持ち主たちは表情を固まらせる。


 伊織と美星が、左右から押し倒す形で春輝を抱きしめていたためである。

 なお、春輝は事態を飲み込めていないのか固まっている模様。


「……みっちゃん?」

「っ……! や、違くて!」


 涙目で春輝に抱きついていた美星は、貫奈のジト目に気付いて慌ててバッと離れた。


「私、暗いとこホント駄目で! ついつい、手近にあるものに抱きついちゃった的な!?」


 なんて、早口で言い訳を並べ立てる。


「なるほど、その手があったかー……」

「あの一瞬でその判断力、侮りがたし……」

「ちょっと露華ちゃん白亜ちゃん、故意犯みたいに言うのやめてもらえる!?」

「わ、私も、違うからね!? ビックリしちゃって、思わず抱きついちゃっただけだから!」

「檜山さんはともかく、とりあえずイオ姉はギルティ」

「それな」

「なんで!?」


 ……といった具合に。

 結局この日の『恋バナ』は、なし崩し的に終了を迎えたのであった。


 ゆえに。


 これは、美星すらも気付いていなかった事実である。


 停電の、一瞬前……春輝の視線が、三姉妹の方へも動こうとしていたことは。





―――――――――――――――――――――

毎度遅れまして恐縮です……。

一応、次回更新は8/29(日)頃目処とさせてください。

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