第4話 新しい旅の始まり

 俺達は思わず2人同時に同じ言葉を喋っていた。まぁ当然驚くに決まっているよな。こんな展開が待っているだなんて、思えるヤツがいるはずがない。

 大体、宇宙人だぞ。どう考えたって悪い冗談だって思うだろ、普通。


 創作物に出てくる宇宙人の場合、大きく分けてふたつのタイプに分けられる。そう、いいヤツと悪いヤツだ。

 俺達がそのどちらにも対応出来るように身構えていると、光の中から聞こえる声は優しく俺達に語りかけてきた。


「良かった、通じるね。早く来て、今なら助かる」


 どうやら、俺達の前に現れたのはいい方の宇宙人らしい。とは言え、助けに来てくれたところを悪いけど、俺は助かりたいと言う気持ちは全くない。

 なので、この別の星からの救いの手を振り払う事にした。


「いや、いい。俺達は星と運命を共にする」

「そうだよ、俺達だけ逃げるだなんて……」


 さすがは相棒、気持ちは俺と一緒だった。俺達は顔を見合わせてうなずき合う。そうして、もう一度宇宙人に向き合った。俺達の気持ちは通じただろうか?

 しばらくの沈黙の時間が流れた後、光の中の声はまた優しく語りかけてきた。


「うん、君達の意志は分かった」

「じゃあとっとと帰ってくれ。俺達はここで終わるんだ!」

「そうだ! これはきっと初めから決まっていたんだ!」


 もうすぐこの星は崩壊する。その崩壊にこの異星からの訪問者を巻き込まないように、俺達は強い言葉でこの星からの退去を促した。そうして、またしばらく沈黙の時間が続く。


 この宇宙人は俺達を助けるために降りてきたのだろうから、そんな簡単にも引けないのだろうな。

 そう俺が考えていると、上空からのスポットライトの光が更に強烈になった。それがあまりにまぶしかったために、俺達はまぶたを閉じるしかなくなる。


「なら……強引に連れ去る!」


 どうやら宇宙人の方が強硬手段に出たらしい。光の中の影がすうーっとUFOに戻っていくと同時に、俺達も吸い込まれるようにその後を追っていく。

 上昇していく間、俺達はまるで拘束されたみたいに少しも体を動かす事が出来なかった。


「うわあああ!」

「何をする、止めろぉ!」


 やがて俺達は成す術もなく宇宙船に回収され、そのままこの星から離脱していく。宇宙船の丸い窓から見えるのは、段々遠くなる運命を共にしたかった母星の姿。

 俺は、本懐を遂げられなかった事をとても悔しく思ったのだった。


「ああ……」


 宇宙船が完全に母星から離れ、その丸い姿を一望出来るようになった頃、ついに崩壊の第2段階が始まった。大地を斬り裂いた亀裂から大量のエネルギーが放出されたかと思うと、一瞬の内に母星は粉々になって消滅。そのあまりに呆気ない最後を、俺達は安全な場所で眺める結果となってしまう。

 俺達が両手を床について絶望していると、おせっかい宇宙人が優しい微笑みをたたえながら現れた。


「間一髪だったね」


 改めてよく見ると、その姿は俺達と全く変わらない。まるで別の選択肢を選んだ平行世界からやって来たみたいにすら見えた。そう説明されても納得するくらいにそっくりだったのだ。流石にその服装はやはり違う文化だなと感じさせるくらい、理解の出来ないセンスをしていたけれど。

 助けられてしまった事は仕方がない。問題はこれから先の話だ。俺は金髪碧眼の目の前の優男に向かってそれを確認する。


「俺達をどうする気だ」

「それは僕が決める事じゃないよ」

「自分の生き方は自分で決めろ……か」


 どうやら宇宙人は俺達に生き方を選択させてくれるらしい。流石は進んだ科学力を持つだけはある。精神的にも俺達よりレベルが高いのだろう。

 とは言え、いきなり自由にしろと言われても困ってしまう。


 俺達はゾンビだ。久しぶりに生きた人間を見たものだから、衝動が抑えられなくなってくる。相棒の方を見ると、既に禁断症状が出ているようで、体を小刻みに震わせて何も喋れなくなっていた。俺もあまり長くは正気を保てそうにない。


「な、何急にじいっと見つめるんですか」

「お前が悪いんだからな」

「えっ?」


 宇宙人はまだ自分が助けた者の正体を理解していないらしい。何故なら、戸惑いながらもその場から動こうとしなかったからだ。

 俺は深刻な顔をして、仕方なく彼に向けて最後通告をする。


「お前が、俺達を助けたりなんかするから……」


 それでも宇宙人は俺達を理解したいのか、そこから動こうとはしなかった。警告したのに――。もう俺も暴走する本能を抑えきれない。ああ……っ。

 次の瞬間、頭の中で何かがプツリと切れる感覚があって、そこから先は本能が俺を支配していた。先に動いたのは相棒の方だったけれど、ほぼ同時に俺の体も動いていた。襲いかかる対象は当然――。


「えええっ!」


 ゾンビの本能は生き物を襲う事。眠らず死なない体を維持するために、飢餓状態になると所構わず何でも喰っていた。喰って飢えを満たしては戦っていたのだ。

 折角星に生き物がいなくなってその感覚も忘れかけていたのに、目の前にごちそうを見せられたら抑えきれるはずもない。


 宇宙人を2人できれいに平らげた俺達は、空腹を満たしてまた正気に戻る。どうやらこの宇宙船は他に乗組員はいないらしい。この船は自動操縦らしく、待っていたら勝手に母船に辿り着くようだ。

 俺達は息を潜め、その時を静かに待つ。折角助けられたんだ、こうなったらどこまでいけるか試してしてみるのも悪くはないさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る