第4話 姫とオークの追いかけっこ
岩山エリアは、道さえ間違えなければ頂上から見下ろす景色が綺麗だったり、美しい造形の岩肌や雄大な滝など見どころも沢山あるエリアだ。
その代わり、森とは比べ物にならないくらい道も迷いやすいし、その道自体が危険な場所も多いし、何より森にはあまりいない危険なモンスターも多くうろついている。
普通、この岩山エリアを行く時は、ベテランの人間以外は危険回避のために複数で行動するものだ。姫がこのルートを訪れる時だって、いつも俺とレイカが付き添っていた。
俺は姫が危険な場所で迷っていない事を祈りつつ、岩山エリアに続く道を全力で駆けていった。
一方、俺が探している事を知らない姫は崖から落ちた後、正規のルートに戻ろうと知らない道を勘に任せて歩いていた。勿論行きあたりばったりに進むので、そう簡単に知っている道には出られない。
そうやって迷っている内に、彼女は自分の背丈の倍以上ある巨大な動く何かと遭遇する。そう言うものと遭遇する事が全くの想定外だった姫は、驚いて奇声を上げた。
「ひゃあ!」
彼女の目の前に現れたのは全身が緑色のオーク。岩山ではごく普通に生息するモンスターだ。オークは人間を食べる。勿論戦う術を持っている人間からすればそこまで怖い存在ではないものの、王家のお嬢様である姫にとっては到底敵うはずもない凶悪なモンスターだ。
彼女は、自分の目の前に現れたのが自分の手に負えないモンスターだと分かるやいなや、一目散に逃げ出した。
「うわわわーっ!」
姫は逃げながら何故突然目の前にモンスターが現れたのか、その謎について考え始める。岩山エリアは魔物が出るから、しっかり対策をしていたはずだと。
そこで彼女は走りながら首から下げていたペンダントの色を確認し、即絶望する。
「嘘でしょ、魔物避けの効果が切れてる……。だ、誰か助けてーっ!」
そう、彼女がしていたモンスター対策、魔法アイテムの魔物避けの効果が切れていたのだ。このアイテムは魔物から認識されなくなると言うもの。それが切れた事で、今の姫はモンスターにとって歩くごちそうとなってしまっていた。
この事実を前に、姫は大声で助けを求める。たとえその声が誰にも届かないものだったとしても――。
姫が緑の魔物から逃げ出していたその頃、俺はようやく岩山エリアの入り口に辿り着いたところだった。山の入口に立った途端、俺の第六感が騒ぎ始める。
「む! 嫌な予感がする……」
自慢じゃないけど、俺の悪い予感は結構当たる。姫に何か悪い事が起こっていると感じ取った俺はすぐに岩山を登り始めた。姫のいた痕跡を探しながら正規のルートを辿るものの、やはり彼女は見つからない。
俺はすっかり参ってしまい、最悪のパターンばかりを頭に思い浮かべてしまった。
「ここでもないのか?」
岩山は、山頂に登ればかなりの範囲を見渡せる。俺は僅かな希望を胸に、ずんずんと頂上を目指した。当然、この道中でも姫の痕跡を探しながら。
結局、何の成果も得られないまま俺は山頂に辿り着いてしまう。そこからの眺めは絶景だったけれど、今はその景色を楽しんでいる場合じゃない。俺はすぐに目を皿のようにして全方角を見下ろした。
「流石に道を外れてたらこれでも探しようが……ん?」
眼下の景色の中にわずかに感じる違和感。どうやら岩山に住むモンスターが騒いでいるようだ。俺は自分の直感を信じ、その場所へと急ぐ。どうかこの元凶の先に姫がいて、無事であるようにと祈りながら。
オークから逃げていた姫は、結局勘付かれて追いかけっこになってしまっていた。必死に逃げる彼女に対して、追いかける緑の魔物は余裕の表情。それはそうだろう、年端も行かない少女と大人の魔物、体力に絶対的な差があるのだから。
「きゃー! 来ないでー!」
「うまそうな匂いがしてくると思ったら、お前、王族かぁ……」
オークは目の前を必死で逃げる人間の正体をその嗅覚で嗅ぎ分け、姫を余裕で捕まえる。その大きな両腕でガッチリと体を拘束された彼女は、最悪を想定して最後の抵抗を試みた。
「わ、私を食べたら私死ぬわよ!」
「あっはっはっは! そうだなぁその通りだ」
「わ、笑い話じゃないわよっ!」
テンパって頭の中が真っ白になってしまった姫は、自分でも何を言っているのか分からないようだ。
ただ、自分の発言を笑い飛ばすこのオークに不機嫌になるばかりだった。
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