第2話

契約書を前に私は過去の事を思い出していた。


私は農家の出である。特に未来に希望を得る事もなく、将来好きな人と結婚出来れば御の字程度にしか思っていなかった。


私の住んでいた場所は小さな集落ではあったが、それなりに平穏な生活を送っていたのだが、今に思えば、その平凡で退屈な日々がどれほど幸せな日常だったかを思い知らさせた。

平和な時というのは、一瞬にして奪われる。

なに、よくある話だ。

比較的温暖な気候で作物が育ちやすい、この地域の土地を北の国が攻めてきた。

ただそれだけの事。小さな集落でしかない故郷はあっという間に攻め滅ぼされた。

私の日常は、あっけなく去り、父も母も5人いた兄弟姉妹も全員死んだ。

当時は訳が分からなかった。理解出来なかった。したくもなかった。


同じ集落で辛くも生き延びたのはたったの5人。

少し上だと思うお兄さん2人と、おじいさん1人と、ちいさな女の子、そして私。

おじいさんの提案で、とりあえず近くの町に行こうという事になった。

お兄さんの内の1人が、せめて弔いでもと言ったが、まだ、北の国の兵隊たちがいるかもしれないという状況が、それを許してはくれなかった。


近くの町といっても、おじいさんや、ちいさな女の子がいる足では、少なくても3日はかかるらしい。

夜になると野犬だっているし危ない事には変わらなかった。

食べ物も飲み物もいる。

手分けして、集落から食べ物、飲み物、着る物、町に着いた後、生活をしていく為に必要な金や換金出来るものを探した。日が頂上に上る前まで探し、ある程度集めたところで町へ出発した。

町までの道は気が気でなかった。

いつ襲われるか。いつ兵隊に出会うか、わからなかったから。

神経をすり減らし、しかし何事もなく町へついた。

町は陥落していた。

私からしたら、大きな町だった。そして人がいっぱい死んでいた。

町の中を詮索していると、声を掛けられた。最初は双方警戒していたが、近くの集落の人間だと分かると、ある場所へ案内された。

そこには、生き延びた人が結構いた。その人達は、城壁のある町まで行こうという事になっていらしい。私たちにもどうだと言われた。

断っても生活出来る事もなし、その話に乗る事にした。


そこからは、城壁の町までは概ね順調にいった。

人数が多いと安心感もあるからなのかもしれない。


その町には領主様がいらっしゃった。勿論本物かどうかなんて私には分からない。

けれど、城壁もあるし、城もある。比較的安全な町に見えた。

兵士さんに、この集団のリーダーになった人が話をしている。


リーダーが領主様と話しをする事になったらしい。それで今後の事を話し合うのだそうだ。


結果は早かった。戦争が近くなるというのは、やはり重大なものらしい。

領主様から皆に声がかかった。

「君たちの中に、親、兄弟、友人の敵討ちをしたい者はおるか?兵士はいくらおっても足りない状況だ。この町を守る為、敵を討つ為、志願したい者がおれば歓迎する。また、兵士にならない者でも、この町が危険になれば、自ずと戦わなければならない状況になる。英断を期待する。」


私は目を閉じ、幸せだった日々を思い出した。奪われるのは突然で、そして理不尽だ。死にたくない。生きたかった。それでも、ここが無くなれば、また逃げなきゃいけなくなる。そして自分が死なない保証なんて何処にもない。


そう思うと自分の中の激情が沸き上がった。自分と同じ苦しみを奴らにも味合わせてやりたかった。

そしたら、自然と兵士になる道を選んでいた。私と同じ気持ちの人は意外と多くいた。そして彼らと一緒に志願したのだ。


そこから、激動の日々だった。新兵は訓練しないと使えない。しかし訓練をする暇もない。結局着ている服はそのまま、槍だけ渡されて戦場へ赴く事になった。

隊長の人曰く、「素人でも槍を突く事くらいはできる。それが当たれば敵は死ぬ。

難しい事なんて何もない。とにかく目の前の敵を殺せ。それがお前らの仕事だ。」と。


赴いた戦場は、まさに地獄だった。

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Ask for blue blood. うーまろ @daiki0118

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