第4話 部長の得意魔法
「じゃあ、大体変身はそんな感じで。次は各種魔法競技だけど、私は炎魔法で行く予定」
彼女が声高らかに炎魔法を主張した流れで、仲良し3人組が後に続いた。まずは
「じゃあ私電撃!」
「魔獣を召喚します……」
物静かで臆病そうな
3人共自分の得意分野の魔法をよく理解していて、私は素直に感心する。みんな部活の時間以外でも自主トレをしていて、自分の魔法に自信を持っているのだろう。得意魔法を宣言する時の言葉に全く迷いがなかった。
うんうん、これは期待しても良さそうだ。私はいい後輩を持ったね。
そんな後輩達に負けてはいられないと、私も胸を張って自分の得意魔法を声高らかに発表する。
「私は……洗濯魔法で驚きの白さを!」
私の得意魔法は洗濯魔法。どんな洗剤よりも白くさせる自信がある。しかも洗濯魔法と言うのを知って、本に書かれていた事をちょっと真似ただけですぐに使いこなせたのだ。これってちょっとした私の自慢。
そう言う経緯もあって、すぐに後輩達からの称賛の言葉が届くはずと耳を澄ましてみたものの、実際に返ってきたのは全く別の反応だった。
「えっ」
「えっ」
「えっ」
みんな、まるで事前に練習したみたいに声を揃えて、異質なものを見る目で私の方を見つめている。この反応に私が驚いたよ、逆に。
「……え?」
その視線の冷たさに私はまた隅っこポジションに移動。そりゃね、確かにほのおーとかかみなりーとかに比べたら地味だもんね。分かってたんだよね、自分でも。
でも適正がなかったんだもん。他の魔法じゃさっぱりうまく行かなくて、それで辿り着いたのが洗濯魔法だったんだもん。部長らしさを見せるためには得意な魔法を磨くしかなかったんだもん。仕方ないんだもん……。
「すねないでください、部長」
今までと同じく、璃子に璃子に引っ張られて私はセンターに連れ戻される。戻った途端に氷空が私の顔をじいっと見つめてきた。
「せ、洗濯魔法、いいじゃないですか! 服がきれいになったらみんなびっくりですよ!」
「でしょ! これは意表をつけると思うんだよね!」
ちょっと肯定されただけで私の機嫌はすっかり元に戻る。我ながらチョロいなぁ……。こうして段々部室内の雰囲気が良くなってきたところで、この流れに明穂もしっかり乗ってくる。
彼女はぽんとわざとらしく手を打つと、まるで独り言のように語り出した。
「確かにインパクト点は高いかも。誰もそれで勝負しようなんて思わないから」
「私はこれに賭けてるからね!」
たとえ本音が皮肉だろうと、明穂から自分を認める言葉を引き出せたのが嬉しくて私は更に胸を張った。その影で璃子がボソッとつぶやく。
「そこはすねないんだ……」
こうして話が前向きに進み始めたところで、唐突に部室のドアが豪快に勢いよく開く。私達は一斉にドアのある方角に顔を向けた。
「みんな! 大会に向けて頑張ってる?」
現れたのはこの魔法少女部の顧問。趣味で魔法少女部を立ち上げた張本人でもある東條先生だ。ちょうど雰囲気的に良くなってきたのもあって、私は先生に向けてドヤ顔でサムズアップをする。
「トーゼン! 先生に優勝の経験を味あわせてあげますよっ!」
「おお、部長、やる気だねぇ」
私の自信に満ち溢れた顔を見て、先生もとても満足そうだ。このいい雰囲気に水を差すかのように、明穂が小声でボソリと現実を突きつける。
「洗濯魔法で優勝は厳しい気もしますけど……」
「しーっ」
それが地雷だと分かっていた璃子が焦ってその発言を止めようとした。でもももう遅かったよ……しっかり私の耳に届いちゃったもんね。この言葉の刃、しっかり私の心の心臓に致命的ダメージを与えちゃったからね。
心ない攻撃にダメージを受けた私は何も言わずにスーッとまたあの隅っこポジションへ。えへへ……やっぱりこの場所は落ち着くなあ。
「……」
「すねないでください、部長」
私が隅っこの部屋の机をぼうっと眺めていると、璃子がまた引っ張り出した。この子だけだよ、形だけも私を気にかけてくれるの。
いや、氷空も洗濯魔法をフォローしてくれたっけ。明穂だって大会優勝を考えているからあんな態度をとってるだけだしね。
うん、ポジティブシンキング、ポジティブシンキング……。
私達のやり取りを眺めていた先生にはこの光景が微笑ましいものに見えていたらしく、部室に入ってからのニコニコ笑顔を崩さなかった。
「うんうん、みんな頑張ってるね」
そんな顧問に対して、部員の中でも一番向上心の高い明穂が最も根本的な質問をぶつける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます