第17話
冒険者になった日から1週間が経った。
1日に平均4つ程の依頼を受けながら毎日を過ごした。
そして今日も同じように依頼を受けようと思ったが…。
依頼がない。
まぁ俺のせいだ。
本来3日か4日でこなす依頼を1日でこなすというかつてないほどの早さで消化しているため、もう討伐系の依頼の残りが2つしかない。
「おいおい、お前これはどういうことだ。依頼が全くねぇぞ!」
早速トーマスに怒られる。
「いやぁ、なんかすまん。」
「すまんじゃないですよ。気付かなかった私も悪いですけど。」
ハルナさんも同意する。
「ハハハハ、ウィンくんもしかしてわざとじゃないよねぇ?」
「ギ、ギルドマスター。」
エラドがやってくる。
「HAHAHAどうだろうな。」
もちろんわざとだがすっとぼける。
「ハハハハハ、棒読みだぞ。」
「ウィンくんわざとだったんですか!?」
「依頼を無くせばランクが上がるかなぁって。」
これは本心だ。ランク昇格は1年に1回しか行われず、特例は1度もない。
だが俺は1年も待ってられない。目的のためには早くSランクになる必要がある。
「ふむ、要するにランクを上げて欲しいんだろ、ウィンくん。でもねぇランク昇格試験は1年に1回しか行われないんだよ。特例もない。」
「そこをなんとか出来ないのか。」
「無理だよ。支部ならばなおさらね。」
「はぁ、ウィンくんの無茶ぶりには困ったものです。」
「特例作っちまうとあとが大変ってことだろ。」
トーマスも俺をエラドに同意する。
だがそれは俺も分かっている。しかしねぇ、なにも俺だって勝算なしにこんなことしねぇよ。
「そういうことだよウィンくん。今回は諦め……「ギルドマスターはいますか!一大事です!」
ギルドに兵士が転がり込んできた。
すごい汗だくだな。
「あぁ、私だが。何があった。」
「災害級の魔物が現れました!テンペストコングです!狩りをしていた王太子殿下がそこに居合わせておりまして、ただいま殿下の護衛二千で応戦しております。しかしそれも殿下をお逃がしするための足止めだけです。どうかギルドの力をお貸しください!」
ザワザワザワザワ
ギルド内がざわつく。
「静まれ!皆の者! 兵士殿、現場はどこになる?」
「東門の先の森の中になります!森の奥に入るか入らないかの場所です!」
「なるほど、しかし今はSランク冒険者はほかの町に行っているため、救援はあまり期待しないで欲しい。こちらもできる限りの事はするが。」
「ありがとうございます!」
「話は聞いていたな!今すぐ行けるCランク以上のやつは早く東門を出て森へ向かえ!それ以外のやつは東門へ向かい怪我をした兵士が戻ってきた時の手当をしてやれ!ギルド職員は情報収集を急げ!」
『はい!』
エラドがテキパキと指示を出していく。
東門の森か。行ったことあるから転移魔法が使えそうだな。
「ウィンくんも早く救援に…あ、あれ、消えた?」
ハルナさんを無視して俺は既に森へ来た。
災害級の魔物のテンペストコングが暴れているのか地面が揺れている。
どこにいるかは分かるのでさっさと向かおう。
俺は早速"手加減"を解除し、音速をゆうに超えたスピードでテンペストコングのところへ向かう。
いた!あいつだ。
やつの周りにはたくさんの兵士とみられる死体が転がっている。今も数百人程の兵士が応戦している。
だがメインで今も戦っているのは他の兵士とは違う格好をした男だ。
俺はあの男を知っている。
王太子の狩りについてきた騎士団長だ。
確か父さんが足元にも及ばないと言っていたな。
だが騎士団長は先程からテンペストコングに剣で攻撃を加えているが致命傷には至っておらず、テンペストコングの攻撃を紙一重で交わしている。
王太子は逃げたのかな?
いやいたぞ。あそこで馬に乗っているイケメンだな。20歳前後と言ったところか。
東門側にテンペストコングがいるため、上手いこと逃げられないのだ。
テンペストコングを騎士団長が引き付け、その間に横をすり抜けようとするとテンペストコングが大規模な魔法を使うのだ。
1人も逃がさないということだろう。
災害級のともなると知能が高くなり、厄介になってくるのだ。
よし、俺も見てないで参戦するか。
あ、俺が出てきたことに気を取られその隙にテンペストコングが騎士団長に殴りかかろうとしている。
クソ!相手から気をそらすなよ!
バキンンンンンン
な、折れただと!
咄嗟に俺が間に入り、剣でガードしたら剣が折れてしまった。
だがこの剣も寿命だということか。
父さんに誕生日プレゼントとして貰った細剣だったんだけどなぁ。
その怒りをぶつけるように俺はテンペストコングを思いっきり殴りつけた。
「死ねええぇぇええええ!!」
バゴォォォォォォオオオンンンンンン
テンペストコングは粉々に砕け散り、その後ろの木も軒並み風圧でなぎ倒された。
場に静寂が訪れる。
「ヒッ!」
後ろを振り向くと兵士がペタリと座り込んでいて小さな悲鳴を上げた。
「き、貴様は何者だ。い、1発であいつを仕留めるなど!」
騎士団長も混乱してるようだ。
「驚かせてすまなかった。俺は冒険者だ。救援要請を聞きつけやってきた。」
「ぼ、冒険者だと!貴様のようなガキがだと!」
「あぁ、そうだ。」
「く、妄言を!貴様は化け物の化身に違いない。この私が成敗してやる!」
そう言って俺に剣を振るってきた。
短気なおっちゃんだな。
お前が敵わなかったテンペストコングを倒した俺に敵う道理があるわけないだろ。
そう思って反撃しようとする。
「止めろ!モルガ!剣を収めろ!」
「し、しかし殿下!」
「命の恩人に対して剣を振るうなどとは言語道断。貴公とて許さんぞ!」
「も、申し訳ありません殿下。」
そう言って騎士団長は剣を鞘に収めた。
王太子が俺の方へ歩みを寄せてくる。
「モルガが失礼した。僕はイルゾネルガ・フォン・ドートミールである。ドートミール王国の王太子だ。恩人殿、貴殿の名前を聞かせてくれないだろうか?」
「いや気にしてないぞ。俺はウィンバルド・スフィンドールだ。ウィンでいい。」
「貴様!殿下に向かってなんという口の利き方を!」
「良い。そのままの口調で構わない。」
「あぁ、その方が助かる。」
「チッ!」
騎士団長が舌打ちする。
そんなに俺が嫌かね。
「この度は僕達を救援して頂き誠に感謝する。」
そう言って王太子は頭を下げた。
「で、殿下ぁ。」
「気にするな。冒険者として助けるのは当たり前だ。」
「正式に父王陛下と僕から礼を言いたい。王都の城まで御足労願いたい。」
「王都かぁ。嫌だって言ったら。」
「貴様!殿下の……。」
騎士団長の言葉を王太子が手で遮る。
「それならば仕方ない。貴殿の勝手にしてもらって構わない。」
「ハハハハハ、冗談だ冗談。暇だから行くよ。依頼も少ねぇし。」
「おぉ、それはありがたい。」
その後、テンペストコングに怯えて逃げてしまった馬を呼び戻し、一旦アルテに戻ることになった。
今は馬上で王太子の隣にいる。
「しかしよう王太子、何であんたこんな所にいたんだ?王都からめっちゃ遠いぞここ。」
「ここへは視察に来ていたのだ。成人とはいえまだ若い僕に陛下からの勅命だ。社会勉強をしろと。そしてここの領主にいい狩場があるからと勧められたため、こうやって狩りをしていたのだ。」
「ふーん、なるほどね。」
「貴殿はその若さで冒険者なのか?」
「まぁな。若くても冒険者にはなれるしな。」
「貴殿は若いと同時にとてもお強い。どうしたらそれほどの力を?」
「ハハ、それは内緒だ。だがひとつだけ言っとく。この力はこの国や善良な人に振るわれることは無いと。」
「そうか。それは安心だ。」
そういった会話をしている間に町へついた。
あれこれうるさいギルドへ報告を済ませ、明日の朝出発するという王太子の話を聞き、早めに宿へ戻り眠りについた。
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