SS74 お泊まりといえば
「あー、はいはいオッケーオッケー。把握しました、完全に把握しましたー」
貫奈の部屋に集まったメンツについて、貫奈から美星へと軽く説明が入った後。
「つまり今夜は、私も交えての人見ハーレム~淫らな夜編~が始まってしまうということですね?」
「……みっちゃん?」
「ちょ、ちょっとしたジョークだって!」
キランとメガネを輝かせた貫奈に、美星は口元をヒクつかせて手を振った。
「そんじゃま、改めて……初めまして&お久しぶりです! 高校時代からの桃ちゃんの親友、檜山美星でっす!」
それから、おちゃらけた態度で敬礼のポーズ。
「初めまして、小桜伊織ですっ。桃井さんと春……人見さんの会社で、バイトをさせていただいておりますっ」
「その妹、露華でーす」
「同じく、白亜です。よろしくです」
伊織が折り目正しく礼をし、露華が敬礼を返して白亜が軽く頭を下げる。
「どもども、よろしく~。で、今日は皆さんで桃ちゃんとこのワンコちゃんを見に来たと」
「あぁ、そうだよ」
最後に目を向けられ、春輝が軽く頷いた。
「ちな、それって最初に声をかけられたのって人見先輩です?」
「ん? あぁ、まぁ、一応そうなるのかな?」
その時のことを思い出しているのか、軽く視線を上げながら答える春輝。
(ほっほーん?)
それを眺めながら、笑顔の裏で美星は考える。
(こりゃ桃ちゃん、
十年来の付き合いだけあり、親友の考えは概ね推測出来た。
(というか、仮にこの子たちが来てなかったとしても私こそがそのお邪魔枠になっちゃってたわけだよね……私が言うのもアレだけど、桃ちゃんは相変わらず間が悪いっていうか……)
内心で、苦笑する。
(だけど、この状況で私が来たっていうのは……逆にさ)
それから、密かに顔を伏せてほくそ笑んだ。
(桃ちゃんをアシストせよっていう、神の啓示的なアレじゃなーい?)
果たしてそれは、親友への思いやりなのか……あるいは。
「おっしゃ! そんじゃあ皆、恋バナしようぜー!」
単に、この状況を楽しんでいるだけなのか。
「急に何だよ……」
「やっぱ、お泊りといえば定番じゃないっすかー」
やや呆れ気味の春輝に対して、美星が当然とばかりの態度で返す。
「まぁ、やりたいっていう人がいるなら止めはしないけどさ……それじゃ、俺は席を外……」
「駄目です」
女性陣の恋愛事情を聞いてしまわないよう離席しようとした春輝だったが、即座に美星に腕を掴まれた。
「なんなら、人見先輩が一番のキーマンってやつなわけなんで」
「なんでだよ……」
半笑いを浮かべた後、春輝は何かを思いついたようにそれをニヤリとした笑みに変化させる。
「まさか、俺のことが好きなのか?」
『っ!?』
明らかに冗談めかした調子の春輝の言葉に、美星以外の女性陣の目がギンッ! と見開かれた。
なお、春輝は背中を向けているためそれに気付いてはいない。
「おぉぅ……」
一方、彼女たちの視線をモロに受けた美星は思わずといった感じで半歩ほど下がった。
「人見先輩、そういう冗談言えるようになったんですねー。ただそれ、切った瞬間にゲームセットになるケースがあるんで切りどころは考えた方がいいっすよー」
「見境なく言ってたら、ただの痛い勘違い野郎だろ……ちゃんと言う相手は選ぶっての」
恐らくそれは、美星相手ならば確実に冗談だと伝わるということなのだろうが。
「やー、合ってるんだけど合ってないんですよねー……」
「どういうこと……?」
と、二人がそんな会話を交わす一方で。
「桃井さん、つかぬことを伺いますが」
露華が、コソッと小声で貫奈に話しかける。
「あの人……ワンチャン、
「や、それはないから安心して」
「なるほどー、ありがとうございます」
同じく小声の貫奈の返答を受け、露華はニヤリと笑った。
「いいじゃん、恋バナ! やろやろっ!」
「っと……」
それから、弾んだ声と共に春輝の腕に抱き着く。
「ほぅ……?」
そんな様を見て、美星がほんの小さく声を上げた。
(積極的にスキンシップしていくタイプの子か……にしても、人見先輩ともあろうお方があれでほとんど動揺していないとは。もう、その程度で動揺するような間柄じゃないってこと? こりゃあ、一番のライバルは……)
口元に手をやり、ジッと観察する。
「ハル兄……わたしもハル兄と恋バナしたい、かも」
「えぇ……?」
続いて、白亜が春輝の服の裾を摘んだ。
(まぁ、流石にこの子は対象外……いや、待てよ? そういや昔、人見先輩がいつまで経っても桃ちゃんと付き合わない理由に『人見先輩ロリコン説』を検討したことがあったような……いやいや、まさか……んんっ!? というかこの子……庇護欲を誘う上目遣いに、小さな指でちょこんとだけ摘む仕草……自分の容姿の幼さを
美星の脳内で、思考が加速していく。
「あ、あのっ、私も恋バナ、してみたいかなー、なんて……その、春輝さんと……」
「伊織ちゃんまで……?」
一方で、モジモジと指を絡ませながらの伊織の言葉に春輝は困惑の表情である。
(この子は、他の子に比べたら控えめな感じかなぁ……ただ……)
美星は、伊織の顔から少し下の方へと視線をズラした。
(説明不要の、
半目で睨んでいると、それに気付いた春輝が「……?」と不思議そうな顔となる。
(にしても、この子たちの反応を見る限り……
ちなみに、今日この日まで美星は彼女たちの存在を知らなかった。
貫奈とは頻繁に連絡を取っているし、実際に会って遊ぶ機会も少なくはない。
春輝との件についても定期的に確認しているのだが、今まで一度も貫奈が彼女たちについて口にしたことはなかった。
(いーや、言うてナマケモノくらいの速度なだけでそのうちゴールするんだろうなー、結婚式の招待状いつ届くかなーとか思ってたのにさー)
ゆえに、まずは軽く探りを入れてみている最中なわけだが。
(桃ちゃん……初心者モードでも十年クリア出来てなかったのに、なんでここにきて鬼難易度に上がってんの……?)
タラリと、美星の頬を汗が流れる。
(ま、だけどそういうことならやっぱりここは……マブダチとして、一肌脱いで差し上げるとしましょっか!)
それを指で拭い取りながら、密かに好戦的な笑みを浮かべる美星であった。
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申し訳ございません、次回更新もまた1回スキップして8/1(日)頃目処とさせてください。
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