第88話 偶然と再来と
去っていく露華の背を、何とも言えない表情で見送る春輝。
「今の……確か、小桜さんの妹さんでしたよね?」
同じく露華の方に視線を向けていた貫奈が、振り返って尋ねてきた。
「あぁ、うん。次女の露華ちゃんだな」
特に思うところもなくそう答える。
「……露華ちゃん、ですか。随分と気安く呼ぶんですね?」
そして、貫奈の訝しむ視線にギクリと顔が強張った。
「いや、ほら……前に会社に来た時に、本人も言ってたろ? あの子、なんか凄く砕けた感じだからさ。こっちもついつい、な。ははっ」
笑って誤魔化す。
「……そうですか」
納得してくれたのかは不明だが、貫奈もとりあえず頷いた。
「姉妹揃って……ね」
何やら思案顔で独りごちる貫奈。
(……そういや、結局全員に遭遇したのか)
春輝も、今更ながらにその事実に思い当たった。
動物園で白亜と、メイド喫茶で伊織と、そしてこのゲームセンターで露華と。
彼女たちの用事と春輝たちの行き先が、たまたま被ったということなのだろうか。
確率としては、随分と低いように思えるが……。
(偶然、ってのはあるもんだな……)
春輝が思ったのは、その程度のことであった。
「……さて、ところで先輩」
「んあ?」
若干ボーッとしていたところに話しかけれ、返答は少々間の抜けたものとなる。
「コンテニューします? せっかくだから、クリアまでいってみませんか?」
ニッと笑う顔からは、先程までの思案の色はすっかり消えていて。
「ふっ、そうだな。昔取った杵柄ってやつを見せてやるよ」
特にそれ以上深く考えることもなく、頷く春輝であった。
◆ ◆ ◆
その後、エンディングを迎えるまで割とガッツリとプレイして。
「結局、結構使っちまったな……」
「まぁ、少し残業すれば取り戻せる程度なんだからいいじゃないですか」
「残業換算で言うのやめてくれる……? なんかこう、余計心に来るから……」
そんな会話を交わしながら、二人はゲームセンターを後にしていた。
「でもまぁ、なんだかんだで充実した時間だったな。あんなガッツリとアーケードやったのなんて、それこそ学生の頃以来だわ」
大きく伸びをする春輝の表情は、言葉通り満足げものである。
「サンキューな、桃井。今日、色々と気を遣ってくれて」
無論、露華の件について忘れたわけではない。
しかし、気分転換して少しリフレッシュ出来たのは事実だった。
「いえいえ、私も楽しかったですから」
既に日は暮れており、後は夕食を一緒に食べてお開きといったところだろう。
「この後、晩ご飯はですね……」
「……ん。そこのファミレス、だろ?」
貫奈の言葉を遮り、春輝は親指で向かいのファミリーレストランを指す。
「ようやく、気付いていただけましたか」
「流石にな」
肩をすくめる貫奈に、苦笑を返した。
動物園、メイド喫茶、ゲームセンター、そしてファミリーレストラン。
これらは高校時代の、とある日に二人が巡ったコースと全く同じなのである。
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