第3話 ミカンとレモン

 先程言っていた生き残りの人類が暮らしている場所。前世代の廃墟の陰に隠れて、ひっそりと暮らしているコミュニティを、俺たちは皮肉を込めて『街』と呼んでいた。

 アバカスの軍団から守られた砦のようなところだ。

 百人ほどが暮らしているだけなので、とてもその前世代の『街』とは比べものにならないだろう。

 瓦礫でを作ってその上に重機銃を設置している。

 この数年、攻撃を跳ね返してきたから街の中は安全なはずだ。


「来た来たっ!」


 よっぽど荷物が待ち遠しかったのか、珍しくこの街の権力者が出迎えていた。

 他の住人がひもじい思いをしているところに、妙に小太りなのが腹が立つ。


「アタシ、あいつ嫌いだから……」


 彼女はゲートをくぐった際に、そいつの顔を見つけたらしい。そう言うと、荷台から駆け下り、どこかへ行ってしまった。

 俺たちはそのまま装甲車に牽引され、そいつの前で止まった。


「さあ、ようやく運んできたミカンだ。早く見せてくれ!」


 ミカン、というのは……そう言えば果物だったかな?

 部下は命令されるままトラックの荷台に飛び乗り、シートをめくる。

 その中にあったのは木箱だった。何箱もある。その中にそのミカンという果物が入っているのだろう。

 厳重に釘で留められて木箱を開けると、中からツンとした刺激臭がしてくる。


 腐っていないか?


 そうではなさそうだ。部下がその中から1つ取り出した。

 拳ほどの大きさだろうか、黄色と緑が混じっているような感じた。完全な球体ではなく、楕円形をしていた。

 それを小太りの権力者に渡した。


「これがミカンか!」


 そう言って喜んでいるが……

 ふと気が付くと、隣に酒場のマスターが立っていた。


「ありゃあ、違うな。あいつ騙されたな……」


 ボソリと呟くのが耳に入ってくる。


 騙された? もしかして食えない物なのか?


 だとしたら、止めなくては……そう思っている間に、は口にしてしまった。


「うッ 何だこれは!? 酸っぱい!? ミカンではないのか」


 といって口にした果物を吐き出した。そして、地面に叩きつける。


「一体どうなっているのだ!」

「申し訳ありません!」


 この荷物を手配したのだろうか、ひとりの部下が蹴飛ばされているのが目に入った。そして、何度も蹴飛ばされ殴られ……。


 ひょっとして、あいつが仕事の代金の支払い主か?


 だとしたら、助けないとくいっパクれる。

 そうこうしている間に、あいつは気が済んだのかその場を後にしようとしていた。


「要らないのでしたら、こちらがもらってもよろしいですかな?」


 突然、マスターがあいつに声をかけた。


「勝手にしろ!」


 もう興味がないとばかりに、あいつは行ってしまった。部下達も付いていく。

 残っているのは俺たちと、僅かな住人。それにニンマリと笑っているマスター……。


「よし、儲けたぞ!」

「何だあれは?」

「レモンだ。見たことがないのか?」

「レモン? お前のところで出しているレモネードの……」

「ああ、あんな紛い物じゃない。本物のレモンだ。この何年も見ていなかったから……」

「紛い物だったのかあれ?」


 レモネードという甘酸っぱい飲み物のことを思い出した。

 そして、疲れたときなどは心地よい感じがしていたが……今まで飲んでいたのは、偽物ということか!?


「粉末の紛い物ではなく、本物のレモネードを飲ましてやる。後で来い!」

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