SS45 収入と相談と
「イオ姉、今月分の動画で稼げたお金が振り込まれてると思うから確認しておいて」
「あっ、うん。ありがとう」
報告してくる白亜に対して礼を言いながらも、伊織はどこか浮かない表情だ。
「だけど、本当に白亜は気を使わなくていいんだよ? 自分で稼いだお金なんだから、自分のおこづかいにしても……」
「それはイオ姉やロカ姉だって同じはず」
「でも……」
三人は、それぞれバイト代や配信者として得たお金を借金の返済に当てるために貯蓄していた。
春輝が肩代わりしてくれているとはいえ──そして、返済は父親が帰ってきてから考えればいいと言ってくれているが──あるいはだからこそ、借金は借金だ。
少しずつでも返していくつもりだった。
とはいえ。
「欲しいものとか、あるでしょ?」
伊織としては、妹たちにあまり不自由な思いをさせたくはない。
まして、白亜はまだ中学生なのだ。
「別に……欲しいものは、大体ハル兄が買ってくれるし」
「それは……まぁ、そうかもだけど……」
むしろ、欲しいと言わずとも先回りして買ってくるのが春輝である。
伊織としてもありがたさと心苦しさ、半々くらいの心持ちだった。
「それに、最近はファンの人が欲しいものリストから色々と送ってくれたりしてるし」
「そう……なの?」
それは初耳で、小さく首を傾ける。
(確かに最近、白亜宛ての荷物が妙に多いなとは思っていたけど……それと関係あるのかな?)
なんて、考えていたところ。
「とにかく」
白亜が、強い視線で見上げてきた。
「わたしだけ子供扱いするのはやめて」
「白亜……」
末っ子の成長を目にした気分で、思わず涙腺が緩みそうになる。
「うん……そうだね」
と同時に、自分を叱責したい気分にもなった。
確かに、伊織は白亜のことを子供扱いしていたのだろう。
白亜はまだ子供なのだから、頑張らなくてもいいんだと。
それは、彼女の決意に対して失礼に当たる。
「ごめんね。白亜だって、こうしてちゃんとお金を稼いでくれてるんだもんね」
謝りながら、スマホで銀行のアプリで起動させた。
(塵も積もれば……っていうもんね。少しずつでも……)
そう考えながら、振込額を確認して。
「………………うぇっ!?」
驚愕の表情を浮かべることとなる。
◆ ◆ ◆
「あの……春輝さん、ちょっとご相談したいことがあるんですが……」
とある休日、伊織が恐縮気味に春輝へと声をかけてくる。
「どうしたの? 遠慮せず、何でも相談してよ」
かつてと異なり、こうして素直に相談してくれることが春輝にとっては嬉しかった。
「白亜が動画配信をやっていることは、ご存知ですよね?」
「あぁ、もちろん」
何しろ、それが原因で貫奈に事情がバレたのだから。
今となっては、春輝も良いきっかけだったと思ってはいるが。
「それで、動画で稼いだお金を借金返済のために充ててくれてるんですけど」
「うん」
これも、以前に聞いた話だ。
「今月の振込額が……これで」
と、伊織がスマートフォンを差し出してくる。
「……?」
話が見えてこなくて、春輝は疑問符混じりで画面を覗き込んだ。
恐らく、最新の振り込みが白亜が得た収入だということだろう。
「へー、結構いってるんだね?」
記載された金額は、中学生が稼いだ額としてはかなり破格だと言えた。
「ちょっと前から、どんどん増えてて……あの子、何かいけないこととかしてるんじゃないかって不安になって……」
「あぁ、なるほど」
ようやく、伊織の相談事を理解する。
「まー、白亜ちゃんに限ってそんなことはないと思うけど……」
とはいえ、そんな言葉だけでは伊織も安心することは出来ないだろう。
「実際に、上がってる動画を確認してみればいいんじゃない?」
「あっ、そ、そっか!」
春輝の提案に、伊織はハッとした表情となった。
普段から動画サイトなどほとんど見ないようで、それで確認するという手段が頭から抜けていたらしい。
「あれ……? でも、どれが白亜の動画なのかわかりませんよね? 流石に本名でやってるわけじゃないでしょうし……」
次いで、そこに思い至ったようだ。
「それなら俺が知ってるから大丈夫」
貫奈から見せられた時に、チャンネル名は覚えていた。
「えーと、確か……」
その時のことを思い出しながら、自分のスマホで動画サイトを開いて検索欄に入力。
「あった、これだ」
首尾よく見つけ、一番上に出てきた動画を再生しようとしたところで。
(………………あれ?)
ふと、手が止まった。
(白亜ちゃんの動画って、そういえば……)
あの時は貫奈への弁明に必死で気にしている余裕は全くなかったが、改めて動画の内容や流れていたコメントを思い出してみれば。
「んん゛っ……! ちょ、ちょーっとアレだ! これは、俺が一人で確認しておくから任せてよ!」
「えっ……? 急に、どうしたんですか……?」
「いや、その……」
「というか今、明らかに『しまった』って顔しましたよね……!?」
「は、白亜ちゃんも身内に見られるのは恥ずかしいだろうし、やめておいた方がいいかもねって思ってさ……」
「やっぱり白亜、いけないことをしちゃってるんじゃないですか!?」
「や、それは断じて違う! 違うんだけど……えーと、伊織ちゃんはたぶん見ない方がいいっていうか……」
「そんなに酷いんですか……!? わ、私には姉として確認する義務があります! 春輝さん、見せてください!」
「あっ、ちょっ……」
伊織が、春輝のスマートフォンを強引に引き寄せ再生ボタンをタップ。
その際に勢い余ってシークバーにも触れたようで、途中からの再生となる。
『おt『ピーッ』!』
『ぶっふぉ!?』
結果、ジャストでその部分が引き当てられた。
「……えっ?」
伊織の表情がピシリと固まる。
「これ、ハルの成果発表会の時の……? あれ……? なんだろう、このコメント……凄くいっぱい『ピーッの人』って……『全ての伝説はここから始まった』……? 『ピーッの人爆誕記念※』……? 『生配信から案内されて』……? えっえっ……?」
そして、徐々にその頬が引きつっていった。
「……まさか、露華と白亜が時々私を見て『ピーッ』っていうのも?」
どうやら、
「……他の動画も確認しますね」
どういう感情なのか、なぜかとても綺麗な笑顔でスマホを操作する伊織。
「……うん」
彼女の手をを止める術を、春輝は持っていなかった。
◆ ◆ ◆
結局この後全ての動画が再生され、この日伊織は『全て』を知った。
◆ ◆ ◆
なお、動画自体はとても健全なものでした(ホワイト・レディ部分は)。
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