第8話 あの子の正体
俺達はしばらく3人で並んで歩いていたものの、途中で公園を見かけたのでそこで休憩をする事に。落ち着いたところで、俺は改めて男の子の目線に合わせて向き合った。
「お前、あそこから逃げ出してたのか」
「うん……」
「まだこっちにいるのか? 帰った方がいいぞ。ここは危険だ」
俺が少し人生の先輩らしく忠告していると、それを聞いていたレイコがニマニマしながら口を挟む。
「そうよー。カズオみたいなのがいつも助けてくれるとは限らないんだから」
「分かった。おじちゃん有難う」
「よせやい、照れるぜ」
素直な男の子は俺に向かって笑いかける。うん、この笑顔のために俺は頑張ったんだな。それにしても、ここまで真っ直ぐな気持ちを向けられると照れくさくて仕方がない。
キラッキラな笑顔パワーを直視出来なくて少し顔を背けると、そこにはずーっとニマニマしっぱなしのレイコの顔があった。うう、何だか気まずいぜ……。
あのマッドな博士が研究対象にしていたので分かる通り、この子は普通の人間じゃない。事情を聞いたところで衝撃的な事実が判明する。何と目の前の見た目普通の5歳児くらいに見えるこの男の子は龍神の子供だったのだ。
地上に興味を持った彼が人間の子供に擬態して遊んでいたところで、あの博士に狙われてしまったらしい。道理で俺の姿も見える訳だ。
男の子は俺達に丁寧にお辞儀をすると、体に光をまとわせて元の龍神の姿に戻る。そうして、言われた通りに素直に空に帰っていった。
「さよ~なら~」
本来の姿に戻ったその姿は黄金色に輝く見事な龍体だ。子供とは言え、それでも全長は5メートルを軽く超えている。長年幽霊をしているけれど、龍神様を見るのは初めての経験だ。
空に昇っていく姿はとても神秘的で、俺達はあの子が完全に消えて見えなくなるまで微動だに出来なかった。
「一件落着だね。……って、いないー!」
俺よりずっと長く空を見つめていたレイコが我に返って公園を必死に見渡している。そもそも俺は彼女にいじられるのが嫌で逃げていたんだ。必要がなくなったら離れるのは当然だよな。
レイコから離れた俺は、また日課の気ままな散歩を再開させていた。開放感からふと空を見上げると、さっきまで晴れていた空に雲が集まってきている。
空の主が戻ったから雲も仕事を再開させたのかも知れないな。なんて想像をしていると、心地よいしずくが上空から降ってきた。
「お、雨だ……これで少しは涼しくなるといいな」
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