SS44 露華とクラスメイト

「春輝クンってさー、女子高生に興味ある?」


「ごふぉっ!?」


 とある夕食の席にて露華が唐突にそんな話題をぶっ込んできて、春輝は思わず飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになった。


「ごほっ、ごほっ……なんだよその質問……」


 若干咳き込みながら、その意図を尋ねる。


「いやね? そういや、こないだこんなことがあったなーって思い出してさー」



   ◆   ◆   ◆



「ねぇねぇ、小桜さん」

「うん? 何かにゃー?」


 休み時間、クラスメイトの女子に話しかけられた露華は気軽に応じる。


「この間の三者面談に来てた人ってさ、小桜さんのお父さんなの?」

「や、お兄ちゃんだよ」


 事情を説明するわけにもいかないため、そういうことにしてあるのだった。


「あっ、そうだよね。お父さんにしては若すぎると思ったんだよねー」

「とはいえ、結構歳離れてるっぽかったよね?」


 と、別の女子も話に加わってくる。


「うん、十歳くらい上」

「へー、そうなんだ」


 露華としては、これでこの話題は終わるかと思っていたのだが。


「でもさ……結構、イケてなかった?」

「あっ、だよねだよね。なんかビシッとしてて大人のオトコって感じ!」

「ちょっとだけ聞いたけど、私はあの声が結構好きだったかもー」


 意外とあの日多くの人に目撃されていたらしく、更に新メンバーを加えた女性陣のテンションが若干上がり始める。


「なー露華、お兄さんってカノジョいんの?」

「んんっ……? どう……だったかなぁ……?」

「私、狙っちゃおうかなー」

「ねねっ、お兄さんのこと紹介してよ?」

「じゃあ自分も立候補ー」

「いやごめん、思い出した! カノジョ、めっちゃいたわ! なんなら結婚までしてたわ!」

『そのレベルの情報を曖昧にしか記憶してないなんてことなんてある!?』


 なんて感じで、一同を驚愕させつつ。


「それよりさ、今の世界情勢について話さない?」

「急に女子高生が交わす話題じゃなくなったな……」

「ていうか露華ちゃん、今まで一回もそんな話したことないじゃん……」

「自分はしてもいいけど、具体的には何について話すん?」

「今の世界の……ヤバさ?」

『雑っ!?』


 だいぶ強引に話題を変えることによって、話を打ち切ったのだった。



   ◆   ◆   ◆



「ってな感じで、とりあえず断っといたんだけど」


 その日の概要を話し終え、話は最初に戻る。


「今になって考えたら、春輝クンの意思を確認もせず断ったのは良くなかったかなーって思ってさ」

「にしても、もうちょっと聞きようがあるだろ……」


 話はわかったようだが、春輝は半笑いを浮かべていた。


「で、どうする? 女子高生との出会いの場、セッティングしてあげよっか?」


 露華はニンマリと笑って尋ねる。

 無論、答えなんてわかりきっているからこその問いかけだ。


「いや、紹介されても困るし……」


 果たして、春輝は苦笑気味に断ってきた。


「そんなこと言ってー、モテモテで嬉しいんじゃない?」

「そりゃまぁ悪い気はしないけど、その子たちも本気で言ってるわけじゃないでしょ」

「白状しちゃいなよー、実は女子高生に興味津々なんでしょー?」

「俺が女子高生に興味津々な奴だったら、今のこの状況がまずヤバいだろ……」

「……そういえばそうだね。はい、この話終わり終わーり」

「なんで急にスンッて真顔になったの!?」

「もしそうだったら、話はもっと早かったのにねぇ……まぁ、その場合こうなってはなかったんだろうけど……」

「どういう意味……!?」


 なんて、春輝はよくわかっていなそうな表情を浮かべていたが。


「……でも、良かったよ。今の話を聞けて、安心した」


 ふと、そう言いながら微笑んだ。


『……?』


 伊織と白亜は揃って疑問顔だが、露華にはわかる。


 かつてクラスで孤立していた露華は、もういないんだと。

 春輝はその点に安心したと言っているのだ。


 実際、あの日をきっかけに勇気を出して周囲に話しかけるようになり。

 今となっては、露華はもうすっかりクラスに馴染んでいた。


 話してみてみればみんな良い人たちで、『援助交際で知り合った男性の家に転がり込んでいた』という例の噂も誤解ということで──微妙に一部事実ではあるので、若干の心苦しさを覚えないでもないのだが──今やすっかり鳴りを潜めている。


「うん……ありがとね。春輝クンのおかげだよ」


 露華も、今度は他意のない微笑みを浮かべる。


「俺なんて大したことは出来なかったけど……少しでも役に立てたのなら、良かった」

「んっ、春輝クンがいたから踏み出せたんだもん」


 微笑み合う二人。


「あらー、よくわからないけどいいわねー」


 それを見て、母もほわほわとした感じで笑い。


「むぅ……ハル兄とロカ姉、なんか通じ合ってる感……」

「だよねー……」


 白亜はむくれ、伊織も珍しくちょっと子供っぽく拗ねるような表情を浮かべるのだった。

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