説明台詞なしSSサンプル その3
お騒がわせ姫の秘密の冒険
第1話 失踪した姫
俺は焦っていた。護衛をしていた姫がいなくなってしまったのだ。王から拝命した大事な仕事なのに、こんな間抜けなミスをしてしまうだなんて情けない。
しかし、ちょっと目を離した隙に一体どこに行ってしまったって言うんだ。
俺は姫が行きそうな場所をもう一度洗い直す。公園、図書館、美術館、服屋にケーキ屋、よく行く人気観光スポットの展望台にも行ってみた。それでも見つからない。どこかで入れ違いにでもなったのだろうか。
これだけ探しても見つからないとなると、考え方を変えないといけないのかも知れないぞ……。
「ったく、参ったなぁ……」
俺は頭をかきながら姫の性格から行動を読み取ろうと脳をフル回転させる。失踪前、姫の様子におかしなところはなかったか。姫の周りでいつもと違う事はなかったか……。
「……ジュンヤ!」
顎に手を当てて考え込んでいると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。レイカだ。姫のお付きをしている親衛隊隊長で、仕事仲間で腐れ縁。姫がいなくなったのに最初に気付いたのは彼女の方なんだよな。
全く、俺の方が先に気付かないといけなかったのに。
「姫はいた?」
「いや……」
「早く見つけないとヤバイよ」
「だなぁ」
レイカとは昔からの古い付き合いで、だから普段の素の自分を出せる。彼女は俺と違って真面目なので、姫の失踪にも随分と責任を感じているようだ。
俺も姫の事を心配していないと言えば嘘にはなるけど、実はそこまで深刻には考えていなかったりもする。
何故なら城壁で守られたこの街の治安はいいし、姫自身が今までにも何度か俺達の前から姿を消していて、気がついたら平気な顔で戻っている事も多かったからだ。
そう言う過去の事例から考えて、今回の失踪もまた王家の窮屈な生活に嫌気が差してのちょっとした逃避の一種だろうと推測していたのだ。
姫だって馬鹿じゃない。進んで危険な事はしないだろうし、危険になるような行為もしないはずだ……多分。
「あいつの事だし大丈夫だとは思うけどな」
「とにかく、ジュンヤは聞き込みを続けて。私は警備兵と連携して情報を集める」
レイカはそう言うとすぐに動こうとする。俺はこの時に閃くものがあったので、彼女を呼び止めた。
「もう街にはいないんじゃないのか?」
「門番からそれらしき情報は届いてないから大丈夫なはず」
「りょーかい」
業務的な会話を済ますと、レイカはすぐに俺の前から去っていった。ま、非常時ではあるからな。俺は俺で姫を探さないと。
と言う訳で、彼女に言われた通りに目撃情報を探して聞き込みを開始する。まずは姫がよく行くお店の店員から話を聞き、次に公園周辺にいた人にも聞き込み。そこから先も姫のお気に入りの場所に行っては同じ事の繰り返しだ。
それで分かったのは、誰も今日は姫の姿を見ていないと言うもの。聞き漏らしている場所もあるかも知れないものの、俺がハッキリ認識している姫のお気に入りの場所からは何も有効な情報は得られなかった。
久しぶりに真剣に仕事をしすぎたせいで、気が付くと昼食の時間をとっくに過ぎてしまっている。
「ふぁぁ~あ。本当なら今頃昼寝の時間だよ。まぶたが重い……」
「あ、ジュンヤさんちぃ~っす」
昼飯を食いそびれた事を後悔していたその時、俺の背後で聞き覚えのあるノーテンキな声が聞こえてきた。振り向くと、以前軽い窃盗をやらかして俺が捕まえた若者が何にも考えていなさそうな顔で返事を待っている。コイツ、憎めないヤツなんだよな、いつもニコニコ笑ってるし。
こんな所で会うのも奇遇だなと、俺も釣られて笑顔になった。
「おお、ポンク、元気に更生してるかぁ~」
「バリバリ元気っす。ここで会うなんて珍しいっすね」
「ちょっとな」
姫の失踪は一応機密事項なので俺は言葉を濁す。そんな俺の態度をひと目見たポンクはノーテンキな表情を変えないまま、意外と鋭い洞察力を発揮させた。
「また姫っすか?」
「お前、勘がいいな? まさか……」
「疑わないでくださいよ! もうしっかり足は洗ったっす!」
そう、コイツ自身の罪状は軽い窃盗だけど、かつてはそれなりの犯罪グループに属していて、人さらいの手伝いとかをしていた――なんて噂もあるのだ。下っ端だったから、当時も大した仕事は任されてはいなかったみたいだけど。
いつもヘラヘラしているのでその言葉は中々に軽い。根はそこまで悪人ではないのは分かっているので、その言葉を疑うと言うほどでもないものの、逆に信用も簡単には出来ない部分がある。
なので、とりあえず俺はポンクに軽く釘を差しておいた。
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