第7話 封印開放!
「カズオ、起きて!」
自分の名前を知っている聞き慣れた少女の声――ここで俺の意識はハッキリと覚醒する。このどうしようもない状況に現れた救世主はレイコだったのだ。
ただ、どうして彼女がこの場所に来れたのか、その理由がさっぱり分からずに俺は間抜けな質問をしてしまう。
「んあ……何でここに」
「いいから! とにかく開放して! 許可する!」
レイコはそう言うと俺に向かって印を切る。それは彼女と会って間もない頃に封じられた俺の力の解放を意味していた。印を切り終わり、レイコからふっと息を吹きかけられた俺に以前の力が戻ってくる。
かつて地元の暴れ神とまで言われた俺の本来の力が――。
「うおおおお!」
「お、お前達、何するつもりだ……やめろ!」
何か良くない事が起こっていると察した男が、ここでよろよろと起き上がる。手には例の銃を握っていた。その銃口を彼女に向けていると言う事は、今度は実際に人を殺せる状態になっているのだろう。
この卑怯な脅しに対して、レイコは全く怯まなかった。堂々と胸を張って男に向き合う。
「へぇ……私を撃てる? 私は普通の人間よ。撃てるの?」
「くぅぅ……お前ら、何者だ」
銃を向けられても平然としている彼女を見た男は、そのあまりの胆力に戸惑った。こうして男がレイコに目を取られている間に、俺は素早く自分に出来る事を粛々と実行する。
力を取り戻した事によって気合いで箱から壁抜けすると、自由になった俺は実験用の装置に両手を当てた。幽霊の本気を今こそ見せてやるぜ!
俺は自分の力をここぞとばかりに開放する。幽霊は機械の誤動作を簡単に起こせるのだ。いくら男が幽霊を研究して対幽霊用に霊的コーティングをしていたとしても、そんなのは完全に力を取り戻した俺にとっては何の意味も持たない。
レイコとにらめっこしていた男は、突然研究室を襲った異常事態に完全にパニックになる。
「な、何だ、電源が? システムがダウン? 有り得ない!」
研究室の機械類を完全に無効化した事で男の子は自力で脱出する。何と男の子は拘束をすり抜けたのだ。つまり、電気的な刺激か何かで男の子の物質透過能力を無効化していたと言う事らしい。流石俺の姿が見える子だ、最初から只者じゃなかったんだな。だから変な博士に目をつけられてしまったとも言えるけれど。
よっぽど自由になったのが嬉しかったのだろう。男の子はそのまま俺に向かって全力で抱きついてきた。
「おじちゃーん!」
「へへ、待たせちまったな」
抱きしめられた俺は照れくさくなって思わず鼻をこする。ぎゅうっと抱きしめられた事で、俺はこの男の子の正体を感じ取った。この子は――。
俺達はこうして無事に目的である男の子の救出に成功した。と、言う訳で、さっさとこの悪夢の部屋から出ようとしたところで、正気に戻った男が立ちはだかる。
「待て、そいつは僕の……」
「束縛!」
レイコは男に向かって勢いよく床を叩いた。するとそこから影の帯が何本も伸びたかと思うと、そのまま男に絡みついて完全に拘束する。この想定外の現象に男はまたしてもパニックになった。
「うわああ! 何だこれ!」
「じゃね。マッドな天才さん」
質量のある影に拘束された男はすっかりサナギ状態。確かアレは一日は物質化したままだったはずだ。こうして邪魔者もいなくなり、俺達は今度こそこの研究室を後にする。
後にはこの部屋の主の叫び声だけが虚しく響くばかり。もうあの男の事は忘れよう。悪い悪夢を見ていた、ただそれだけの事だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます