第2話 掴めた手がかり

「その言葉が偽りならお前の命はない……」

「止めてくださいっすよ! 探しますよ、俺も」

「いや、お前は何も知らないんだろ? じゃあ自分の仕事を優先しろ。これは俺の仕事だ」


 一度収監されたポンクは悪いグループとは縁を切り、今は錬金術師の見習いをしている。今のコイツに一番大事なのは、早く一人前になる事だろう。それなのに、無理に俺の用事に付き合わせる訳にもいかない。

 この心中を感じ取ったのか、ポンクは軽く会釈をすると自分の仕事に戻っていった。


「分かったっす。失礼しまーっす」


 走り去るその後姿を見ながら、俺は言い忘れていた事を思い出して呼び止める。


「おい」

「姫の事っすよね。大丈夫、誰にも喋りませんから」


 ポンクは笑顔でそう言うと、そのまま雑踏の中に消えていった。あいつ、口、堅かったかな。まぁいいや、多分大丈夫だろう。

 こうしてまた1人に戻った俺は地道に足で探すのを一旦止め、別の方法で姫を探す事にした。


「あいつに頼ってみっか……」


 次に向かったのは俺の馴染みの占いの店、ララブ。かつて、この店の主が別の国から逃げてきた時に俺が便宜を図った頃からの付き合いだ。そう言う流れもあって、俺に対してはいつもタダで占ってくれる。

 しかもよく当たるんだなこれが。ま、あんまり占いに頼るのもどうかとは思うんで、どうしようもなくなった時にのみ頼る最後の手段的な場所ではあるんだけど。


 今回も、もう八方塞がりだから仕方ないよなと自分に言い訳をしながら、店のドアを開いた。


「あら、久しぶりじゃない、どうしたの?」


 店主のララブは、年齢不詳な神秘的な服装で俺をじっと見つめる。商売上、雰囲気作りは大切だ。ただ、商売が商売なだけに、俺は少し意地悪な態度を取った。


「それも分からないようじゃ、他を当たる」

「ちょっと待って、分かった! 人探しでしょ。しかも切羽詰まってる……姫ね?」


 彼女は机の上に置いた水晶玉に手をかざして、すぐに俺が何の情報を欲しているか見抜く。抜き打ちテストは合格だ。俺はすぐにララブに占いを依頼した。


「……そう言う事だ。ちょっとてくれないか?」

「お安い御用よ」


 彼女は小さく魔法の言葉を唱えながら、商売道具の水晶玉を覗き込む。いつもの占いならものの数秒で終わるこの作業が、今回に限っては少々長引いていた。この状況に少し心配になった俺は作業中のララブに声をかける。


「どうだ?」

「大変、視えない」

「まさか……」


 敏腕の占い師からの不穏な回答に、流石の俺も最悪のパターンを想像してしまった。このマイナスのオーラを感じ取った彼女は、凝視していた水晶玉から視線を上げて、安心させるように微笑みかける。


「大丈夫、死んじゃいない。ただ、具体的な位置が読めないのよ」

「もう街を出てたのかよ!」


 ララブの失せ物探しの範囲は、城壁で囲まれたこの街の中限定だ。街から出ると具体的な場所までは見えなくなってしまうらしい。

 つまり、彼女が見通せないと言う事は姫はもうこの街にはいないと言う事。


 外の世界はモンスターのうろつく危険地帯。そうでなくても、遭難しやすい険しい道も多い。今は無事でも、それがずっとそうだと言える保証はどこにもないのだ。

 俺は姫を無事に確保するためにすぐに店を出て街の外へと向かった。姫、俺が行くまでどうか無事でいてくれ!

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