SS28 後遺症

 白亜の二度目の生配信が開催された翌朝。


「うぇー……白亜のせいで寝不足じゃん……」

「元はと言えばロカ姉のせいだし……」


 露華と白亜は、眠そうな目を擦りながらキッチンに顔を覗かせた。

 昨晩は結局、夜中に及ぶまで白亜の『お説教』が続いていたのであった。


「おはよう、露華、白亜っ」


 そんな二人とは対照的に、キッチンの伊織は溌剌とした笑顔だ。


『おはよー……』


 露華と白亜、揃って間延びした挨拶を返す。


「二人共、なんだか眠そうだね……? 駄目だよ、あんまり夜ふかししちゃ」

『ふぁい……』


 眉根を寄せる伊織へのあくび混じりの返事も、また重なった。


「ピーッ……じゃない、イオ姉」

「ピーッ……?」


 白亜の言葉に、伊織は小さく首を傾ける。


「なんでもない。昨日口に出しすぎて、ちょっと癖になってただけ。それより、今週のゴミ出し当番ってわたしだっけ?」

「え? うん、そうだけど……」

「ん、わかった」


 どこか釈然としない表情の伊織に気付いた様子もなく、白亜は自席に座った。


「ピーッ……じゃなかった、お姉」

「ピーッ……?」


 続いた露華の言葉に、伊織は先程とは反対側に首を傾ける。


「いや、なんでも。昨日さんざん聞かされたから、なんか耳に残っちゃって……それより、トイレの電球切れそうになってたから買い物リストに入れといたよん」

「あ、うん、ありがとう……」


 引き続き伊織が釈然としない表情を浮かべる中、露華も椅子に座った。


 とそこで、春輝もキッチンに現れる。


「おはよう」

「あっ、はい! おはようございます!」


 パッと笑顔に切り替える伊織。


「伊織ちゃん、今日俺データセンター直なんでちょっと早めに出るから」

「……春輝さんは言わないんですね?」

「え? 何が?」


 謎の質問に、今度は春輝が首を捻る。


「あっ、いえ、なんでもないです」


 少し慌てた様子でパタパタと手を振りながら、伊織も席についた。


「そう……? それじゃ、まぁ」


 最後に自分も座ったところで、春輝は手を合わせる。


「いただきます」

『いただきます』


 春輝に続いて、一同声を合わせた。


「あっ、ねぇ露華」


 何気ない調子で、伊織は露華へと話しかける。


「ピー」

『ぶふぉっ!?』


 そして伊織の声がその響きを奏でた瞬間、露華と白亜が同時に吹き出した。


「ぷっくく……! ちょ、お姉、不意打ちやめてよ……!」

「ふっ……! ふくくっ……! 本人による再現は卑怯……!」


 二人共、フルフルと肩を震わせながら必死に笑いを堪えている様子である。


「え? え? ピーナッツバター取ってって言おうとしただけなのに……!?」


 わけがわかっていない様子で、伊織は目を白黒させていた。


「……?」


 なお、わけがわからないのは春輝も同様で疑問符を浮かべる。


(箸が転んでもおかしい年頃……って、ことか?)


 なんて、ぼんやり考える傍ら。


「朝からー、賑やかで楽しいわねー」


 最初から座っていた母が、のんびりとそんな感想を述べた。

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