第6話 目指せ初出場初優勝!

「コーチ、お願いします!」


 明穂は気合を入れてそう言うと、早速杖を構えて呪文を唱えた。炎魔法を使うために火の精霊に祈りを捧げるのだ。そうして精霊の力を借りてステッキのクリスタルが紅く輝く。次の瞬間、ステッキから聖霊を通しての炎が出現。

 その鮮やかな色合いと勢いを見たタマゾーさんは、彼女の現時点での実力の本質を一瞬で見抜く。


「うむ、やはり体を流れる魔導の力がまだまだ弱い。もっと動線を意識しろ」

「はい!」

「あの、私はどうでしょうか?」


 次に手を上げたのは璃子りこ。彼女が見せるのは電撃魔法だ。明穂と同じように、呪文によって契約している雷の精霊の力を借りて、ステッキから電撃を放出させる。

 タマゾーさんは、璃子の魔法特性についても一瞬で見抜いてしまった。


「力み過ぎだな。もっとふわっと、雲に浮かぶような感じで」

「はい!」

「私も見てください!」


 最後は当然のように氷空そらの番だ。彼女が披露するのは召喚魔法。上級者なら大型魔獣すら召喚出来るちょっと危険な魔法だ。

 勿論彼女が召喚するのはそんなデンジャラスな魔獣ではなく、審査員受けも良さそうな愛玩動物的な小型でモフモフな魔獣だ。

 今回氷空が召喚したのは、子猫程度の大きさの丸っこい毛玉だった。


「うむ、基礎は十分出来ているな。その調子で集中力を高めていくんだ」

「はい!」


 このタマゾーさんの反応から見て、3人の中で一番魔法が上手く使えているのは氷空のようだ。彼に褒められたのを横目で眺めている明穂の表情から、嫉妬に近い感情を抱いているのが私からはハッキリ見える。きっとその感情も向上心に繋げていくのだろうなぁ。

 ま、そんな感じで有能なコーチは後輩達をビシビシと鍛え、彼女達もそれに一言も文句を言わずについていっている。きっとこの指導のおかげで、大会までにレベルもかなり上がっていくのだろう。


 そんな後輩達を見ていると、また私は自分の存在意義に疑問を覚えるようになってしまった。あの子達は私がいなくてもしっかり力を身に付けている。

 と言う事は、あの子達3人がいればそれでいいって事なのかな? あのチームに私の居場所は――。考えが堂々巡りになってしまい、私は思わずふさぎ込む。


「やっぱり私なんてあんまりいらないんだ……」

「ちょ、一緒に頑張ればいいじゃないの。部屋の隅っこ禁止!」


 ネガティブになる私に向かって先生が強めに声をかける。その言葉に勇気をもらい、私も頑張ってタマゾーさんの前に躍り出た。そうしてド緊張しながら、この名コーチの前で自身のとっておきを披露する。


 洗濯魔法にはさすがのタマゾーさんも一瞬呆気にとられたのか目を丸くしていたものの、しっかり適切なアドバイスを頂いた。良かった、これで私もみんなの輪の中に入れた気がするよ。大会当日までに私も自分の力を極めないとだね。

 こうして、それぞれがもらったアドバイスを元に私達は魔法の特訓を始める。


 タマゾーさんは私達の練習の様を見守りながら、同じように微笑ましく眺めている顧問に、この部についての感想を耳打ちしていた。


「中々見どころのある部員が集まっておるな」

「そりゃそうよ、初出場初優勝を狙ってるんだから」

「問題は……部長だな。アレでは厳しいぞ」


 この聞いてはならない一言を、偶然私の耳はキャッチしてしまう。メンタルがお豆腐な私は、当然のように強いショックを受けた。


「そ、そんな……」


 コーチから期待されていない、それどころかお荷物的に見られている。この現実に打ちのめされた私が気が付くと、いつの間にかいつもの隅っこの席に移動していた。


「やっぱり私なんて……」

「なんでこう言う時に限ってあなたは鋭いのよっ! だから部屋の隅っこ禁止~っ!」


 先生は半ばやけくそになりながら、私をこの定位置から引っ張り出した。大会までは後3ヶ月。目標は初出場初優勝。頼りになるコーチも来てくれた事だし、頑張らなくちゃだね、うん。

 ここから巻き返して明穂にも認められるようにならなくちゃ。私は部長なんだから。頑張って部長の尊厳を取り戻すぞ、おーっ!

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