第6話 博士のマッドな拷問

 俺が眠ってどれくらい経っただろうか。体に溜まったダメージも徐々に回復し、俺はゆっくりと体を起こした。それにしても相当狭い場所に閉じ込められたものだ。これじゃあまるで長期移動のために狭い箱に入れられた犬や猫みたいじゃないか。

 すぐに壁抜けしようと思ったものの、特別仕様のこの箱は当然のように俺の意志を強固に阻む。


「こ、ここは……」

「おじちゃん、気がついた!」


 俺の出した声に気付いたのか、男の子の明るい声が研究室に響いた。この子への人体実験がどうなったのかは分からない。ただ、元気そうにしているところから、まだそこまで酷い事はされてはいないのだろう。

 とは言え、まだあの謎の機械に身体を束縛されたままではあるのだけれど――。


「ほう、これはお早いお目覚めで……」

「お、お前……」


 俺が男の子と話していると、当然あのマッドな博士も異変に気付く。ヤツは勝ち誇った顔で俺を笑いながら見下すように見下ろしていた。この態度にムカついた俺は何とかこの狭い箱から出ようと何度も何度も体をぶつける。何かの拍子に無理矢理にでも出られないかと思ったのだ。

 勿論それはただの悪足掻あがきでしかなく、男はそんなの俺の行動をまるで喜劇を見るような目で楽しんでいた。くそっ、どうにも出来ないのかよ……。


「抵抗するなら完全に消滅させるだけですよ?」

「な、何を……」

「それだけ僕は君らを知っていると言う事です」


 男の静かで落ち着いた声のトーン。それはその言葉がハッタリなどではない事を意味していた。ヤツは俺のような霊体についてもきっちりと調べ尽くしていて、その気になればその言葉の通りに俺を消滅させる事すら容易に出来るのだろう。

 自分が消えてしまうイメージを思い浮かべた俺は、恐怖で顔がひきつる。


「ま、まさか……」

「今の僕はあいつの研究に夢中なんですよ。邪魔しなければ後で開放します。全て終わった後にね……」

「そ、そんな事!」

「うるさいな……」


 俺の口先だけの抵抗が気に障ったのか、男は俺に向かって遠隔操作装置を操作する。次の瞬間、俺を閉じ込めていた箱から謎の光が照射されて、その強烈な力で俺の体に酷い衝撃が走った。

 全身を強く焼かれるような痛みが走り、たまらずに俺は悲鳴を上げる。


「ぎゃああ~っ!」

「おじちゃーん!」

「あーはっはっは! もっと、もっと泣きわめいてください! 良いデータが取れる!」


 ヤツは俺を痛めつけて面白がっていた。正直その態度にはムカついたものの、俺に興味が移っている間は男の子は何もされていない。あの子が酷い事をされるくらいならどれだけ痛めつけられても構わないと、俺はこの痛みに必死に堪えていた。

 とは言え、このままこの刺激を受け続けていたらさっきの言葉通りに俺は消滅してしまうのだろうか。それを考えると、勝ち目のない戦いに挑む空しさすら感じてしまうのだった。



 俺が痛みに耐え続けてどれだけ経っただろう。後どのくらい耐えられるのだろう。もうほとんど何も考えられずにいると、バタンと大きな音が聞こえた。そうして力強い足音が近付いてくる。

 その足音は研究室の扉の前でピタリと止まり、無理やり扉を開けようとしているのか、ドカン、ドカンと衝撃音が聞こえてきた。


 この状況を前に研究室の主はと言うと、俺をいじめるのに夢中でこの非常事態に気付いていないようだ。研究室の扉が開けられるとは微塵にも思っていないからこそ生まれる余裕がそうさせているのだろう。


 しかし、次の瞬間、その扉は思いっきり派手な音と共に破壊される。強烈な爆弾でも使ったと言うのだろうか。どう言う方法を使ったのか分からないけれど、とにかくこうして扉は開き、そこから威勢のいい少女の声が聞こえてきた。


「あんた、サイテーね!」

「また不審者!」

「この超絶美少女を不審者ですってーっ!」


 その少女は不審者と言う言葉に過剰に反応し、想定外の状況に驚き慌てふためくこの部屋の主の前にずかずかと勢い良く近付く。そうして、間髪入れずに容赦なく思いっきり白衣のメガネ男をぶん殴った。


「ぐはあーっ!」


 殴られ慣れていない男は情けない声を上げて簡単にふっとばされ、研究室の壁に激突する。自分の研究だけに専念する人間特有の、全く鍛えていないひ弱な体は物理的な攻撃にとことん弱かった。

 少女はその後、度重なる強い刺激でスッカリ意識の飛んでいた俺に向かってきた。

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