第5話 事件の解決

 こうして姫とオークが会話にならない会話をしていると、崖の上から別のオークがひょっこりと顔を覗かせる。


「おい、そこに何があるんだ?」

「なんにもねぇーよ。ちょっと珍しい石を見つけてな」


 姫の近くのオークはそう言って姫の存在をごまかした。仲間の言葉を信用した崖の上のオークはそのままどこかへと去っていく。何故オークは嘘をついたのか、ごちそうがあるなら分け合うと言う発想はないのか。

 このやり取りの真意が分からなかった姫は、直接目の前の魔物に疑問を投げかける。


「あなた、どう言う……」

「俺はうまいものは誰にもやらないんだよ」


 そう、オークが嘘をついたのは目の前のごちそうを独り占めするため。自分の欲望に正直な魔物は目を光らせ、口を三日月状に広げてよだれを垂らし始める。

 その狂気の姿を見た姫は、恐怖で顔をひきつらせた。


「ひいいっ!」

「抵抗しないのか? ちょっとは泣き叫んでくれないとつまらんぞ?」


 邪魔者のいなくなった所で、オークはついにその残虐な本性を顕にする。ごちそうを目の前にした魔物がゆっくりと欲望ダダ漏れで姫に近付いてくる。この絶対のピンチを前にして、彼女はこの魔物の食事方法を思い出していた。以前図書室に書いてあった本によると、オークは獲物を生きたまま引きちぎって生で食べるのだ。

 つまり、もう間もなく姫の未来もそうなる運命を辿る事になる。この最悪の景色を想像した彼女は、残っていた全ての力をそれに注ぎ込むくらいの勢いで叫んだ。


「キャ、キャアアアー!」

「そうそう、それだああーっ!」


 姫の叫び声を聞いたオークは興奮して両手を上げる。テンションが最高潮に達した魔物はその勢いで彼女を引きちぎりにかかった。この瞬間、覚悟を決めた姫は襲いかかってくるであろう痛みに備えてぎゅっとまぶたを閉じる。


 それは、ちょうど俺が姫を見つけた瞬間でもあった。崖から見下ろすと、今まさにオークが彼女に危害を加えようとしている。

 俺はこの崖の高低差を利用して、あの醜悪で知性の欠片もない魔物に向かって飛び降りながら必殺のキックを繰り出した。


「スパイラルクラーッシュ!」

「ギャアアーッ!」


 俺の一撃を後頭部に受けたオークは強い衝撃を受けてそのまま地面に勢いよくめり込む。必殺のキックに位置エネルギーも加味されたのだ。もう二度と動く事はないだろう。

 突然の救いのナイトの登場に、姫は理解が追いつかないのか呆然としている。


「ジュンヤ……どうして?」

「上から見たら魔物が騒いでたのが見えたんすよ。ったく、冒険もほどほどにしてください」

「でもこれじゃああなたも遭難……」


 混乱した姫は俺の能力の事もすっかり記憶から飛んでいるのだろう。俺を一般人扱いをしている事で明らかだ。だからと言って細かく説明する気もなかった俺は、戸惑う彼女に背を向けてしゃがみこんだ。


「ほら」

「え?」

「背中におぶさって。飛びますよ」

「う、うん……」


 姫は恐る恐る俺の背中に身を預ける。しっかり乗った事を感覚で確認したところで、俺は力いっぱいジャンプした。その勢いで俺は崖を乗り越え、正規の道まで一瞬で戻る。

 そこからは彼女を降ろして2人で並んで岩山を降り、無事に街まで戻ったのだった。

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