第2話 久世君、夢魔に絡まれる
「えっと……どうすりゃいんだ?」
「無理だよ」
「は?」
いきなり斜め上の言葉を投げかけられて、俺は目が点になる。無理ってどう言う事だ? まるっきり意味が分からない。現時点でも色々と疑問点は思い浮かぶものの、まずはこの投げかけられた謎ワードの解明に俺は取り組んだ。無理……無理? それはここが夢の中だと言うのと、何か関係しているのだろうか?
一向に正解に辿り着けない中、彼女はにニコニコ顔から一転、急にマジ顔モードになった。
「あなたは起きない。私が起こさせない」
起こさせないと言うパワーワードで、俺は一気に事態を理解した。俺に近付いてきたこの女子は、俺自身の妄想の産物じゃない。どこかからやって来て俺の夢を支配しようとしている、本物の悪魔なんだ。
直感的にそう感じ取ってしまった俺は、この自分の閃きを信じて追求する。
「まさかお前、あ、悪魔的なアレか?」
「うふふ」
「いや何でそこ誤魔化すんだよ」
「それは秘密」
悪魔は俺の追求を笑顔で誤魔化すと、確実な事は何も答えてはくれなかった。それは逆に、この直感が正しい事を意味している。何故なら、違っていたら普通に否定するはずだからだ。
夢の中で暗躍する悪魔、確か夢魔って言うのかな。この手の事にはあんまり詳しくないけど、確かそいつは人を一生夢の中に閉じ込めるとか、そんな厄介な能力みたいなのがあったはず。
この話が本当なら、俺はもう二度と目覚める事はない。悪魔が本気を出したらそれまでだ。
ショックを受けた俺はヨロヨロと後ろに
その事を思い出した俺は、咄嗟にこの方法を試す事にした。そうと決まったところで、この夢の世界の壁に向かって走り出す。
「うおおおーっ!」
「ちょ、何やって……」
突然走り出した俺を見て、今度は夢魔の方が戸惑っていた。いいぞ、ヤツが知らないと言う事は、そこに可能性があるって事だ。
俺はその後も加速を続け、この世界の壁に思いっきり頭をぶつける。子供の頃はこの方法で目を覚ましたんだ。今回もこれでいけると信じていた。
けれど、ぶつけた瞬間に俺は夢特有のあの現象を味わい、一気に失望する。
「痛っ……くない、やっぱりそうかよ!」
「何をやっても無駄よ」
どうやら、昔は成功したこの自力ショック療法だけど、今回は全く効果がなさそうだ。勝ち誇るように笑う夢魔の顔はまさに悪魔そのもの。俺は本当にもうこのまま起きられないのか……?
こうやってグダグダしている間に、現実世界ではどれだけ時間が経ってしまっているのだろう。いつまでもグズグズしていたら次の授業が始まってしまう。
もしかしてもう始まっているんじゃないのか? 俺はこの世界から逃れられない事よりも、英語の授業での力いっぱいのビンタの事が気がかりで仕方がなかった。
俺が危惧した通り、現実世界ではとっくに英語の授業が始まっていた。授業開始後、すぐに机に突っ伏している俺を見た横島はズカズカとものすごい勢いで歩いてくる。
そうして、感情丸出しで他クラスにも響き渡るくらいの大声を張り上げた。
「おい、俺の授業で寝るとはいい度胸じゃねーか!」
俺だってこの授業で眠ってなんていたくない。痛い思いなんて、それで喜ぶのはドMくらいのものだろう。ドMだってその相手が好みだから喜ぶんだ。中年の脂ぎった強面のおっさんから思いっきり引っ叩かれて喜ぶやつはこのクラスの中にはいない。この時に意識があれば、俺だって秒で起き上がると断言出来る。
でも、今の俺は外部からの音に全く反応出来なかった。注意すれば大抵の生徒は起きるはずなのにそうはならないこの現象に、横島の感情は更にヒートアップする。
「おい、聞いてんのか久世! 久世義明!」
横島の怒りゲージがまたひとつ上がった。ここで俺が起きられたなら、ビンタをギリ回避出来たかも知れない。この段階が最後の慈悲なのだ。この時点なら更に雷は落ちるだろうけど、物理的制裁は受けなくて済むはず。
けれど、残念ながら夢の世界に捕らわれていた俺は、この時点ですら机に突っ伏したまま微動だにしなかった。
暴力体罰教師の気は短いのが定番だ。当然のように、横島もまた感情が体を動かし始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます