第2話 謎の霊感坊や
「むう……」
俺は散歩コースの途中にある建設中の建物をぼうっと眺める。作っているのはコンビニだろうか? いつかここも完成し、そうして繁盛したかと思うとあっさり潰れてしまうのだろう。
街は生き物。建物が建っては壊されて、自分の存在の虚しさも感じてしまう。もう霊能者以外には存在を認知してもらえない俺は、一体何のために――。
思わず自分の手を見つめていると、今度は元気な子供の声が耳に届いた。
「おじちゃん!」
「ん?」
そこにいたのは見た目5~6歳くらいの無邪気そうな男の子。その子は俺と目が合うとニッコリと笑う。とは言え、そこですぐに俺が見えていると早とちりしてはいけない。近くにこの子がおじちゃんと呼ぶ誰かがいるのかと、俺はすぐに顔を左右に振った。
しかし、当然ながら該当する人物は見当たらない。まさかと思って戸惑っていると、その子はいきなり俺に抱きついてきた。
「おじちゃん、おじちゃん!」
「な、何だぁ~?」
男の子は霊体に触れる系の霊能者だった。レイコの時もそうだったけど、好奇心旺盛な子供の霊能者はヤバい。触れない系ならまだいいけど、触れる系は特に厄介だ。何故なら好奇心が暴走して俺がイジられまくるから。
その後の展開が容易に想像出来た俺は、その場から一目散に逃げ出した。気ままに過ごせるから幽霊やってるのに、子供の玩具にされるなんてゴメンだぜ。
「おじちゃん、待って!」
「うおおお~」
俺は全速力で空を飛ぶ。霊体はこう言う時に有利だ、障害物を無視出来る。霊能力のある者以外は俺に触れない。それに相手は子供、すぐにあきらめるだろう。
信号をふたつほど通り抜けた所で振り向くと、もう子供の姿は見えなくなっていた。安心した俺はほっと胸をなでおろす。
「全く、今日は厄日かよ」
そんな独り言を空気に溶かすと、俺は反転してて散歩を続ける。そこから少し進んだところだった。浮遊する俺の背後で突然可愛らしい刺激が走る。
「タッチ!」
「うおおおお! お前っ!」
何とあの子供に追いつかれていたのだ。不意を突かれたのもあって、俺は無茶苦茶大声を上げてしまう。勿論幽霊の大声だから霊能者以外には聞こえない。周りからは子供がただ無邪気に笑って独り言を喋っているだけのように見えている事だろう。
男の子は全くそう言うのを気にせずに、ただ俺の顔だけを見て無邪気に笑顔を見せる。
「楽しいね、おじちゃん」
「おじちゃんって、俺は……まぁいいか」
「おじちゃんは僕が嫌い?」
俺が塩対応したせいなのか、男の子は急にしょんぼりした表情を見せる。ここで甘い顔をしたら更に付きまとわれると思い、俺は心を鬼にした。
「嫌いも何も、さっき会ったばかりだろ」
「僕、おじちゃん好き! いい雰囲気だもの!」
「そ、そうか?」
久しぶりに向けられた子供の笑顔。最近では女の子だった頃のレイコ以来だ。素直に向けられたこの好意に当てられて、俺はつい顔をほころばせてしまった。
この子、結構幽霊扱いが上手いのかも知れない。それとも俺がチョロいだけなのか? 男の子はそんな俺を見て、さらに要求を加速させる。
「だから、遊ぼ!」
「……しゃーねーな。何がしたいんだ?」
「えーとね、おにごっこ!」
満面の笑顔でそう言われると、俺はもう拒否する事が出来なかった。こうして俺達はなし崩し的に鬼ごっこをする流れになる。
でも鬼ごっこってこれ、霊体の俺が有利すぎないか? まぁ有利な事をはいい事だと俺は自分に言い聞かせて、男の子が満足するまで遊びに付き合う事にした。
そうして、俺が了解の返事を返す前に、いきなり男の子は駆け出していく。どうやら鬼ごっこはこの時点から始まっていたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます