SS54 自分なりのチャレンジと、姉の反応と

 妙に大人びた笑顔を見せた後、白亜はすっかり普段通りとなり。


 結局その本当の悩みまではわからなかったものの、吹っ切れたのなら良かったと春輝も『等身大のデート』を引き続き楽しんだ。


 そして帰宅しての、その日の夕食後。


「ハル兄、今いい?」


 春輝が寛ぐリビングに、白亜がヒョコっと顔を覗かせた。


「うん、構わないよ。どうかした?」


 春輝は、読んでいた小説を閉じて笑顔で応じる。


「また、ギミックが解けなくて」


 トトトッと歩み寄ってくる白亜の手には、携帯ゲーム機。


「ははっ、それじゃ一緒に考えようか」

「ん、ありがとっ」


 礼を口にしながら、白亜は腰を下ろす。


 春輝の、両足の間に。


(……んんっ?)


 あまりに自然な動きだったので、一瞬普通に受け入れてしまったが。


 さしもの春輝も、この状況に戸惑いを覚える。

 以前にも同じ体勢になったことはあるが、あの時はもうちょっと前フリがあったはずだ。


「えっと……白亜ちゃん?」

「ここ、扉の開け方がわからない」


 春輝の疑問の声をゲーム内で詰まっている箇所を尋ねたと認識したのか、白亜は固く閉じられた扉の前でキャラをウロチョロさせる。


「あー……っと。右の方の空白の場所がなんか怪しくない?」

「なるほど」


 とりあえず、ゲーム内の事に答えつつ。


「それはそうと……なんで、そこに座ったのかな……?」


 スルーしようかとも思ったが、なんとなく気になって尋ねる。

 脳裏に蘇るのは、彼女が今日見せたやけに大人びた笑顔。


 今までであればこの状況も微笑ましいだけだったのだが、それを思い出すと妙にドギマギしてしまうのだった。


「? この体勢が二人で画面を見るのに最適なのは自明」


 けれど、不思議そうな顔で見上げてくる白亜は今まで通りの子供っぽい仕草で。


 なぜか、妙に安堵したような気分となる。


「わたし、邪魔?」


 引き続き、白亜はジッと春輝の顔を見つめてくる。


「ははっ、そんなことないよ。確かに、この体勢が一番かもね」


 平常心を取り戻し始めていた春輝……だったが。


「ふふっ、なら良かった」

「っ……!?」


 ふいに白亜が浮かべた笑みは、またあの時と同じもので。


 大人と子供。

 その境界を行き来するかのような印象に、翻弄される気分なのだった。




   ◆   ◆   ◆



 そんな様を、キッチンの方から眺める露華。


「ねー、お姉。あれ・・……どう思う?」


 洗い終わった皿を拭きながら、姉に水を向けてみた。


「んー?」


 こちらはお茶碗を洗いながら、伊織がリビングの方を伺う。


「もう、白亜ったらまた春輝さんに甘えて……でも、なんだか元気になったみたいで良かった。最近、何かに悩んでるみたいだったから……」


 前半は眉根を寄せて、後半は微笑んでの言葉だった。


「んー……」


 なるほど、表面上はその通りだろう。


 けれど。


引っ掛かる・・・・・よねぇ……)


 露華は、密かに視線を鋭くする。



   ◆   ◆   ◆



 その夜、露華の部屋にて。


「第八回、小桜姉妹緊急特別会議ー」

「おー」


 開幕を宣言する露華に、白亜がやる気なさげに声を合わせる。


「もう、露華ったら。第一回、でしょ?」


 クスクスと笑う伊織は、彼女のなりにツッコミを入れているつもりなのだろう。


「や、実際過去に七回開催してるんで」

「第一回は、もう結構前の出来事」


 しかし、そこは別にボケではないのであった。


「え……? でも私、初めて……」

「イオ姉はこの会議においてはゲスト的ポジションだから」

「小桜姉妹の会議なのに……!?」


 白亜の言葉に、若干ショックを受けている様子である。


「まぁお姉のことは置いとくとして」

「置いとかないでほしいんだけど……」


 抗議の目線を向ける伊織だが、露華はスルー。


「さて、白亜……吐いてもらうか」

「何のことか、皆目見当もつかない」


 ギランと目を輝かせる露華に対して、白亜は露骨にとぼけた調子で肩をすくめた。


「春輝クンと、何があった?」


 構わず、露華は問いを重ねる。


「別に……ハル兄からアドバイスをもらったから、それを実行してるだけ」

「アドバイス……?」


 曖昧な言葉に、小さく片眉を上げる露華。


「わたしは、もう自分で未来を決めつけない。ちゃんと、チャレンジして……それでダメでも、またチャレンジする。わたしなりの方法で」

「ふぅん……?」


 そこまで聞いて、露華も合点がいった気持ちとなる。


 これまで、自覚があったのかはともかくとして。

 白亜は、自分が子供っぽいことにコンプレックスを抱いていた。


 ゆえに、無理に大人のように振る舞おうとしては余計に子供っぽくなっていたのだ。


 しかし、先の白亜に背伸びした様子は見られず……いわば。


「等身大のわたしで、勝負する」


 そう、等身大とでも呼ぶべき姿であった。


(なるほどねぇ……これは意外と厄介っつーか、確かに白亜にしか出来ない方法だわな……)


 例えば、露華が先程の白亜のように春輝に迫った場合。

 そういう意味になり過・・・・・・・・・・ぎる・・


 恐らく、春輝は動揺して数秒たりとて同じ姿勢を維持出来ないだろう。

 あれは、白亜の幼さあってこそだ。


 しかし、まだピースが足りない・・・・・・・・


「それだけじゃ、春輝クンの反応はあぁはならないと思うんだけど?」


 そう……これまで通りであれば、それこそ春輝は白亜を子供として扱って動揺することもなかったはずだ。

 あれは、少なからず白亜に大人な部分を感じているがゆえの反応ではなかろうかと思う。


「別に」


 白亜は、再び肩をすくめ。


「ハル兄に、キスしただけ」


 言葉通り、何でもないことのないようにそう口にする。


「ほーん?」


 一方、露華の反応も薄い。


 それから、沈黙を挟むこと数秒。


「……ほぇぇっ!?」


 フリーズしていた伊織が再起動し、素っ頓狂な声を上げた。


「キ、えっ、キスって、キス? キ……ス? キス!?」


 が、混乱によってまだ上手く言語が出力出来ないようだ。


「ほっぺに、だけど」

「まー、そんなことだろうと思ったよ」


 白亜の言葉を受けて、露華はやはり動揺を見せずに肩をすくめる。


「や、ほっぺって言ったって……! きききき、キスだよ!? キス! だよ!?」


 一方で、伊織は未だバリバリに動揺中であった。


「……あれ?」


 次いで、ハッと何かに気付いたような表情となる。


「えっ、ていうか……なんで露華、さっきからそんなに冷静なの……?」


 どうやら、露華の態度に気付いたようである。


「まさか……」


 口元に手をやって、伊織はワナワナと震えだした。


「露華も、したことある・・・・・・の……!?」


 露華の平静さの理由を、そう見出したようである。


「さー? ゴソーゾーにお任せしまーす」


 一方の露華は、そう言ってニンマリと笑うのみ。


「露華、それ私をからかってるだけだよね……!? ねっ、そうなんだよね……!?」

「どうだろうねー?」


 焦った表情の姉に対しても、その態度を崩さない。



   ◆   ◆   ◆



(もしかして……)


 ここに来て、伊織は一つの推測に至る。


(私が一番、遅れてる・・・・……!?)







―――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうざいます。

WEB書き下ろし分であるSS5から今回のSS54までを、『SS(第3章)』という区分にしました。

商業的には2巻で完結しておりますが、これらSSも作者公認の正史ではある……という感じです。

皆様だいぶ前から薄々気付いてらっしゃったかと思いますが、1話で終わる話の方が少ないくらいですし、本編とやっていること変わりませんのでね……。


そして、第3章も今回にて完結。

次回より2巻の時の店舗特典SSの公開を挟んだ後、第4章を投稿して参ります。


「面白かった」「続きも読みたい」と思っていただけましたら、少し下のポイント欄「☆☆☆」の「★」を増やして評価いただけますと作者のモチベーションが更に向上致します。

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