SS71 フォトグラフ
全てを打ち明けるか否かブツブツと呟きながら迷った末に、「先輩!」と呼びかけて。
「しゃ、写真!」
そう言いながら、貫奈はデジタルカメラを取り出す。
「写真、撮る! 思い出! 残す!」
結局、ここでもちょっとヘタレた結果である。
「なんで急にカタコトになってるんだ……?」
微苦笑を浮かべつつも、春輝は小さく頷いた。
「別に、写真を撮るくらいはお安い御用だって」
「あ、はいっ、では……!」
喜色を浮かべる貫奈の手から、デジカメを受け取る。
「ん……? あれ……?」
その段階で、貫奈が「何かおかしい気がするな……?」という表情を浮かべ始めた。
「よし、じゃあ撮るぞー?」
「あっ、はい……はい?」
「はい、チーズ」
「チーズ………………んんんっ?」
パシャリ。
デジカメから、シャッター音が鳴り響く。
「オッケー。ほら、よく撮れてるんじゃないか?」
「? あ、はい……あれっ……? ……? ??」
春輝にデジカメの画面を見せられる貫奈の頭の上には、沢山の疑問符が舞っていた。
「……って、違います! 私の写真を先輩が撮ってどうするんですか!」
だいぶタイムラグがあったが、ようやく自分の意図と異なることに気付いたらしい。
「あれ? 違うのか?」
「その行為に何の意味があるっていうんです!?」
「……卒業式の日に先輩に写真を撮らせた、実績解除?」
「そんなトロフィーいりません!」
そう言いながら、貫奈は春輝の手からデジカメを奪い返す。
「私が! 先輩の写真を撮るんです!」
「その行為に何の意味があるんだ……?」
「卒業式の日に先輩の写真を撮る、実績解除です!」
「そっちのトロフィーは欲しいのか……」
ここに来て、貫奈の口調がヤケクソ気味になってきた。
「はい先輩、そこ立って! いいですか、撮りますよっ? はい、チーズ!」
「チーズ」
パシャリ。
「良し……って、あははっ! 先輩、チーズのズの部分で撮れちゃってちょっと変顔になってますよ!」
「ふはっ、ホントだ。じゃあ、撮り直すか」
「いえまぁ、これはこれで」
「いいのかよ。まぁ、お前がいいなら別にいいけどさ」
自分の変顔が残るというのは少し恥ずかしくはあったものの、この後輩だけが見るのならまぁ構わないだろうと思う。
「あと、もう一枚……」
そこで貫奈は、若干言い淀み。
「私と……一緒の写真を、撮っていただけませんか?」
デジカメで口元を隠すような格好で、恐る恐るといった様子で尋ねてきた。
「……まぁ、いいけど」
これもなんとなく面映ゆかったが、後輩との最後の思い出を残しておくのも悪くはないかと思って小さく頷く。
「でも、カメラ置くちょうどいいとこなくないか?」
「そうですねぇ……」
二人で、周囲をキョロキョロ見回す中。
「あっ!」
貫奈が、何かを発見して嬉しそうな声を上げた。
「みっちゃん! ごめん、ちょっといいかなっ」
「ん? 桃ちゃん、どしたん?」
通りかかった女子に声を掛けると、みっちゃんと呼ばれた女子生徒も親しげな調子で応じる。
「うん、写真を撮ってもらいたくて……お願い出来ない?」
「もち、いいよーん……って」
快諾した後、みっちゃんの目がキランと光った……ような、気がした。
「ほぅ! ほぅほぅほぅほぅ!」
「うぉっ……!?」
なぜかちょっと興奮した様子で、みっちゃんが春輝へと躙り寄ってくる。
その妖怪じみた動きに、春輝は思わず後ずさってしまった。
「これが例の『春輝先輩』かね、桃ちゃんや!」
「そ、そうだけど……余計なこと、言わないで!」
ジロジロと無遠慮に春輝を四方八方から眺めるみっちゃんを、貫奈が必死の形相で押し留める。
「どうも初めまして、人見先輩ですよねっ? ウチの桃ちゃんがいつもお世話になっております!」
「あぁ、うん、初めまして、人見春輝です。えーと……君は?」
一転して折り目正しく礼をするみっちゃんに対して、春輝はどう対処すれば良いのか測りかねていた。
「申し遅れました! 私は
敬礼のポーズを取る、みっちゃんこと美星。
「マブダチ……」
その言葉が、じんわりと春輝の胸に広がっていく。
「そっか……」
かつて、貫奈は友達がいないからという理由で逃げるように図書室へとやってきて春輝と出会った。
春輝としてもその状況を苦慮したものの、出来たのはちょっとした気分展開とアドバイスにもなっていないアドバイスくらいで。
結局貫奈は、自分で踏み出して友人を作った。
そう聞いてはいたものの、貫奈と過ごすのは図書室で二人きりでの時間のみ。
「桃ちゃんから、先輩の噂はかねがね……」
「ちょっ、だから余計なことは言わないでっ!?」
「モガモガー」
ニヤニヤ笑う美星の口を、貫奈が後ろから慌てて塞ぐ。
そんな風に友人と親しげに接している様を、実際に見ていると。
「……良かった」
高校生活最後の心残りが、消え去っていく気分だった。
「檜山さん……ありがとう」
気が付くと、春輝は美星に対して礼の言葉を伝えていた。
美星は、目をパクチリとさせた後……貫奈の拘束から逃れて。
「こちらこそ、あざっした! 桃ちゃんに、先輩がいてくれて良かったです!」
ニッと笑って、親指を立てた。
「聞いてた通りの人みたいで……これなら私も、素直に応援出来そう」
次いで、ポツリとそう呟く。
「応援……? 何の……?」
「それは……」
「はいストォップ!」
とそこで、貫奈が素早い動きで再び美星の口を塞いだ。
「桃ちゃん、写真撮る! お口チャック! いい!?」
「モガ」
またもカタコト気味になった貫奈に対して、美星は素直に頷く。
貫奈は、そんな美星にデジカメを手渡し……最後に釘を刺すように一睨みした後、春輝の隣に移動した。
「ちょっとお二人、全然遠いでーす! もっと寄って寄って! 一枚に入んないんで!」
「そんなに範囲狭いもんだったっけ……?」
「ま、まぁまぁ先輩、撮る人があぁいってるんですから」
「遠い! まだ遠い! ていうか、抱き合って!」
「それはやり過ぎだよ、みっちゃん!?」
なんて、騒がしくも構図を決めていき。
「1008Σ[n=1~∞](n^5)/(e^(2πn)-1)は~?」
『えーっ、と……』
「や、そこは流れで2ってわかってください!? 普通に計算始めないで!?」
『に、2ぃ!』
「タイミングぅ! すんません、私が悪かったです! 1+1は~?」
『にぃ!』
パシャリ。
こうして。
ぎこちなく寄り添う二人の写真が、残されたのだった。
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いつも読んでいただいております皆様、誠にありがとうございます。
新しく、『男子だと思っていた幼馴染との、親友のような恋人のような新婚生活』という作品の投稿を始めました。
https://kakuyomu.jp/works/16816452221029879202
10年ぶりに再会した幼馴染との、楽しく甘い新婚生活を描くじれじれ系ラブコメです。
楽しんでいただけるものに仕上げているつもりですので、こちらも読んでいただけますと嬉しいです。
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