第9話日曜日の午後語。

今日は日曜日。

人々は主要な場所へと足を運んでゆく。

近所の人通りは皆無に等しかった。


一人の時間を過ごしお昼時が充分過ぎた頃

当然のように感じる。


腹が減った…


と。


近くのショッピングモールの食事処へ行けば人でごった返しているだろう。

かといってすぐ近くのコンビニ弁当というのも気乗りしない。

どうするか…


飯にありつけるのは選り好みしなければ東西南北と選択肢はある。

どれだけ歩くのか?

どんなメリットデメリットがあるのか?

お店での滞在時間はどのくらいか?

頭の中を咀嚼した結果駅裏にある大型ディスカウントストアーに決めた。

安いから。これが何よりの決め手。



車の往来は激しいが人通りは少ない。

淡々と向かってゆく。

目的地周辺に着くとただっ広い駐車場をほぼ埋め尽くすほどの車。

さすがに休日の装いだ。


店内に入れば思った通りに人が行き交っている。カートを押してる人がけっこういる。

この手のお店はカゴ一杯にまとめ買いする人が多い。

迷うことなく弁当売り場へと向かう。

並ぶ品々を分析してその中のひとつに的を絞った。


5列ほどあるレジカウンターには見当がついてた通り順番待ちをしてるお客さんで詰まっていた。

均等に人数が割り振られてるのがなんとも自然の摂理というか。

ある程度どの列が早いかは確認するものの面倒くさくなり目の前の列へと並ぶ。


カゴ一杯な人の後ろに並ぶカゴ一杯な人の後ろに並ぶカゴ一杯な人の後ろに並ぶ弁当一つだけの人。

少しばかりばつの悪さを感じる…



客一人が支払いを済ますまでに結構時間がかかっててこれはじっと待っててもイライラするだけ損だと思い

スマホで時間を潰すことに務める。


画面をいじくっている間前の客が後ろを振り返ってるのがわかった。

どれぐらい人が並んでるのか気になったのだろうか。


意識をレジの進行状況半分画面タッチ半分に向けていると自分の前に並んでる女性の方が

「よかったらお先どうぞ。」

と声をかけてくれた。

女性の顔の造形がハッキリとわかるぐらいピントをとらえていて「いいんですか?」と返す。

「ええ、私の方は多くて時間かかりますから」

「ありがとうございます。」とお礼を伝え2度ほど会釈しながら女性の前に立たせてもらう。

吊るされてる有料袋を剥がし弁当の上へ置く。前の客は会計中ですぐに自分の番になりそうだ。


こういう時ほっこりした気持ちになる反面早く済ませよと急く気持ちも沸いてくる。

財布から紙幣を抜きすぐに置ける準備は万全。


自分の番と思いきや出鼻を挫くようにレジ係りが交代する。

担当名を切り替え…会計が始まった。

言われる前に受け皿に紙幣と小銭を乗せお釣りを待つ。

去り際後ろを振り返り譲ってくれた女性にもう一度会釈して店をあとにした。



弁当の入った袋を提げてほっこりのこもった温かさを提げて来た道を戻っていくのであった。



弁当の味は正直イマイチであったが

その弁当を選んだのは間違いではなかった。




落ち着いた場所のベンチで弁当を食べ終わり一服しながらスマホをいじってると散歩中のお婆さんが前触れもなく声をかけてきた。


「雨ちょっと落ちてきたねェ」


「そうですねぇ。」

降ったまではいかないが雨粒が落ちてきたのは弁当を買いに行く前に気付いた。


「こんな雨に濡れるのはバカだけよ」

と和やかな笑顔を浮かべる反面攻撃的なことを言い始める。

そんなことわざのような文言初めて耳にする。

冗談風に装って僕の頭にも落ちてきましたよ、と言うとお婆さんはそんな言葉も耳に入ってないのかマイペースに自分の身の話しを喋り始めた。


「ワタシも52年間タバコを吸ってきたよ

タバコの値段も上がったじゃない?

それで辞めたのよ

辞めるまで苦しかった~

でも体にはどこにも異常はないよ」


へぇ~そうなんですねぇ。とその言葉に沿って相づちを打つ。


「あんたもタバコ吸ってんの?

どこのタバコ?」

と寄ってくる。

有名なタバコじゃないんですけどと返すと

「ワタシ1日二箱吸いよったんよ」

と言い始めるとけっこうなヘビースモーカーだったんですねぇと相づちを返す。

「それでも体はどこも悪くないの

病院でも見てもらったけどね」

とまた同じようなことを繰り返してくる。


「ワタシ何歳に見える?」

出た、この文言はこの手のお喋りオバサンの常套手段だ。

あえて応えたくない、もっと相手の痺れをぎりぎりきらせるまで答えないでおこうと曖昧な態度でいると

「92歳よ」

という答えがかえってきた。

模範的な反応であるが「若いですねぇ、」と心の底からの声が飛び出した。

なんとなく70代いって80代ちょいかなと思っていたがまさかの90代、

足腰もしっかりしてて歯もきれいに映え揃っていて顔はとてもハツラツとしてて

これで90代かよと目を見張った。

おまけに52年間も1日二箱タバコ吸ってて

とてもそうには見えなかった。



今はすぐそこの老人ホームに住んでいること、

買い物に行かなくて楽だということ、

ホーム内で老人同士のすれ違った時に挨拶をする人がいないと嘆いていたこと、

こちらから挨拶しても返事がなく聞こえない声でこのクソババアと文句を言っていること、

息子がとても親孝行だということ、

その嫁さんも良くできた人で毎日電話をくれていること、

ワタシのことをやよちゃん(弥生)と呼んでくれていること、

などを話してきた。


終始自分はただただ聞き役に殉ずるのみであった。

でも聞いてて嫌な気はしなかった。

まだ喋るの?とは思いつつも話しのリズムというかテンポというか聞いていて疲れないんだよね。

昔の人は話し方が上手いと思ったな。



知り合いが散歩中見知らぬ男から首を絞められたらしい。

男は要約すると話し相手もいない人付き合いもない仕事もしてないようでおかしくなって見知らぬ人の首を絞めたとかなんとか。

世の中怖い突然そんなことが起こる。

その点動物はいいね

うちもトイプードルを飼ってて今は息子の知り合いの九電工に勤めてる人にあげたけど

かわいかったねぇ。

悪いことしたら鼻をピンッとして

さっきは鼻ピンしてごめんねぇって抱いてやったら顔ベロベロ舐めまわすんよ。

犬がちゃんとわかってんのよねぇ

動物はウソつかん。怖いのは人間。

ワタシも変な人が出てくる前に帰らなくちゃ

ワタシ美人だから狙われるかもしれないからね!

おにいさんもイケメンだから早く帰らないと変な人に襲われるかもしれないよ。


ごめんね話長くなっちゃって


ではさようなら。


「さよ~なら。」




しっかり話しのオチまでつけて却っていくとは、やっぱお爺ちゃんお爺ちゃんって話しウマイね。



92歳──

90歳まで生きるって

はるか先のように思えてくる


お爺ちゃん、90歳まで生きるってどんな感じですか────



今日は見知らぬ人との交流があった日であった。

俺、珍しいことが重なる時は重なることがたまにあるんです…

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