第3話 部長、すねまくる

「あの……決めポーズ、今のままでいいんですか?」

「あーそこねー」


 明穂もこの意見に同調した。これは掛け声問題よりも由々しき事態だ。私はすぐに異を唱える。


「待って、私の考えたポーズにケチつけるの?」

「もっとブラッシュアップした方がいいかなって。大会まで後3ヶ月あるし」

「じゃあここも多数決かな」


 明穂は私の意見をスルーしながら勝手に話を進める。確実に不利な多数決と言う手段を使って。1人でも味方がいるかと思って大人しく彼女に従うものの、ポーズを変えた方がいいと言う意見に3人が挙手。この数の暴力によって、またしても私が否定される結果となった。

 友達を味方にした明穂が、ドヤ顔で私の顔を見つめる。


「はい、じゃあここも再考の余地ありと言う事で」

「うう……私の考えたポーズは完璧なのに……」


 流石にこのいじめに私の脆いハートは耐えきれなかった。3人の仲良しオーラに弾かれる形で私は部室の隅っこに移動。そのまま黙って机を見つめる。あはは。

 私の存在意義って何だろうな……。


「すねないでください、部長」


 その様子を見かねた璃子りこが私を呼びに来る。ちょっとは必要とされている事が分かって何とか私は復帰した。

 確かに、今よりもっと良いものを目指そうと言うのは向上心の現れだし、悪い事じゃない。そう考えを改めた私は、しれっとポーズ改善チームの中に紛れ込んだ。


 この件については言い出しっぺの氷空そらに何かアイディアがあるらしい。そのまま任せていると、彼女はスマホを取り出てみんなに見せる。


「ポーズを考え直す件については、去年の優勝校のものを参考にしましょう」


 氷空が見せたのは去年の優勝校の演技動画。小さな画面上ではあったけれど、そこに映し出されていたのは流石は優勝校らしい完璧に洗練された動きだった。

 そもそも、メンバーの衣装も統一感があって可愛らしかったし、動きもメンバーに合わせてカッコ良かったり可愛かったりでバラエティに富んでいる。大会のために積み重ねてきたものが、ひと目見ただけで分かるほどだ。

 感心しているのは私だけじゃなくて、3人組も、その中でも明穂が熱心に動画を眺めていた。


「さすが優勝校は洗練されてるね……」


 みんなで夢中になっていると、動画の中で各部員達が変身後の名乗りを上げるシーンになる。ここで私はある一瞬に目が釘付けになった。


「ほらここ、このポーズ、私の考えたポーズとそっくり!」


 私は優勝校と同じポーズを発想出来ていた事に誇らしく胸を張る。それを見た明穂は呆れた表情を浮かべ、ジト目で私を見つめてきた。


「全編通してそこの一瞬だけね」

「た、確かにそうだけどお……」


 その一言で、自分を評価してくれないいたたまれなさがMAXに達してしまい、私はまた隅っこに移動する。それを見た璃子がすぐにまた私を連れ戻しに来た。


「すねないでください、部長」


 そうして優勝校の動画を見終わった私達は全員で検討を始める。みんな優勝校の演技の完成度の高さから、何も言葉が出てこないみたいだ。

 私達が大会で初優勝をかっさらうには、当然これより上のレベルのものを見せないといけない。この部室に集まったのはまだまだ素人に毛の生えた程度の実力しかない4人だ。簡単に現状を打破するようなアイディアが出ないのも当然だろう。

 全部員が何も言い出せない中、ここで明穂が声を上げた。


「そうだ! みんなでアイディアを出し合って、そこで考えるって言うのは?」

「じゃあ何で最初に考える時にそうしなかったの……」


 私はすぐこの意見にツッコミを入れる。最初に変身のポーズを考えるってなった時、誰もそんな事を言わなかった経緯があったからだ。

 当然、この言葉にも明穂からの容赦のないツッコミが入る。


「あの時はミチルが自分が作ってくるからって強引に話を進めたから」

「そ、それはそうかもだけどぉ……」


 そう、ポーズ決めの時、私は部長らしさを見せつけようと強引に話を進めたんだった。あの時の事をまだしっかり覚えていたとは……ぐぬぬ。

 またしても自分の居場所のなさを実感してしまった私は、すごすごと部屋の隅っこに。そうしてさっきと同じように再度璃子に引っ張られる。


「すねないでください、部長」


 結局、変身ポーズは部員みんなでアイディアを持ち寄って後日すり合わせる事になった。実質宿題だ。こうして問題のひとつが先延ばしとは言え解決した事で、話は次の段階へと移る。

 本来ならここは部長が引っ張っていくべきなのだけど、気がついたら明穂が実質的な主導権を握ってしまっていた。

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