第3話 星の崩壊

 もうすぐこの星は崩壊する。この戦争でAIが下した最終判断がそうだったからだ。人類側はそれを阻止しようと様々な手を使ったものの、惑星破壊爆弾の爆発を遅らせる事しか出来なかった。


 この長い夜のどこかでそれは発動する。俺達もこのまま星と運命を共にするんだ。その避けられない未来を不安に思うのは、正しい心の働きに違いない。

 人ではなくなった俺達だけど、心はまだ人のままなんだ。そこで、俺は不安がっている相棒に理解を示す。


「まぁその気持ちも分かる。だから見上げてんだろ?」

「今日世界が終わっても、世界は有り続けるんだ。不思議だなぁ」

「別に不思議でも何でもないけどな」


 この星がなくなっても宇宙は続いていく。宇宙規模で言えば、星が生まれて死んでいくのは当たり前の出来事だ。スケールは違うけど、人の生死と変わらない。宇宙そのものはこれからもずっと有り続ける。

 科学者は宇宙にも寿命があるって言ってたけど、多分それはずっとずっと先の事で、俺達にはきっと理解出来ないスケールの話なのだろう。


 この話はここで一旦途切れ、ルークは何かをあきらめたみたいな風にため息を吐き出した。


「眠れたらさ、知らない内に終わってたのかな」

「いや俺ら眠れないだろ」

「だからだよ」


 俺達は眠れない。ゾンビになってからは一睡も出来ていない。だから睡眠に逃げる事が出来ない。目覚めたら何かが変わっていたって事がない。ずっと見ていなくてはならないんだ。横になってまぶたを閉じる事は出来るけれど。

 これから起きる事だって、しっかりと受け入れなければならない。伝え残す誰かもいないのにだ。


 寝る事も死ぬ事も出来ないゾンビな俺達。戦時中なら激しい戦いで消耗して体が維持出来ずに砕け散る事もあった。大勢いた仲間はそうして散っていった。

 けれど、生き残った俺達はもうそれも出来ない。自殺は出来ないように生体プログラミングされている。この現実を前に、ルークは自嘲するように薄笑いを浮かべた。


「きっと罰なんだろうな」

「生きている罰か? それは捉え方次第じゃないか?」

「そうか?」


 やはり、ルークは俺よりもこの現状に苦しみを感じているようだ。だからこそ、生き残った意味を必死に探している。俺はそんな相棒の心の欠損部分を支えようと、思いつく限りの言葉を尽くした。


「ああ、少なくとも俺は不幸を感じちゃいない。これは奇跡なんじゃないかとすら思う」

「確かに、ある意味奇跡だよな」


 ルークは俺の言葉に素直に同意する。その反応からは、俺の思いが届いたかどうかは分からない。ただ、そこから先は特にネガティブな発言は聞こえてこなかった。

 このまま最期の時を迎えるなら、暗く沈むより明るく冗談を言い合いながらの方がいい。運命だって笑い飛ばせたなら、きっと満足して仲間の元に行けるはずだ。


 俺が何か面白い事を言って相棒を笑わせようとしたその時だった。恐れていた最期が突然やってきてしまう。

 この星の地殻にめり込んだ惑星破壊爆弾のコアが臨界点に達し、その影響で大地が激しく揺れ始めたのだ。


「うわああああっ!」

「始まっちまった! どうする? 逃げるか?」


 今まで体験した事のないほどの激しい揺れを前に、俺は頭の中が真っ白になる。それで、つい普段通りの反応をしてしまった。

 この俺の混乱っぷりに対し、ルークからのツッコミが入る。


「もう地上に安全な場所なんてねぇよ! いい、ここでいい!」

「分かっちゃいたけど……分かっていてもこれは……」

「これでいいんだよ。何もかもなくなるんだよ。俺達もこれで……」


 この状態になったら、最短で後30分、長くても1時間で星は崩壊する。とっくに覚悟を決めていた相棒は、激しく揺れる基地の中で微動だにしなかった。

 やがて建物はその形を維持出来なくなり、呆気なく崩壊する。その後、一旦揺れは収まった。爆発の第2段階に入ったのだろう。

 次に爆発が始まれば確実に星は崩壊する。その時が俺達の全てが終わる時だ。


 僅かに残された静寂の時間、俺達は崩れた瓦礫を押しのけて地上の惨状を目に焼き付ける。暗い夜の中、大地の所々は裂け、そこから謎の光が発光していた。それは爆弾の爆発による、過剰なエネルギーの放出の影響だ。

 ただし、その生きているかのように息付くオーロラのような青白い光が大地から空に伸びる様子は、どこか神秘的な光景ですらあった。


 俺達がこの星の最後の光景に見とれていたその時だ。突然上空からサーチライトのような強い光を浴びせかけられる。

 この想定外の展開に、俺達は目を細めながらその光源に顔を向ける。


「うおっ、まぶしっ!」

「な、なんだ……っ?」


 落ち着いてくると、その上空からのスポットライトは空に浮かぶ浮遊物体から発せられている事が段々と分かってくる。音もなく浮かぶそれは、SFでお馴染みの宇宙からの訪問者が乗る俺達の知らない原理で動く宇宙船――なのだろうか?

 俺達が困惑する中、その光の中から何かがすうーっと降りてきた。どうやらその何かは生命体らしい。警戒する俺達を見て、そいつはいきなり話しかけてきたのだ。


「まだ生き物がいたのか、君達、話は通じる?」

「「う、宇宙人だーっ!」」

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