SS20 思わぬ繋がり
突然の母来襲、からの騒動より一夜明けて。
「先輩、昨日からお母様が帰っていらっしゃるそうですね?」
出社した春輝は、貫奈からそう話しかけられた。
「そうなんだよなー、何の連絡も無しに急に帰ってきてさー」
昨日のアレコレを思い出して、げんなりしてから。
「……って」
ふと、今の会話のおかしさに気付く。
「なんで、ウチの母親が帰ってきてるって知ってんだ?」
貫奈にそんな話をした覚えがないのである。
というか昨日の今日なので話すタイミングもなかったし、そもそも貫奈に話すような内容でもない。
「昨日、もうすぐ帰るとおばさまから連絡がありましたので」
「……うん?」
何かおかしな話が聞こえた気がするな? と、春輝は首を捻った。
「えっ、あの……なんでウチの母親が桃井に連絡を……? つーかそもそもの話、知り合いだったっけ……?」
「あれっ、言ってませんでしたっけ? 私とおばさま、いわゆるメル友ってやつなんですよ」
「初耳オブ初耳なんだが!?」
思ってもみなかった繋がりに、驚愕する。
「ていうか、どのタイミングで知り合ったんだよ……!?」
そもそも春輝しか繋がるポイントがないはずなのに、なぜ当の春輝が知らないのか。
「高一の時、三者面談の帰りにお会いしまして。その時にアドレスを交換したんですよね」
「そんな偶然ある……? 大体、なんで俺の母親だってわかったんだ……?」
「まぁ白状しますと、こっそり先輩の教室を張ってたんですけど。将を射んとせば何とやら、と」
「お前、時々謎の行動力を発揮するよな……」
高校生の時の貫奈は、大人しい文学少女というイメージだったのだが。
今になって、ちょっと印象が変わってきた。
「それで、先輩と別れたところで話しかけて……春輝先輩の後輩です、と自己紹介しまして」
「俺、部活とかやってなかったのに後輩が名乗ってくるのはおかしくないか……?」
「その辺りは特にツッコミ入りませんでしたね」
「まぁ、あの母親だからな……」
伊織たちの件を鑑みてもわかる通り、状況を受け入れる速度には定評がある。
「いやぁ、鋭い方ですよねぇ」
「そうかぁ……?」
「ぶっちゃけ、初見で私の想いを見抜かれましたから」
「えっ、そうなの……?」
「あの鋭いお母様から先輩が産まれてくる辺り、遺伝って案外適当ですよね。それとも、お父様側の遺伝子ですか?」
「最近お前、なんか遠慮なくなってきたよな……」
真顔で問うてくる貫奈に対して、半笑いが漏れる。
「一番の隠し事がなくなりましたから」
「……なるほどな」
実際、例の『告白』以来貫奈との距離感は以前よりも縮まっているように思えた。
「にしてもあの母親、なんで実の息子には連絡するの忘れて人んちの娘さんには帰ってくること報告してんだ……」
「お父様は今回お休みを取れなかったそうで、残念でしたね」
「実の息子が知らない情報を人んちの娘さんが知っている……」
自然、半笑いが深まる。
「それで、ここからが本題なんですけど」
そんな春輝を気にした風もなく、貫奈はそう切り出してきた。
「おばさまがご滞在されているうちにご挨拶に伺いたいんですけど、いつがご都合良さそうですかね?」
「えっ……!?」
思わぬ申し出で、半笑いも吹き飛ぶ。
「う、伺うって……もしかしてウチに、ってことか……!?」
「それはそうでしょう、先輩のお母様に会いに行くんですから」
確認すると、貫奈は何を当然のことをとばかりに返してきた。
さもありなん、というところである。
「あー、やー、どうだろうなぁ……! ウチにいつもいるとも限らないからなぁ……!」
「だから、いつがご都合よさそうか聞いてるんじゃないですか」
だんだん、貫奈の表情が「何言ってんだこいつ?」という感じになってきた。
(やっべぇな……断る理由が思いつかねぇぞ……!?)
春輝を訪ねてくるというのならまだしも、母親を訪ねてということなら春輝が理由をでっち上げるのも難しい。
まして、二人は春輝を介在しないルートで繋がっているのだ。
(って、そうか……! 母さんの方から断ってもらえばいいのか……!)
この、起死回生の思いつき。
「せっかくおばさまからお招きいただいたので、出来れば早めに伺いたいんですけど」
一瞬で潰された。
(母さん!? なに気軽に招いてくれてんの!?)
とはいえ、恐らくそれ自体は帰ってくる以前に交わされたやり取りだろう。
今の人見家の状況を予見しておけというのは流石に無理がある。
「とはいえ流石に先輩不在の間に伺うのもどうかと思いますし、先輩もご都合の良い日に伺えればと」
「な、なるほどねぇ……そうねぇ……」
ダラダラと、変な汗が背中を流れ始めた。
「……何やら、随分と焦っておいでのご様子ですが」
キラン、と貫奈のメガネが光った……ような、気がした。
「何か、私をご自宅に入れたくない理由でもあるんですか?」
鋭い指摘に、ギクリと頬が強ばる。
「は、ははっ、そんなもんあるわけないだろ? そうだな次の日曜とかいいんじゃないか?」
焦りのあまり、つい早口でそう返してしまった。
「わかりました、日曜ですね……ちょうど私も空いてるので大丈夫です」
と、貫奈はスマホでスケジュールを確認しながら頷く。
「それじゃ、楽しみにしていますね」
そして、ニコリと微笑んだ後に自席の方へと戻っていった。
一方、残された春輝は。
(………………よく考えたら、外で会うよう促せば良かったんじゃないか?)
今更ながらにそう思いつくが、後の祭りである。
この段階でそんな提案を出してしまえば、それこそ家に入れたくないと言っているようなものだ。
(どうしような……)
朝っぱらから、途方に暮れる春輝であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます