第4話 探している男の話



 ハンクは相変わらずロイの足跡を追うが見つからない。

近隣の街を巡って久しぶりにニルド市に帰った時、情報を売って生計を立てている遍歴職人から人形師ロイの情報を得ることが出来た。


「地下墓地…外れにある?」

「そう。そこに入っていったと、近所の蝋燭職人から聞くことが出来ました」


 職人と別れたハンクは首を捻りつつ、地下墓地についての情報を思い出す。

古い時代の墓だが、ダンジョンと化しており長らく使われていない。墓地の管理人には見つからなかったらしく、管理人は姿を見ていない。


「それで、地下に入るのかい?」


 冒険者のダンジョン内での生死は自己責任になる。

しかし、私有地であっても彼らを締め出す事は原則できない。ハンクが肯定すると、管理人は妙な男の目撃談について教えてくれた。


「地下墓地を探索した冒険者が、探し物をしてる男がいると言っていてな。こいつに探し物の在処を尋ねると、場所を教えてくれる。この時逆に尋ねられるが、知らないという以外の回答を答えてはならないそうだ」


 2人は地下墓地に足を踏み入れる。

内部ではモグラやミミズのような魔物、リビングデッドなど陰気な印象の者達だ。レイヴァンが明りを持ち、ハンクが戦闘を行う。


「探し物をしてる男に何聞くよ、レイヴァン?」

「エルドの行方でしょ」

「あぁ…そういやアイツも見つけなきゃいけないんだった…」


 2人が倒れていたダンジョンにエルドの姿は無かった。

レイヴァンの人形化を癒す結晶やハンクの変身、人形師ロイ。見つけなければいけないものが多すぎて、ハンクはエルドの捜索が頭から抜けていた。


 地下3階まで降りた頃、明りの届かない闇の向こうから足音が聞こえてきた。

息を呑んで待ち構えていると、男が一人やってきた。ガウンに身を包んだ、地下墓地にはあまりに似つかわしくない男だ。

彼はレイヴァンとハンクと鉢合わせるなり、両手に抱えるほど大きな箱を探していると尋ねてきた。


「知らない」

「…そうか」


 男は目を伏せてすれ違っていく。

ハンクはレイヴァンに目配せをする。男からいきなり尋ねられ、会話が終わってしまった。

探し物――エルドの行方が知りたいのに。


「こっちから声を掛けるなとは言われてないし、話しかけてみたらどう?」

「大丈夫?行けると思う?」


 ハンクはレイヴァンと小声で話し合うと、意を決して男に声を掛ける。


「あのさ…聞きたいことがあるんだけど」

「…なんだ?」


 男が振り向く。表情からハンクとレイヴァンに対する関心は一切窺えない。


「俺、エルドっていう魔術師を探してるんだけど」

「そいつならアクサム王国北西にある研究所にあるよ。もう行ってもいいかな?」

「あぁ、悪かったな」


 男は去っていった。

ハンクは光る結晶を落とす魔物かと思い、戦うつもりだったが先に質問されてしまった事で、戦意が頭から抜けてしまったのだ。

気が削がれてしまったハンクは、レイヴァンと共にベッド教授のもとへ、今後の相談をする為に向かった。

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