SS
SS55 露華と余暇のヨガ
とある休日。
リビングに顔を出した春輝は、片足立ちとなって左足を右足に絡め、腕もまた螺旋状に絡めている……というポーズの露華を目撃することとなった。
「……身体を使った現代アートか何か?」
人間大のネジでも表現しているかのような姿に、思わずそんなコメントが漏れた。
「ふぅ……」
露華は、ゆっくり息を吐き出しながらポーズを解いて。
「いや、ヨガよヨガ」
そう返してくる。
「これは鷲のポーズっていって、脚とか二の腕のダイエットに効果があんの」
「へぇ……そうなんだ。ちゃんと意味のあるポーズなんだな……」
「そりゃそうっしょ。何の意味もなくこんなポーズしてたらウチ、ただのクレイジーガールじゃん」
「いや、ワンチャン露華ちゃんならあり得るかと思って……」
「春輝クンはウチのこと何だたと思ってんの?」
率直な感想を述べると、ジト目を向けられた。
「ま、美容のためにね。これでウチも、結構努力してるってわけよ」
次いで、露華は軽く肩をすくめる。
「そっか。その可愛さも努力の賜物ってわけだ」
「……まぁた、春輝クンは無自覚にそういうこと言う」
春輝としては素直に称賛したつもりだったのだが、なぜかまたジト目を向けられた。
「無自覚、って……?」
「そういうとこ、なんだよなぁ……」
意味がよくわからず首を捻ると、今度は呆れ気味に溜め息を吐かれた。
ただ、少し頬が赤くなっているあたり照れ隠しなのかもしれない……なんて、春輝は考える。
まさしく、『そういうとこ』であった。
「それはともかく」
と、露華は表情を改める。
「せっかくだし、春輝クンも一緒にやらない?」
「ヨガを?」
「そ。ヨガって、凝りをほぐすとかの効果もあるんだよ?」
「へぇ、そうなんだ? じゃあ、やってみようかな」
デスクワークなこともあって日々凝りに悩まされている春輝としては、大いに興味を唆られる話であった。
「ほんじゃ、ウチがやるのを真似してみてね?」
「わかった」
言いながら露華が膝を床についたので、春輝も同じく膝立ちの姿勢を取る。
「肩凝りに効くのはぁ……これっ!」
露華は両手を前方に突き出してググッと伸ばしていき、上半身を床に這わせるような格好で顎を床につけた。
「子犬の伸びのポーズだよー」
やや喋りづらそうにしながらも、そう説明する露華。
……ちなみに、現在の彼女は身体にフィットしたシャツとスパッツという出で立ちである。汗をかくことも想定しているのか、結構な薄着と言えた。
身体のラインがハッキリと見える格好であり、床に圧迫された胸や突き出されたお尻につい目がいってしまったのは男の性と言えよう。
「……? 春輝クン、何してんの……?」
一向に春輝が動き出さないためだろう、ポーズをキープしたまま視線を向けてくる露華と目が合いそうになった瞬間に春輝はそっと目を逸らした。
「……はっはーん?」
視界の端に、露華が笑う様が映る。
「おんやぁ? 春輝クン、どうしたのかにゃぁ? ウチのお手本、ちゃーんとしっかり見ないと真似できないよねぇ?」
見なくとも、そこにニマニマとした笑みが浮かべられていることは容易に想像出来た。
「いや、まぁ、その、なんだ」
コホン、と春輝は一つ咳払い。
「年頃の女の子が、男の前でそういう格好を晒すのはあんまりよくないと思うな」
「……こんなとこ見せるの、春輝クンだけに決まってるじゃん?」
露華の声色が、少し変わったように感じられる。
「ははっ、そういうこと言うのも男子は勘違いしちゃうからダメだぞ?」
視線を外したまま、意識して春輝は軽い調子で笑い飛ばした。
「それ、春輝クンにだけは言われたくないんだよなぁ……」
「どういう意味だよ……?」
「だから、そういうとこだってばさ」
露華が膝立ち状態に戻ったようなので視線を戻すと、その顔は深めの苦笑で彩られていた。
「ま、それはともかく」
再び、露華が表情を改める。
「今のは、ちょーっと春輝クンには刺激が強すぎたみたいだし? 別のにしようか」
「あー……まぁ、うん、そうしようか」
思うところもないではないが、どこかホッとした気持ちが生まれたのも事実であった。
「ほんじゃ、これ……椅子のポーズ」
立ち上がって足を揃え、両膝を軽く曲げた後に両手を合わせて大きく上方へと突き出す露華。
「なるほど……?」
これも上半身を若干反らす格好で胸元が強調される感じなのが気にはなったが、煩悩を振り払って春輝も彼女と同じポーズを取る。
「ちなみにこれ、なんで椅子のポーズって名前なの……?」
「椅子に座ってるようなポーズだから、らしいよ?」
「言うほど座ってないっていうか、ほぼ立ってると思うんだけど……」
「それをウチに言われてもねぇ」
「まぁ、それはそうなんだけども……」
「続いては、牛の顔のポーズ。上から見た時に、下半身のシルエットが牛の顔に見えることが名前の由来だって」
「これも、見え方がわからない……」
「次は、半魚王のポーズ」
「と思ったら、今度はもうモチーフの意味もわからない」
「からの、仰向けの魚の王のポーズ」
「ねぇ、これホントに実在するやつ? 適当に言ってない?」
「ちゃんと実在するやつだって。ほら、腰の筋肉が伸びて腰痛に効いてる感じがするっしょ?」
「確かに……」
と、いう感じで。
なんだかんだ、以前に比べて健康状況が改善される要素が多い春輝の日々であった。
―――――――――――――――――――――
今回より、2巻の店舗購入特典を公開して参ります。
1つ目は、アニメイト様特典です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます