SS24 包囲網
貫奈の人見家訪問を終えて。
小桜姉妹も帰宅し、一同リビングに集まっていた。
そして。
「っていう感じでー、春輝が女装コスする感じになったのよねー」
「あっはははははははははは!」
母が今日のことを話すと、真っ先に露華がお腹を抱えて笑う。
「めっちゃ面白いじゃないですか! 春輝クン、ナイス言い訳! あっははは!」
「ちょ、ちょっと露華、笑っちゃ悪いでしょ……! 私たちのために言ってくれたことなんだし……!」
露華を窘める伊織だが、彼女の口元もヒクヒクと笑いを堪えるように動いていた。
「ハル……18禁警察犬としての働きは大切だけど、時と場合は考えなきゃ駄目」
他方、白亜はハルに対して「めっ」と叱りつける。
「キューン?」
もっとも、当のハルには全く伝わっていない様子であった。
さもありなんといったところであろう。
「いやぁ、笑った笑った」
目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら、露華が立ち上がる。
「そんじゃ春輝クン、ちょーっと動かないでねー」
かと思えば、近くに置いてあったメジャーを手にして春輝の背後に回った。
「おー、わかっちゃいたけど実際測ってみるとやっぱ改めて大きいよねー。流石は男の人」
なんて言いながら、春輝の背中にメジャーを当て始める。
「えっ……? いや、何してんの……?」
「何って、採寸じゃん?」
戸惑いながら尋ねる春輝に対して、答える露華は何を当然のことをとばかりの表情だった。
「じゃなくて、なんで急に俺の採寸を……?」
「やー、流石のウチも目測で衣装作んのはキツいって」
「だから、そういうことじゃなくて……」
「白亜ー、なんか良さげなキャラ見繕っといてねー」
「ロカ姉に言われるまでもなく、もうとっくに全力で脳内検索を走らせてる」
「ちゃんと巨乳キャラね?」
「だから、言われるまでもない。とはいえ、イオ姉のサイズとピッタリ合致するキャラっていうのはなかなか条件がシビア……」
「いやちょっと待って、君たちまさか……!」
実のところ薄々気付いてはいたが、まさかそれはないだろうと否定していた可能性。
「俺の女装コスの衣装を作る話してる……!?」
「? 他に何があんの?」
「あまりに自明」
露華と白亜が、揃ってコテンと首を傾ける。
「自明じゃないんだけど!? ていうか、なんで俺が女装コスするのは決定事項みたいな感じになってんの!?」
「えっ? だって、聞いてる限りそういう流れだったっしょ?」
「桃井さんと約束したって言ってた」
「や、約束ではないから……! 行けたら行く的な、そういうやつだから……!」
言いながら、しかし春輝も己の言い分が苦しいことは理解していた。
少なくとも、貫奈の性格からして恐らく自然と話が消滅するようなことはないだろう。
「こらこら二人共、悪ノリが過ぎるよ?」
そんな中、眉根を寄せて注意する伊織の姿が女神のように見えた。
「そんなこと言ってぇ……お姉だって、ホントのところは見たいんでしょー?」
「イオ姉、本音を隠すのは良くない」
「そ、それはその………………まぁ、見たい寄りの見たいだけど……」
女神の裏切りは実に早かった。
伊織は、赤くなった顔を逸らして何やらもにょもにょと呟いている。
「いや、なんで君たちまで俺の女装にそんなノリノリなの!? アラサーの女装とか誰得なんだよ!?」
「私はとってもお得な気持ちを得られると思います!」
「お、おぅ……」
かと思えば今度はあまりに力強く言い切るものだから、思わず気圧されてしまった。
「好きなので!」
「えっ……?」
続いた言葉に、ドキリと心臓が高鳴る。
──好きな人の色んな姿を見てみたいと思うのは、自然なことじゃないですか?
貫奈が口にした言葉が、脳裏に蘇った。
「あっ、いえ、その……!」
春輝の反応を見て、伊織はハッとした表情になる。
「今のはそういう意味じゃなくて、や、そういう意味でもいいんですけど、じゃなくて、あのその……!」
安定の、お目々グルグルモードであった。
「女装が好きなんです!」
そして、赤くなった顔で再び言い切る。
「そ、そうなんだ……?」
春輝としては反応に困り、そう返すことしか出来なかった。
「そうなんです! その証拠に、毎日女装してるくらいです!」
「それは普通のことなのでは……?」
なんて、伊織と春輝が噛み合わない会話を交わす傍ら。
「この子とかいいんじゃない?」
「駄目、数字上はイオ姉の方がかなり大きい」
「えー? でも、かなりの巨乳じゃん?」
「二次元のFカップはファンタジーのF。実際の描写と設定上の数値はかなり乖離するのが普通だから。イオ姉はGだし、描写上はもっと大きいキャラが適切になってくる」
「ふーん? でも、それだとコスした時になんか印象違っちゃわない?」
「確かにそれは悩ましいところ……そこまで極端に大きく描かれてなくて、設定上はGのキャラとなると……」
露華と白亜はスマホを見ながら、真面目くさった表情でどのキャラのコスが春輝に最適かを話し合っていた。
既に、彼女たちの中に春輝が女装しないという選択は残っていないらしい。
「これはー、あれねー」
それをニコニコと眺めながら、ズズッと母はお茶を啜る。
「着々とー、逃げ道塞がってるわねー」
その言葉が、今の春輝の状況を端的に表わしていた。
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