第3話 久世君、保健室に連れていかれる

「それじゃあ、気合を入れてやる! 起きろおっ!」


 次の瞬間、俺はヤツに強引に上半身を引き上げられる。そうして教室に響き渡るビンタの音。普通の生徒ならこれ一発で目が覚める。今まではそうだったし、俺だってそうだった。

 けれど今回は違う。何度ビンタされても俺は目覚めない。夢の中の俺はビンタをされていた事にも全く気付けないでいた。


 俺が起きないせいで2発、3発とビンタは続き、傍観していたクラスメイト達も流石にやり過ぎではと思い始める。

 この暴力教師に対してクラス委員長が声をかけたのは、俺が10発以上叩かれてからだった。


「先生、それ以上は……!」

「おかしいぞこいつ、全然起きん。病気か何かじゃないのか?」


 ビンタされすぎて顔が大変な事になっても無反応な俺に、流石の横島も怯んでいる。クラス内が騒然とする中、保健委員の来夢が席を立った。


「私、保健室につれていきます!」

「あ、ああ……頼むぞ……」


 彼女に肩を抱かれながら、俺は引きずられるように教室を出た。クラス内の全員に注目されながら。来夢は俺を引きずりながら心配そうに覗き込む。


「本当に眠ってる。一体どうしちゃったの?」

「……」


 当然、話しかけられても俺は無反応。夢の世界に捕らわれているのだから仕方がない。この反応を確かめた彼女は、しっかり前を向いて保健室まで歩いていくのだった。

 とにかく、こうして俺は保健室に運ばれていく。ああ、迷惑かけっぱなしだな。本当に申し訳ないよ。



 現実世界がそうなっている事も知らず、相変わらず俺は夢の中で無邪気に笑う悪魔と対峙していた。


「で、どうしたいんだ?」

「話し相手になってよ」

「……」


 この手の話でのお約束的な展開に俺は言葉を失う。こう言った話し相手を求める悪魔的なモノとのやり取りでは、言葉を慎重に選ばないといけないがセオリーだ。

 色々と頭の中でシミュレーションを繰り返していたためにすぐに話し出せないでいると、夢魔は分かりやすく頬をふくらませる。


「ここから出たくないの?」

「お前は何者なんだよ」

「ひ・み・つ♪」


 何か話のきっかけになるかと正体を聞き出そうとするものの、当然のようにはぐらかされてしまった。これでは全く会話が始まらない。お見合いみたいに趣味とか聞くのが正解なのだろうか。ただ、今の調子だと質問系は全て誤魔化されてしまいそうだ。

 頭の中で正解が導けなくなった俺は、つい感情を爆発させる。


「何を話せって言うんだよ!」

「何か面白い話聞きたいな」

「別に何もねーよ」

「じゃあ何が好きなの?」


 質問をしていたのは俺のはずなのに、いつの間にか質問されてしまっていた。とは言え、これは好都合。自分の事を話せばきっと会話も成立するはず。問題はどう答えるかだ。

 目の前の相手は人間じゃない。下手な事を喋ったらそれがとんでもない展開になる可能性もある。色々と考えて、出来るだけ無難なものを俺は選択した。


「げ、ゲームとか?」

「じゃあそのゲームの事教えて!」

「あ、ああ……えぇと……」


 ゲームについての説明を求められた俺は少し戸惑う。ただ、こう返してくると言う事は、やはりこの夢魔は人間の世界にそこまで詳しい訳ではなさそうだ。と言う事は、ゲームについて話せばそれで満足してくれるかも知れない。

 そう考えた俺は、自分の知っている限りのゲームについてのアレコレを熱弁する。すると案の定、夢魔は目を輝かせながら俺の話に食いついてきた。



 その頃、現実世界では来夢が無事俺を保健室に運び込む事に成功。彼女は俺をベッドに寝かすと、保険医の如月先生に眠りっぱなしになった経緯を説明する。

 白衣の先生はセクシーな感じで足を組みながら、来夢の話を興味深く聞いていた。


「ふぅん、何をやっても起きないと……」

「何とか出来ます?」


 心配そうな彼女に対し、先生は何か思い当たるフシがあるのか、確信めいた表情を浮かべる。


「こう言うのは、多分、医学の領分じゃないな」

「え?」


 予想外の反応が返ってきて、来夢は少し戸惑った表情を見せた。即座に先生は安心させるように優く微笑みかける。


「知り合いに詳しいのがいるから頼ってみる。君はもうお帰り」

「よろしくお願いします!」


 対応策がある事に安心した彼女は、俺の事を先生に全て委ねて保健室を後にした。それはから先生はベッドに寝ている俺の側にやってきて、その寝顔をじいっと見つめる。


「さぁて……」

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