SS31 イタズラな
──ウチが、このまま……。
お姫様抱っこの体勢で、あくまで動揺することはないと強がる春輝へと露華が続けた言葉は。
「キス、しても?」
で、あった。
「それでも、春輝クンは動揺しないのかな?」
露華の顔に浮かぶのは、いつものイタズラっぽい笑み……ではなく。
「動揺、してくれないの?」
真剣な表情で、真っ直ぐに春輝の目を見つめてくる。
(い、いや、そこも含めて俺をからかってるに決まってるし……! 露華ちゃんは演技派だからな……!)
心のどこかで違うんじゃないかと思っている自分がいるのも自覚していたが、それでも春輝の理性はそう判断した。
「あ、ははっ……やれるものならやってみるがいいさ」
ゆえに、強気を通す。
(いつまでも、俺がすぐ動揺を見せてばっかだと思うなよ?)
そんな気持ちと共に余裕の笑みを浮かべようとしたが、ヒクッと頬が動いただけだった。
「うん、じゃあするね」
小さく頷いた後、露華がゆっくりと顔を近づけてくる。
(ははっ、騙されないぞ? 慌てて顔を引く俺を笑おうって魂胆だろ?)
そう考えつつも、単純にこの至近距離で顔を突き合わせているという状況が春輝の心音を大きく高めていった。
そんな中、露華がスッと目を閉じる。
(あれ? 目を閉じたら距離測れなくない……? もう完全に把握したってこと……? えっ、ていうか止まらな、いやこれは流石に……いやいやいや、いくら露華ちゃんでも……えっ? ホントに、触れ……)
互いの吐息が、唇に触れ合って……。
「よぉしわかった俺の負けだ! ホントはさっきからめちゃくちゃ動揺してます強がってましたごめんなさぁい!」
あわや触れようかという瞬間、春輝は大きく顔を後ろに逸らしながら早口にギブアップを宣言した。
「……春輝クンのヘタレ」
目を開いた露華は、唇を尖らせて小さくそう呟く。
「……いや、あのさ露華ちゃん」
軽く深呼吸して動揺を抑えつつ、春輝は出来る限り真面目な表情を形作った。
かなり赤くなった顔では、真面目な表情も何もなかったが。
「もちろん、俺を信用してくれてのことなんだろうけど……あんま、こういうことしちゃダメだって。俺が万一……そう、万に一つだけど。魔が差しちゃったりしたらどうするんだよ」
そんな春輝の言葉に対して、露華はフッと鼻で笑う。
「どうせ、魔が差すことなんてないくせに」
「そ、それは信頼の言葉と取っていいのかな……?」
「お好きに解釈すればー?」
白けた、とばかりに露華は露骨につまらなさそうな顔だった。
「あー、その……仮に、魔が差すようなことがなくてもだな……」
その表情の意味を
と、その時だった。
「ハル兄、こないだ教えてもらったフリーソフトのことなん……」
リビングの扉が開き、白亜が顔を覗かせる。
「だ、けど……?」
そして、室内の状況を目にした瞬間にフリーズした。
そんな白亜については一旦置いておいて、春輝は露華へと向き直る。
なお、ここまでずっとお姫様抱っこの体勢のままである。
「ほら……こういうことがあったりもするだろ? もしさっきのタイミングで白亜ちゃんが来てたら、ビックリして顔を前に動かしちゃってたかもしれないぞ?」
というか、先程の空気感なら確実にそうなっていた自信があった。
「白亜さぁ、来るタイミングがちょーっと遅いってぇ」
露華から、不満げな視線を向けられて。
「……何してるの?」
フリーズから復帰した白亜が、ジト目を返した。
「うん、お姫様抱っこしてもらってるんだよね」
「そんなことは見ればわかる。どうしてそんなことになっているのか聞いてる」
「紆余曲折あって?」
「何の説明にもなってなさすぎる……」
しれっと答える露華に対して、白亜の目のジト具合が更に増した。
「ていうか、なんか意外と冷静なリアクションだね? アンタのことだからまた、18禁行為だから取り締まる~、とか言い出すのかと思ったけど」
「……? お姫様抱っこは純愛系だから、18禁には当たらないに決まってる。ロカ姉は18禁なことばっかり考えてるから、なんでもかんでも18禁的行為に思えるんじゃ?」
「お、おぅ……別にどうでもいいんだけど、あんたの18禁の判断基準どうなってんの……?」
半笑いの露華の問いに、白亜は答えを返す様子もなく。
「ただ……妙にハル兄の顔が赤いのは気になる」
顎に指を当て、思案顔となった。
「いくらハル兄といえど、お姫様抱っこだけでそんなに照れる……? というか、今は結構冷静っぽいから尚更……ということは……」
次いで、何かに思い当たったような表情を浮かべる。
「……さっきまで、もっと別の行為が行われた可能性?」
あまりに鋭い白亜の推測に、春輝の顔がギクリと強張った。
チラリと露華に視線を向けると、彼女もちょうど春輝の方を見たところのようだ。
──白亜がなんかめんどいこと言い出す前に、誤魔化しちゃわない?
──心得た!
アイコンタクトを交わしたのは、一瞬のことだった。
「白亜白亜! せっかくだし、白亜もお姫様抱っこしてもらいなよ! 今だけのキャンペーンだよ! ほら、早く早く!」
シュタッと春輝の腕から降り立った露華が、急かすような口調で手を叩く。
「え? あ、うん……うん?」
思考の海に沈んでいたらしい白亜は、思わずといった感じで頷いてから首を傾げた。
「よし、任せろー」
それを受けて、春輝は白亜へと歩み寄る。
「じゃあ、いくよ?」
「うん……うん?」
屈んで白亜の肩に触れたところで確認すると、白亜はまた頷いた後に首を捻った。
「よいしょ、っと」
「わわっ……!?」
構わず一息で抱き上げると、動揺の気配が伝わってくる。
「はははー、どうかなお姫様ー?」
「おー、いいじゃんいいじゃんお姫様! あっ、記念撮影しといてあげるよ!」
その場でクルクル回る春輝と、その様子をスマホでパシャパシャ撮る露華。
「………………本来ならドキドキのシチュエーションなはずなのに、扱いに不満しか感じない」
春輝の腕の中で、プクッと頬を膨らませる白亜であった。
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新しく、『元カノと今カノが俺の愛を勝ち取ろうとしてくる』という作品の投稿を始めました。
ダブルヒロインによるハイテンションラブコメ、こちらもどうぞよろしくお願い致します。
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