第93話 裏側と憂鬱と
春輝と貫奈の握手が交わされる中、そこから少し離れたテーブルでは。
「強い……! 桃井さん、強すぎる……!」
「これは、思ってた以上に強敵……」
「今の流れから、まさかリカバリするとはね……」
「正直、わたしだったら諦めてるところ……」
突っ伏すような格好で隠れながら、露華と白亜が感嘆を表情に浮かべていた。
「……ところでロカ姉、今更だけど」
と、白亜の目が春輝たちの方から露華へと移る。
「今日のデートコース予測は完璧だったけど、どうやったの?」
本日春輝と貫奈が行く先々で三人の姿があったのは、当然ながら偶然ではない。
貫奈が選ぶであろうデートコースを露華が予め予測し、張り込んでいたのである。
ついでに日雇いのバイトなども入れてお金を稼ぐ、一石二鳥作戦であった。
「この辺でデートっつったら場所は限られるし、春輝クンの好みに合わせるとこんな感じかなーって。まさか、昔の春輝クン自身が考えたコースだとは思わなかったけど。お姉がヘルプ行ってる店で、桃井さんが昔バイトしてたって情報が得られたのもデカかったね」
「なるほど……流石、悪知恵にかけてだけは天才的」
「それ、本当に褒めてる?」
感心の声を上げる白亜に、露華がジト目を向けた。
「……でも」
とそこで、口数が少なくなっていた伊織が声を上げる。
「デートの邪魔をするだなんて……本当に良かったのかな……?」
最終的に伊織も加担はしたが、胸にはずっと罪悪感が燻っていた。
「お姉は、春輝クンがあの人に取られちゃってもいいの?」
「そういうわけじゃ、ないけど……」
露華に返す言葉も、どうしても歯切が悪くなる。
「でも春輝さんは物じゃないし……本人の意思で選ぶんなら、仕方ないっていうか……」
「えーい、今更ウダウダ言わない! もう終わったことなんだし!」
「というかそもそも、結局あんまり邪魔出来ていなかった気もする」
露華がガーッと吠え、白亜が「やれやれ」と首を横に振った。
「でも……」
そんな中、伊織の「でも」は続く。
「……うん」
少し間を開けて、頷く伊織。
「やっぱり、デートの邪魔したりするのは今回限りにしよう」
その目には、毅然とした光が宿っていた。
「ホントに、桃井さんは凄くて……告白もちゃんとして、断られても諦めないで……」
彼女に比べれば……告白自体を誤魔化して有耶無耶にしてしまった自分の想いなんて、ちっぽけなものなんじゃないかと思えてくる。
「だけど」
貫奈の十年に及ぶ想いを知った時も、弱気に負けそうになった。
「それでも……私の気持ちだって、本物だから」
けれど妹たちのポジティブさを見て、再びしっかり前を向くことが出来たのだ。
「だからこそ、正々堂々と競わないといけないと思う」
そう何度も、情けないところを見せるわけにはいかない。
「まぁ確かにわたしも、気になったとはいえあまりよろしくなかったとは思う」
伊織の言葉を受けて、白亜がしたり顔で頷いた。
「もちろん、正々堂々と戦っても負けないし……!」
そして、「むんっ」とやる気満々の表情で両拳を握る。
「そうだね、一緒に頑張ろうね」
「……イオ姉には、わたしともライバル同士という自覚が足りていない気がする」
微笑む伊織に頭を撫でられ、ぷくっと不満げに膨らませる白亜であった。
◆ ◆ ◆
そんな二人の、傍らで。
「……はぁ」
二人から顔を背けて、露華はそっと溜め息を吐く。
「明日はまた学校、か……」
空気に溶けていくような呟きは、誰の耳にも届かなかったけれど。
「………………」
伊織がその様を心配そうに見ていることに、露華が気付くことも終ぞなかった。
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