第3話 姫は崖下で途方に暮れる
その頃、当の姫本人はと言うと――。
「うう、今頃みんな大騒ぎよね」
街を抜け出してこっそり秘密裏に冒険をしていた彼女は、その冒険の目的を果たして帰り道を急いでいた。自分がいない事で騒ぎになると分かっていたからだ。急ぐあまり、その道中で近道を思いついてしまい、結局見事に道に迷ってしまう。
ぐるぐる知らない道を歩いていた姫は疲れからか足を踏み外してしまい、そのまま落下。崖の下で途方に暮れていた。
「ああ、本当ならこっそり帰れているはずだったのに……」
深い山の中で遭難してしまった彼女は思わず空を見上げる。こんな状態になっていても、空は青く能天気に雲を泳がせていた。
誰にも行き先を告げずに出てきてしまった以上、すぐに助けが来る可能性は限りなく低い。いつかは捜索隊が見つけ出してくれる可能性はあるものの、それまで無事でいられるかどうか……。
不安で思考がネガティブで満たされた姫は、自分のやらかした軽はずみな行為を猛省する。
「こんな事なら壁抜け以外の魔法も覚えとくんだった。私、このまま死んじゃうのかな……」
そう、姫が誰にも気付かれずに街を抜け出せたのは魔法を使ったからだったのだ。壁抜けの魔法を駆使すれば、街のどこからでも簡単に外に出る事が出来る。
この日彼女がこの冒険を思いつかなければ、こんな不幸に見舞われる事もなかった。たとえ一番の原因が、正しい道を選ばずに少し欲を出してしまった結果だったのだとしても。
そんな感じで姫が街の外で途方に暮れている頃、街で必死に彼女を探していたレイカは、更に俺まで連絡が取れなくなってしまった事に不信感を抱く。それで、事情を知っていそうな人物に片っ端から話を聞き回っていた。
何人かの関係者を経て、レイカはポンクに遭遇する。
「ねぇ、ジュンヤ見なかった?」
「さっき会ったっすけど……」
「いつ?」
「えーと、3時間くらい前……かな? 何かあったんすか?」
何も知らない彼はとぼけた顔で聞き返す。レイカは両手を腰に当てると、分かりやすく頬を膨らませた。
「あいつ、定時連絡の時に姿を見せなかったのよ」
「あー、じゃあいつものアレっすね、単独行動。あの人よくやるじゃないすか」
ポンクは何もかもお察しと言った風な雰囲気で、笑いながら冗談ぽく俺の行動パターンを推測する。やっぱりコイツ、勘が鋭いわ。
この話を聞いたレイカは、更に顔をゆでダコのように高揚させて感情を爆発させた。
「何でいつもあいつは勝手に動くのよーっ!」
「はは、ジュンヤさんらしいや」
ポンクが笑いながら俺の行動を称賛する中、怒り心頭なレイカは踏み出す一歩一歩に怨念めいた圧をかけながら踵を返す。俺の単独行動に呆れちゃったかな。
でもそれもいつもの事だ。ずっと怒っていたなら後で謝ろう、今はそれでいい。それより早く姫を見つけなければ。
街の裏門からこっそり外に出た俺は、姫の技量で行けそうな場所を推理してすぐに探し始めた。目的が分からないと空振りになる可能性もあるけれど、悩むより先に動いた方がいい。
彼女は歴戦の冒険者ではないのだ。行けるルートは限られている。
「はぁ……はぁ」
最初に俺が探したのは街の外に広がる森だった。当然姫も来た事のあるお気に入りの場所だ。この森には美しい草花や小動物、人懐っこい妖精なんかがいる。
ここで遊んでいて、つい時間を忘れてしまったんじゃないかと俺はにらんだ。そう強く確信して森を隈なく探したものの、姫どころか彼女が来た痕跡すら俺は見つけられずにいた。
「この森じゃないのか?」
歩き回って単独で確認する限界を感じた俺は、この森の住人に協力を求める事にする。
「おーい!」
「どうしたのー?」
この森には沢山の妖精が住んでいる。俺が一声かけるだけで、その好奇心旺盛で人懐っこい可愛い生き物は続々と集まってきた。7~8人くらい集まってきた所で、早速妖精達に話を持ちかける。
「このくらいの女の子を探しているんだけど、見なかったか?」
「うーん……知らないね」
「知らないね」
「分かった。ありがとな」
この森に住んでいる妖精達は素直で嘘はつかない。しかも思考がネットワークで繋がっているので、森の中で何かあれば誰かが必ず気付くはず。と言う事は、この森に姫はいないのだろう。
俺は妖精達に礼を言うと、もうひとつのルートへと急いだ。森に比べたらかなり危険なあの場所へと――。
「後は岩山エリアか……ヤバいな……」
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