第5話 頼りになりそうなコーチ

「先生、私達勝てると思いますか?」

「心配?」

「だって私達、大会は初めてですし」

「そんな可愛い部員達のためにコーチをつれて来たよ!」


 先生はそう言うと、部室のドアを再度思いっきり開ける。そのドアの前にいたのは、白黒のハチワレ猫だった。私達はこの意外に展開に全員目が点になる。

 その猫はと言うと、部室内にいた私達をじろりと見回してペロペロと顔を洗い、渋い声で心強い言葉を言い放つ。


「おう、魔法少女の卵達! 俺について来い!」


 私達はこの状況に呆然とする。何しろ猫が喋っているのだ、驚かない訳がない。私だって、喋る猫なんて創造物の中だけの存在だとばかり思っていた。しかも、何だかエラソーだ。

 部室内に困惑の空気が広がる中、猫好きの明穂がいきなり飛び出してきて速攻でこの猫を抱き上げた。彼女にとって、猫が喋った事に関しては特に何の問題でもなかったらしい。


「きゃー、かわいいー!」

「うわあ、止めろおー! 俺は愛玩動物じゃないぞー!」


 ペット扱いされた猫は、何とかこの状況から抜け出そうと懸命にもがく。明穂によって力いっぱいに抱きしめられてしまったため、その努力は徒労に終わっていた。

 力での脱出が無理だと悟った猫は一瞬体を淡く発光させてその場から消える。驚いた明穂が顔をキョロキョロさせて猫の行方を探していると、教壇の上にちょこんと座った姿で猫は姿を表した。そう、転移魔法を使ったのだ、猫が。

 私達はその事実を目の当たりにして、またしても声が出せないでいた。


 騒動が一旦収まったところで、満を持して先生がこの猫の紹介をする。


「タマゾーさんはこう見えて使い魔歴120年のベテランさんよ」

「あ、本当だ、尻尾の先が二股になってる」


 この白黒ハチワレ、タマゾーさんをじっくり観察していた璃子りこが先生の言葉を証明する事実を発見した。長生きした猫は尻尾が二股に分かれるのだ。

 つまり、この彼は使い魔であり、猫又でもある特殊な存在らしい。どうやって先生はタマゾーさんみたいな猫と知り合いになれたのだろう。謎が多い……。


 私がこの使い魔猫に関して考察を深めていると、氷空そらが興味津々な表情を浮かべて、その可愛いコーチの顔を覗き込んでいた。


「語尾にニャーとかつけないんですか、タマゾーさん」

「そんなあざとさはとっくに卒業したわ! それよりも各々の実力を見せてくれ!」

「はい、コーチ!」


 一瞬で部員達の心を掴んだタマゾーさんは、早速コーチの仕事を始める。私を除く仲良し3人組は、すぐにコーチの言葉に従って自身の実力をコーチに見せていた。

 みんなが生き生きとそれぞれの得意魔法を披露していく中、私はまた自分の心の闇が広がっていくのを感じてしまう。どうしても素直にあの中に入っていく事が出来なかったのだ。


 そんな私の前に先生がやって来る。


「あれ? どうしたの部長? そんな隅っこですねちゃって……」

「誰も私を部長扱いしてくれないんですよぉ」


 私はこの際だからと、先生に今の部の現状を切々と訴える。先生はうんうんとうなずきながら話を聞き終えると、ニッコリと微笑みかけた。


「でも誰も代りに部長をするとは言わないんでしょ?」

「それは……」

「今の魔法少女部の部長はあなた以外に務まらないわ。自信を持って!」


 先生はポンと私の肩を軽く叩いて優しく励ましてくれた。その言葉が嬉しくて、私のやる気ゲージはすっかり回復する。我ながらチョロいなあ。


 私が部長としての立場に向き合えられるようになった頃、後輩達はタマゾーさんにしっかり指導されていた。彼は会ってすぐだと言うのに彼女達に信頼されている。

 それって、やっぱりその存在感のせいでもあるのかな。見た目が可愛い猫でも、声が渋いおっさんで、しかも魔法の実力もかなりのものみたいだし。


 そうして、一番熱心にタマゾーさんにぶつかっているのは魔法に関して人一倍向上心の高い明穂だった。彼女は自身のとっておきの魔法を見てもらおうと、その気になって積極的にぶつかっていく。

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