第90話 発案と発言と
一週間目にしてようやく、お互いに自己紹介も済ませ。
「先輩、いつも何を読んでるんですか?」
「……別に、何でもいいだろ」
それからも、図書室での二人の交流は続いた。
「桃井の方こそ、何読んでるんだ?」
「『友達の作り方』です」
「それはまた、ストレートだな……」
ほとんど無言で空間を共有するだけだった関係が、ちょっとした雑談も交わすような仲になっていく。
やがて、それが二人にとっての『日常』となって。
そんな、ある日のことであった。
「……先輩、私は」
ふと、本へと目を落としていた貫奈が顔を上げて視線を向けてくる。
「結構、人見知りで」
「うん、まぁ、知ってる」
初邂逅時の印象から、それは伝わってきていた。
「なのに入学早々、重めの風邪を引いてしまいまして」
「……そうなのか?」
今度は初めて聞く情報で、春輝は若干眉根を寄せる。
「一週間ほど休んだ後に登校してみれば、もう完全に女子はグループが形成されてたんですよね。同じ中学から来てる子も、うちのクラスにはいなくて。それで、少々途方に暮れまして……教室にいても気まずいので、昼休みはここに来てるんですよ」
「なるほどな」
いくら人見知りとはいえ、普通にコミュニケーションは取れるし性格が悪いとも思えない貫奈に全く友達がいないというのも少し不思議に思っていたのだが。
今の言葉で、春輝としても合点がいった。
「……けど、なんで急にその話を?」
とはいえ、特に前フリもなく始まった話だったため多少の戸惑いはある。
「……なんで、でしょうね?」
貫奈自身もよくわかっていないのか、若干不思議そうに首を捻っていた。
「たぶん、誰かに聞いてもらいたかったんだと思います」
そう言って、苦笑を浮かべる。
「……そっか」
春輝に言えたのは、それだけだった。
(こういう時、ラブコメの主人公とかだったら……なんかいい感じの話とかして、バシッと問題を解決に導くんだろうけどなぁ……)
昼休み限定の交流とはいえ、とっくに貫奈に対する情は湧いている。
何か上手い方法はないものかと、考えてはいるのだ。
けれど、妙案は何も浮かばず。
(……やっぱ、俺は主人公にはなれないか)
高校生の身にして、それを思い知る春輝であった。
「な、なぁ、桃井」
それでも。
「もし、よければなんだけどさ……」
このまま何もしないというのは、どうにも胸がムズムズして堪らなくて。
「次の休み、どっか遊びに行かないか……!?」
頭の中に浮かんできた案を、衝動的に口から出す。
女の子を遊びに誘うだなんて初めてで、声は裏返っていた。
一秒でも躊躇していたら、この言葉を発することは出来なかったろう。
発した瞬間に、酷い後悔と妙な達成感が同時に襲ってきた。
心臓が、やけに強く脈打っている。
「え……?」
対する貫奈は、パチクリと目を瞬かせた。
「……えぇっ!?」
一瞬の間を経た後、驚きの声と共に今度は目を見開く。
「えっと、その、先輩、それは、もしかして……そういう、ことなんでしょうか……?」
それから、おずおずと尋ねてきた。
「……? そういう、っていうのは……?」
意味がよくわからず、疑問の声を返す。
「あぁ……」
すると、なぜか貫奈は力が抜けたように半笑いを浮かべた。
「特に他意はない、ということはよくわかりました……」
「……?」
引き続き、貫奈の言葉の意味はよくわからない……と、思いかけて。
(あっ……そういうって、そういう!?)
遅れて、ようやく彼女が言いたかったことに気付く。
春輝とて恋愛に関する知識がゼロというわけではない。
ただ、主なソースが二次元ということもあり、それが自分自身と全く結びついていなかったのであった。
「いや、あの、なんだ。俺じゃ学年も違うし、友達って感じには思えないだろうけどさ。ほら、たまにはその、気分転換に遊びに行くのもいいんじゃないかと思ってさ」
どこか言い訳がましいことを自覚しつつ、早口で付け加える。
「……ふふっ、そうですね」
そんな春輝の様子が面白かったのか、貫奈は小さく笑った。
「それでは先輩、私の気分転換にお付き合いいただけますと幸いです」
やけに堅苦しい言い回しなのは、彼女も変に意識してしまっているからなのだろうか。
(ここで断られてたら、まぁまぁダメージ受けたんじゃねぇかって気がするな……)
ともあれ、受け入れてもらえたことにホッと安堵する春輝であった。
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新しく、『異世界からJK転生した元妹が、超グイグイくる。』という作品の投稿も始めました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895487696
こちらは、超ハイテンション系ラブコメです。
元妹、元勇者、元魔王、そして前世でも現世でも(自称)一般人という転生者共の騒がしい物語。
楽しめるものに仕上げているつもりですので、本作と併せてどうぞよろしくお願い致します。
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