第6話 紅色の空
戦闘は夕方にまで及んだ。
武器も弾薬もこういうときのために豊富に街には用意されていた。
ロボット兵まではまだしも、あのマンモス戦車に手こずった。
巨大なバンパーは突撃する装甲車達を投げ飛ばし、40センチもある主砲は、街を無差別に瓦礫ごと吹き飛ばした。
最後はあの小太りの権力者が散々渋った秘蔵中の秘蔵……らしい。対戦車ミサイルを乱れ打ちしてようやく停止した。
被害確認は数日かかった。
ロボット兵の対処に疲れ切った俺は、枯れ木の影にヘタレ込んでしまって、彼女を捜すのを怠ってしまった。
そして、どこからかアバカスの軍団の襲撃を受けた、と聞きつけた解体屋や処理屋とよばれる後始末屋がやってくる。
ロボット兵やマンモス戦車から使える部品を引き剥がすのが仕事だ。
それと並行して、処理屋が街の外には大きな穴が開けていた。
死体を焼くための……。
酷いとだが、この戦闘で死んだ者の遺体は腐敗し、病原菌の温床になる。
昔あった医学ならその病気に対応できたかもしれない。だが、今の医学では無理だ。一番の対処は温床になるモノを焼き捨てること。血液や体液が付いたものも一緒に焼き捨てる。
嫌な仕事だが、人類を生き繋げるのには必要なことだ。
ふと運ばれてくる死体が目に入った。
彼女だった。
最後は笑っていたのか――。
乾いた血が顔に、身体に飛び散って張り付いているが、口角が上がっているように思えた。だが、よく見れば右肩は……いや、俺を慰めた右の乳房から欠けていた。
俺は手を伸ばし、残っている左手を握りしめた。しかし、そちらは酷く冷たい。
破れ掛かっている手袋の下には金属が見える。思い起こせばいつも長手袋をしていた。
片腕がないことを隠していたのか……。
今更どうでもいい。俺は彼女の頭を抱えようとした。しかし、あの傷は首元まで達しているようで、乱暴に扱えばもげてしまうかもしれない。
「別に焼くのは別料金だよ」
俺の行動に処理屋が気が付いたようだ。
身内の無い者や金がない者、知り合いみんな死んだ者は先程空けていた共同のところで焼かれる。が、金を出せば葬式のように個別に燃やしてくれる。
「頼んでいいか?」
「それが仕事だ」
処理屋は適当に人足を集めると、別の場所に穴を空けてくれた。
横を見れば同じように個別に焼かれている遺体がある。
その前には身内だろうか、恋人だろうか……。
泣き崩れる者、ボーッと立ち続ける者、呪文のような者を口ずさんでいる者……。
俺は……。
「なかなか涙が出ないものだな……」
彼女が燃えて行くのを見つめながらボソリと呟いた。
「……そんなものだ。こんな仕事をしていると人の死なんて、日常になってる」
処理屋がポンポンと肩を叩いた気がした。
俺は悲しいはずだが、目頭が熱くならなかった。
しかし、心の中では泣いた――。
まだ俺は……彼女に何も言っていないのだぞ!
彼女のことを愛していると、ハッキリと伝えていない。
それに、彼女が語ろうとした夢も聞き逃してしまった……。
情けない話……後悔することだらけだ、なのに俺は涙ひとつ流さない。
見上げると、人々の焼かれた煙が天に昇っている。
そして、西の空が夕日で染まっていた。
それは目の前で焼かれている人達と同じく、濃く、濃く、赤では表現できない色。
血のように赤く、まるで紅色に染まっていた。
夕紅とレモン味ー滅び行く人々達のとある物語ー 大月クマ @smurakam1978
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