SS73 宿泊際の攻防戦(?)、そして

 ──明日も休みですし、皆でウチに泊まっていけば良いのですよ。


 そう言い放った、貫奈に対して。


「あぁ、なるほど。そうだな、確かにそれは良い」


 春輝も、納得した様子で大きく頷いた。


「伊織ちゃんたち、泊まらせてもらいなよ」


 それから、伊織たちにそう言って微笑みかけ。


「そんじゃ悪いけど貫奈、頼めるか?」


 そして、貫奈に向けて少し申し訳無さそうな表情で手を合わせる。


「や、何を他人事みたいに言ってるんですか? 当然、先輩にも言ってるんですが」


「……んんっ?」


 貫奈と春輝、お互いを見る目は「こいつ何言ってんだ?」とでも言いたげなものだった。


「や、流石に俺が泊まるのは不味いだろ」


「何がです? 別に、先輩と雑魚寝するのとか初めてじゃないじゃないですか。学生時代の宅飲みとかで」


「それはそうかもだけど……」


 チラリと、春輝は伊織たちの方を窺う。


「あの子たちと一緒に泊まりってのはさぁ……」


「なーに言ってんですか、一緒に住んでるくせに」


「や、普段は寝るところは一階と二階で結構離れるわけで……この1Kの部屋で一緒ってのはさぁ…」


「えーい、いいから観念して泊まっていきなさい! 何のために今日、先輩を呼んだと思ってんですか!」


「飼い犬のお披露目のためだけど!?」


「そんな風に思ってるの、たぶんもう春輝先輩だけですよ!」


「どういうこと!?」


「あ、あの、春輝さん……」


 二人の議論(?)が白熱する中、伊織が割り込んでくる。


「流石にこの大雨の中で今から一人で帰られるのは危険ですし、春輝さんを一人で帰してしまっては私たちとしても心配なのですが……」


「う……」


 伊織の言葉に一理あると思ったらしく、少し呻いた後。


「……わかったよ。悪い、俺も泊まらせてもらうわ」


「はい、喜んでっ」


 諦めの表情で頭を下げる春輝に、貫奈は満面の笑みを浮かべるのであった。


「ただし!」


 が、しかし。


「お前、寝袋持ってたよな! あれ貸してくれ! 俺、それでベランダで寝るから!」


 ここで春輝、今度は別方向に粘る。


「は、春輝さんにそんなことはさせられません! それなら私がベランダで寝ます!」


「いや伊織ちゃん、それじゃ何の問題も解決しないから!」


「どっちにしろ、この雨の中でベランダは無理だと思いますが?」


 謎の自己犠牲を発揮する伊織に春輝がツッコミを入れる中、貫奈が冷静に指摘する。


「んんっ……! じゃあ、しゃあない! キッチンのスペースを貸してくれ! そこで寝るから!」


「まぁ、先輩がそうしたいと言うなら止めはしませんが……」


「別に、そんな気にすることないじゃん?」


 と、軽い調子の露華が話に加わる。


「ウチとは、もう寝たわけだしさ」


「必ずしも間違ってはないんだけど、言い方ぁ!」


「……ほぅ?」


 貫奈のメガネが、ギラリと光った……ような、気がした。


「その辺りの詳細も、じーっくりお聞きしたいですし? やはり、この部屋で皆で一緒に……」


 ──ピンポーン


 貫奈の言葉の途中で、部屋のインターフォンが鳴る。


「すみません、ちょっと失礼」


 と、貫奈が玄関の方へと足早に向かった。


 廊下に繋がる扉が閉められると、向こうの様子は伺えないが。


「急に来ちゃってごめーん!」


 玄関の扉を開けた音に続いて、そんな元気な声が響いてくる。


(……? なんか、微妙に聞き覚えある気がすんな……)


 それに対して、ふと春輝はそんな印象を抱いた。


「この雨でしょ? ちょっと、今から帰るの無理めでさー! ホンット申し訳ないんだけど、今日泊めてもらえないかな……!? 他に宛てもないっつーか、ちょうどこの近くを通りがかったとこで降り出したもんで……!」


「えーと……ちょ、ちょっと待っててねっ!?」


 と、貫奈の足音が慌ただしく戻ってくる。


「あのー……皆さん。大っ変、申し訳ないのですが……宿泊者、もう一人増えちゃってもよろしいでしょうか……? その、怪しい人とかではないので……」


 そして、言葉通り申し訳無さそうな顔を覗かせた。


「なんとなく話は聞こえてたから、俺はまぁ先方が良いなら構わんけど……キッチンで眠る理由が増えるだけだし」


「私たちも……」


 春輝に続いて伊織、一瞬だけ妹たちの方を振り返って二人が頷くのを確認する。


「はい、大丈夫です」


 それから、ちょっと戸惑った様子ながらもしっかり頷いて返した。


「それじゃ、もう一度失礼して……」


 と、貫奈の顔が再び引っ込む。


「ごめんごめん、誰か来てるんだ? じゃ、やっぱ私は……」


「や、大丈夫! 許可はもらったから! それよりほら、そんなびしょ濡れじゃ風邪引いちゃうから! まずこれで身体拭いて!」


「いいのっ? センキュー、マジで助かるー! やっぱ、持つべきものは親友だよねー!」


 そんな会話と共に、タオルで身体を拭いているのであろう気配が伝わってきた。


「ちな、誰が来てるの? 私の知ってる人?」


「えーと、一人は一応……」


「良かったー! でも、他は知らない人なんだ? どういう集まりなの?」


「んー………………仕事関係?」


「えっ? 逆に、仕事関係でなんで私の知ってる人が……あっ、まさか!」


 何やら、何かに気付いた様子の訪問者。


「えーと、その、色々と経緯はあるんだけど……後で説明するから、とりあえず上がって? いい? たぶん最初は驚くと思うけど、後でちゃんと説明するからね?」


「ははっ、めっちゃ説明強調するじゃん」


 なんて会話が、近づいてきて……扉が、開く。


「あっ、やっぱり……!」


 真っ先に春輝と目が合った訪問者が、歓喜と若干のゲスみを帯びた笑みを浮かべ。


「………………ぃ?」


 続いて小桜姉妹の顔を順に見ていき、疑問に満ちた表情に変わっていく。


 最後に「くぅん?」と首を傾げるチョコを見てから、少し考えるように首を捻った後。


「人見先輩、これどういうプレイなんです?」


 真顔で問うてくる訪問者は、誰あろう……先程ちょうど春輝が脳裏に蘇らせていた思い出の登場人物、最後の一人。


 貫奈の高校時代からの友人、檜山美星その人であった。





―――――――――――――――――――――

更新が遅れてしまいまして、申し訳ございません。

また重ねて申し訳ございませんが、次回更新は1回スキップして7/18(日)目処とさせてください。

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