第6話 脱走の理由
門番の見えるところまで近付くと、そこには普段の兵士の他にやり手の親衛隊隊長の姿もあった。俺は陽気に右手を上げると、彼らに向かって挨拶をする。
「おお、出迎えごくろーさん」
「あ、ジュンヤ……なんであなたは……姫?」
レイカは流石親衛隊の隊長なだけあって、俺の後ろで恥ずかしそうにしている姫に一瞬で気が付いた。この声を聞いてようやく助かった事をしっかりと自覚出来たのか、姫はすぐに彼女のもとに駆け寄って思いっきり抱きつく。
「レイカー! ごめんなさい!」
「じゃあ後は任せたぜ……親衛隊隊長さん」
「ちょ、話はまだ……」
その感動のご対面のシーンを見ながら、俺はゆうゆうと大手を振って街の中へと戻る。背後からレイカの声が聞こえてきている気もするけど、そんなのはまるっと無視だ。
俺はちゃんと姫を見つけ、そうして連れ戻した。給料分の仕事は十分果たしている。事後処理とかレイカの方が得意なんだし、つまりは適材適所だよな。
俺に話を無視されたレイカは呆れたようにため息を吐き出す。それから、さっきからギューッと抱きしめ続ける姫を引き剥がして、その可愛い顔を覗き込んだ。
「どうして姫は街を出られたのですか」
「あのね、これ……」
街を抜け出した理由を聞かれた姫は、顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら、ポケットから小さな石のかけらを差し出した。その石は俺やレイカにとってはとても重要なものだ。
ひと目見ただけですぐにその正体に気付いたレイカは、改めて姫の顔を見つめて目を丸くする。
「転移石のかけら? 本物ですか? まさかこれを探しに?」
「私、レイカ達を早く元の世界に返してあげたいの」
「そう言うのは私達がするからいいんですよ。でも、有難うございます」
転移石、それはある程度の数を集めて魔法をかけると異世界への転移を可能にすると言われているマジックアイテム。かけらは世界のあちこちに少しずつ散らばっていて、俺達はそれを探して旅をしていた。
そう、俺とレイカは転移者なんだ。転移前の記憶は封じられていて、今はほとんど思い出せない。それに、俺達を召喚した賢者は、戻りたければ転移石を集めろと言い残して姿をくらませてしまった。
あのジジイが言うには、石を集める旅をする内にこの世界に来た目的も果たされるとかなんとか。全く、迷惑な話だぜ。
その石を集める旅の途中で出会ったのがこの国の王とその姫だ。色々あって命を救われた俺達は、恩返しとしてこの国に仕えている。姫は俺達の事情を知って、岩山に隠されていた石を見つけてくれていた。それが脱走の理由だったんだ。
後でこの真相をレイカから聞かされた時は、流石の俺もびっくりしたよ。
ひと仕事終えた俺は酒場で浴びるほど飲み食いして、それから夜の街を楽しむ。治安のいいこの街の夜は最高だ。さんざん遊び歩いた俺は、あてがわれている自分の家へと帰った。
寝室の窓からはちょうど丸い月が夜の室内を淡く優しく照らしている。俺はいい気持ちになって、その光を存分に浴びた。
「今夜も月が綺麗だねぇ……ふあぁ~あ。今日は早く寝るか……」
俺はベッドに潜り込むと、一瞬で夢の世界に落ちていく。今日は流石に疲れたよ。明日も俺達はあのお転婆姫に引っ掻き回される気もしないでもない。ま、それはそれでいつもの事だ。
これからもそんな日々を気楽に楽しもう。きっとその先で俺達がこの世界に来た理由も分かるのだろうさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます