第6話 裸体と誤解と
露華の、下着のみを纏った身体が顕になる。
スラリとした四肢に、くびれた腰回り。
スレンダーなのは制服姿の時からの印象通りだが、こうして見ると胸の膨らみも結構あるようだ。
なんて、どこか冷静に観察してから。
「ちょ、いや、は!? 急に何やってんの!?」
我に返った春輝はそう叫んで、今更ながらに顔ごと目を逸らした。
「ね? ウチ、結構いい身体してるっしょ?」
そんな春輝の膝の上に、露華が座ってくる。
「お子ちゃまな白亜は論外として、お姉もオトコ慣れしてないからさ。ウチがいっちばん、春輝クンのことを気持ちよくしてあげられるよ?」
視界の端で、露華が妖艶に微笑むのが見えた。
「だから、シよ?」
春輝の胸に手を当て、耳元で囁く。
(いやいやいや、何これ何この展開!? まさか夢か!? 俺いつの間にか寝てた!? にしてもエロゲのやりすぎだろこんな夢なんて!)
予想もしていなかった流れに、内心でテンパる中……春輝は、ふと気付いた。
(って、この子……)
露華の手が小さく震えているのが、シャツ越しに伝わってくることに。
「……あのなぁ」
何と言っていいものやら迷い、春輝はガリガリと頭を掻く。
「露華ー? どこ行っちゃったのー?」
とそこで、部屋の外から伊織の声が聞こえてきた。
「あれ……? この部屋、さっきは閉まってたような……」
次いで、部屋の中へと伊織が顔を覗かせる。
「あっ……」
その瞬間から一秒ほどの間で、彼女の表情は目まぐるしく変化した。
まず、驚き。
次いで酷く傷ついたような顔。
最後にそれが覚悟を秘めたものになる。
「……そう」
一度目を閉じて、一瞬の後に再び開く伊織。
それから、彼女もバッと制服を脱ぎ捨てた。
露華に比べて、全体的にふくよかなシルエット。
けれど決して太っているわけではなく、健康的な魅力が感じられる。
そして何より目を引くのは、その驚異の胸囲と言えよう。
普段控えめな彼女の代わりに自己主張しているかのように、ブラ越しでも張りの感じられるそれがデンと高くそびえ立っていた。
「って、だからなんで脱ぐんだよ!?」
ついつい本能的に眺めてしまった後で、今度も慌てて視線を逸らす春輝。
「春輝さん!」
「うおっ!?」
その顔に、巨大な柔らかい『何か』が押し付けれる。
「お願いします! 私のことは好きにしていただいて構いませんので、妹たちには手を出さないでください! どうかどうか!」
「いや、ちょ……」
「っ……いや春輝クン、ここはウチにしときなって! お姉より絶対いいよ!」
「二人共、待……」
両側から、グイグイと二人の色んなところが春輝の身体に当たってきた。
「おっぱいは、私の方が大きいので!」
「ウチの引き締まった身体を味わいたいっしょ!?」
「だから、俺の話を聞いて……」
二人とも必死な様子で、春輝の声は届いていないようだ。
「あれ、露華……? もしかして今、私のことデブって言った……?」
「は? お姉こそ、ウチのこと貧乳って言ったっしょ?」
「別に私、そんなこと言ってないし……」
「ウチだって言ってないし……」
「いい加減に、しろ!」
なぜか春輝越しにちょっと険悪な雰囲気になり始めたところで両手を広げ、二人を引き離す。
春輝としては狙いなど定められる状況ではなく、適当に押した形である。
が、しかし。
『あっ……』
二人の、呆けた調子の声が重なった。
その段に至りようやく、春輝は手に返ってくる感触がやけに柔らかいことに気付く。
だいぶ嫌な予感がして、左右に目を向けると。
「あの……やっぱり、大きい方がいいですよね……?」
「いやいや、ウチだって結構あるよね……?」
自分の手が、二人の胸にガッツリ当たっていることが確認出来た。
「だ、だから私を……!」
「や、ウチを……!」
二人は顔を赤くしながらも、それぞれまた春輝へと迫ろうとしてくる。
「だから、一旦落ち着け! 俺に、そういう意図はない!」
しかし春輝がそう叫ぶと、二人揃って「へ……?」と目を瞬かせた。
「でも春輝クン、一人暮らしの家に女連れ込むって完全にそういうことじゃん……」
どうやら、露華は先の春輝の発言をそう捉えていたらしい。
「違うっての! 普通に宿泊場所を提供しただけだ!」
「そ、そうなの……?」
大声で続ける春輝に、強張っていた露華の身体からようやく力が抜けてきた。
「あの、でも、さっき、その……露華に襲いかかってたんじゃ……?」
「むしろ俺が襲われた側だわ! さっきの体勢見りゃわかっただろ!」
「そ、そういえば確かに……?」
伊織も、同じく。
「わかってくれたなら、まず服を着ようか……?」
『っ!?』
春輝が言うとカッと顔を赤くし、二人共慌てた様子で春輝から離れて服を手にする。
春輝が背を向けてからは、しばし部屋の中に衣擦れの音だけが響いた。
そして、数秒の後。
「すみませんでしたぁ! 恩人を疑うような真似を……!」
伊織が、土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。
「いやぁ、はっはー。ウチとお姉のアピールに耐えきるとは、春輝クンの自制心は鋼鉄並だねー。それか、もしかして女の子に興味がない系だったりする?」
一方の露華は、ケラケラと笑っていた。
「こら露華、ちゃんと謝りなさい!」
「むぎゅ……」
しかし伊織に頭を押さえつけられ、無理矢理に頭を下げる形となる。
(あー……こういう時、なんて言えばいいんだろうな……そうだな、歳の離れたヒロインを諭すイケメン主人公的なものを意識して……)
なんて、考えながら。
「まぁ、あれだ。俺も、子供に手を出すほど女に不自由してるわけじゃないからな」
そう言いはしたものの、半分は嘘である。
不自由していないのは、二次元限定の話だ。
あくまで春輝視点では、であるが。
「そ、そうなんですね……」
「もう、子供って年じゃないんだけどぉ……?」
伊織がちょっと暗い声で、露華が抗議を滲ませた調子でそれぞれ呟く。
「子供だよ、俺からすればな」
これも、半分嘘であった。
ぶっちゃけ、先程の二人に対して『反応』してしまっていたのは事実だから。
ただし、手を出す気がないというのは誓って本当である。
「つーか俺、明日も仕事なんだよ……早く寝かせてくれ……」
なお、これだけは一〇〇%本心からの言葉だった。
「あ、はい。本当に、すみませんでした……」
今日何度目になるかわからない、伊織の謝罪。
「………………ごめんね?」
小さな小さな声ながら、露華の言葉も確かに春輝の耳に届く。
「はいよ。君らも、いいからもう寝な」
春輝がひらひらと手を振ると、二人はもう一度頭を下げた後に部屋を出ていった。
「………………はぁ」
扉が閉められたのを確認した後に、春輝は重い重い溜め息を吐く。
今日は色んなことが起こりすぎて、何に対する溜め息なのかは自分でもよくわからなかった。
今日の障害の後始末やら、小枝ちゃんの次のトークライブの予定やら……何より、小桜姉妹のことやら。
考えなければいけないことは、沢山ある気がしたが。
「……寝よ」
とりあえずは、全て放り投て夢の世界に旅立つことにした春輝であった。
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