地の文を入れて完成させちゃう作品サンプル集

にゃべ♪

説明台詞なしSSサンプル その1

幽霊カズオの非常な日々

第1話 幽霊カズオと霊感少女レイコ

 ある夏の暑い日、幽霊の俺はいつものようにふわふわ気ままなニート生活を楽しんでいた。もう死んで200年は超えただろうか。

 一度はあの世ってところにも行きかけたんだけど、何となくやり残した事がある気がして舞い戻ってしまった。戻った瞬間に何をやり残したのか忘れてしまって、そこからは何も考えない事にしている。

 もう今となってはどうでもいい話だからな。


 この200年はまさに激動の時代で、社会がとんでもなく変化している。俺が関われないのはすごく辛いけど、責任のない分気楽でもあった。

 戦争も様変わりしたし、娯楽も様変わりした。当然、人々の生活も――。きっとこれからも人は変化し続けるのだろう。


「ふぁぁ~あ……。今日もまた溶けそうに暑い……」


 人は死んだら暑さ寒さとは無縁になる……そう思っていた頃もあった気がするけど、何と実はそうじゃなかったんだ。体がないから食欲も特にないのだけれど、ついでも睡眠欲も疲労回復以外にないんだけど、暑さ寒さはしっかり感じるんだよ。


 もう死んでいるから暑さ寒さでは死なないんだけど、死なないのに暑いのも寒いのも霊体には結構な影響があるんだ。最近はどんどん夏は暑くなるし、困ったもんだ。ま、地獄の業火に比べたらまだマシなのだろうけど。

 俺、きっと地獄に行くのが嫌で浮遊霊やってるってところもあるんだろうな。そんな気がする。


 今日も朝から無茶苦茶暑いって言うのに、人間達は早くから身なりを整えて仕事に向かっている。子供達は夏休みでみんなお寝坊さんだな。大人もこんなに早くから働かなくてもいいのに。

 ぞろぞろと電車に向かう人の流れを見ながら、俺は呆れ果ててため息を吐き出した。


「皆さん勤勉なこって」


 勤勉な子孫達を十分に観察して満足した俺はフラフラと公園へと向かう。誰もいない静かな公園のベンチに座ると、この目の前に広がる何でもない気配に安心する。平和って何でもなくて退屈な事だ。それはとても嬉しいし有り難い。幽霊になってもやっぱり人が苦しむは見ていて辛いものだからな。

 俺は肉体の体がない分、精神的な波動の刺激をより強く感じるようになってしまった。周りに笑顔で安らかな人が多いと、よりその喜びの波動を感じて嬉しくなる。


 とは言え、最近はこの公園で遊ぶ人も随分と減ってしまった。特に子供の笑顔はとても気持ちのいいものなのに……。穏やかに過ごせる今がいいと思ってはいるけれど、公園が淋しくなったのだけは本当に残念だ。

 この公園だって、10年前はまだもっと子供達で賑やかだったんだけどな。


「はぁ……」


 俺が行きつけの公園でもの思いにふけっていると、誰かが近付いてきた。気配からして子供ではなさそうだ。かと言って大人でもない、きっと学生だろう。学生の年齢にもなると、もう公園には興味もないだろうな。

 そう思った俺はその気配の事は気にせずに使われなくなった遊具をぼうっと眺め、そこに昔の記憶と重ね合わせて懐かしんでいた。

 確か10年前くらいに俺の姿が見える女の子がいて、それで――。


「あっ、カズオ!」


 いきなり名前を呼ばれた俺は驚いて声のした方向に顔を向ける。そこにいたのは当時の霊感少女、レイコだ。彼女とはそこからの腐れ縁。俺の姿を見てもビビらず、むしろ積極的に絡んでくる。

 もう女子高生になって青春時代真っ只中の年頃のはずなのに、どうして俺に絡んでくるんだ。その理由はさっぱり分からない。


 レイコはずんずんと真っ直ぐ俺に近付いてくると、そのまま両手を握り拳にして俺の顔の両脇をグリグリと押さえつける。彼女は霊体の俺に触れるのだ。つまり、当然のようにこの行為をされた俺はとても痛い。


「わ、こらやめろ!」


 俺が手でレイコの両手を払うと、今度はその隙を突かれて脇をくすぐられる。その動作の無駄のなさに今度は払いのける事が出来なかった。彼女はとてもいい笑顔で俺の弱点を執拗に攻撃し続ける。


「うりうりうり。貴様の弱点は把握済みだ~」

「うひゃうひゃひゃあ! やめろや!」


 くすぐられ続けるのも限界に達し、俺は無理やり離脱する。霊能者ってのはみんなああなのだろうか。俺をからかって遊んで全く反省しない。俺は先祖なんだぞ。最近の若者は先祖を敬うって常識はないのだろうか。俺が悪霊だったら呪ってるところだぞ、本当。

 まあでもレイコにも悪意はないし、積極的に絡んでくれるのは本当は嬉しいところもあるんだけど。これで限度ってのも考えてくれたらなぁ……。


 俺が逃げていく背後で彼女の声が届く。


「いい加減一緒に暮らそうよー!」

「やなこったぁー!」

「ちぇっ……」


 レイコはどうやら俺を気に入っているらしい。油断するとすぐに一緒に暮らそうと誘ってくる。彼女は可愛いし、俺が人間だったら、その言葉にも惹かれただろう。

 けど俺はもうとっくに死んでいる。だから彼女の俺に対する態度は愛玩動物感覚に違いない。俺にもプライドはある。ペットの代わりにされるのはゴメンだ。


 そんな厄介少女から逃げ出した俺はその辺をブラブラしていたものの、何となくモヤモヤしたものが抜けきれなかった。まぁ、そんな日もあるもんだ、幽霊にだって。

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